イチオシのアーティストやコンテンツ、アイドル、人を応援する「推し活」の国内市場規模は8000億円を超え、スタジアム観戦などのスポーツ参加市場の約1.4兆円に近づいている。
この「推し」とプロスポーツなどへの応援活動がさらに国境を超え、今後大きな経済圏を形成する上で、「ファントークン」というデジタル資産は、世界中のファンコミュニティのエンゲージメントを強めていくことが予想される。
こうした中で、CoinDesk JAPANを運営するN.Avenueが2023年7月から展開している「N.Avenue club」は12月10日、推し活とスポーツ・エンターテインメントにおけるファントークンの可能性と課題を探るラウンドテーブルを開催した。
欧州の強豪サッカークラブであるパリ・サンジェルマンやインテル・ミラノの「ファントークン」を手がけるChiliz / Socios.com チーフストラテジーのマックス・ラビノヴィッチ氏がオンライン登壇したほか、会場では、フィナンシェ取締役の田中隆一氏、YOAKE entertainment代表取締役の福山正之氏、SBIデジタルアセットホールディングス 暗号資産事業統括の狩野弘一氏がプレゼン。来場者はその内容を踏まえて、「ファントークンで日本のスポーツ・エンタメ業界をどう変えられるか?」などのテーマでディスカッションも行った。
N.Avenue clubは、Web3をリサーチ・推進する企業リーダーを中心とした、法人会員制の国内最大Web3ビジネスコミュニティ。毎月開催しているラウンドテーブルは会員限定のクローズドな開催のため、ここでは当日のプレゼンテーションや議論の様子について、概要を紹介する。
推し活、スポーツエンタメを変える「魔法の」ファントークン:その商機と課題
最初のセッションは、 Chiliz /Socios.com チーフストラテジーオフィサーであるマックス・ラビノヴィッチ氏によるオンラインでのプレゼンだ。
チリーズが運営するソシオス・ドット・コムは、スポーツファントークン(代替性トークン=FT)の発行プラットフォーム。これまでに欧州の強豪クラブであるパリ・サンジェルマンやインテル・ミラノが参加、ファントークンを発行している。また今夏、SBIデジタルアセットホールディングス(SBI DAH)とパートナー契約を結び、日本市場に参入する方針を明らかにしたばかりだ。
ラビノヴィッチ氏によれば、現在、ソシオスドットコムは128のスポーツ団体、球団・チーム、リーグが活用。26ヵ国・地域のチームが登録しており、スポーツの種類もフットボール、ラグビー、F1、テニス、マーシャルアーツ、eスポーツなど幅広い。利用者は累計で220万人にのぼるそうだ。
このサービスでファンは、支援するチームのファントークンを持つことで、報酬や特典を取得したり、チームが開く特定の決定会合に参加したりできる。売り上げの半分はチームやリーグに還元され、選手の補強やスタジアムの改修など自由に使える仕組みだ。
開設から6年の歩みと現状、さらに日本での今後の取り組みや展望などについて説明したラビノヴィッチ氏は、会場からの「パリ・サンジェルマンのようなビッグクラブではなく、スモールチームでも活用できるのか」という問いに対して、「スモールチームには工夫が必要だろうが、新しいこと、大きなチームに0できないことを志向すれば、可能性はある」などと述べた。
SBI Chiliz JVがまず目指すもの
ラビノヴィッチ氏のプレゼンの後、会場で登壇したのは、チリーズとタッグを組むSBIデジタルアセットホールディングスの暗号資産事業統括である狩野弘一氏。
狩野氏は、チリーズが日本を選んだ理由について解説した後、SBIとして提供できる強みについて、SBIが金融コングロマリットであり、さまざまな金融サービスを提供、証券・銀行などでユーザーベースもあること、Web3の分野でも世界中にネットワークを持っていることなどだと話した。
今後の構想についても説明。まずは”輸入代理店”のようなイメージでチリーズの著名なブランドを日本で展開し、グループで持つ暗号資産取引所で、既存トークンの販売、海外の著名クラブのトークンを販売する。その後、日本独自のファントークンの販売し、スポーツクラブに限らず、日本にある知財を掘り起こして海外に訴求するとの考えを示した。
FiNANCiEでトークンを販売した鎌倉インテルのコミュニティで起きていること
次に登壇したのは、トークン発行型クラウドファンディングサービス「FiNANCiE」やNFT事業、IEO支援事業などを展開するフィナンシェの取締役である田中隆一氏だ。
田中氏はFiNANCiEの機能・できることや現況について説明。現状350くらいのプロジェクトがあるうち、スポーツ関連では100の団体やチーム、アスリートが活用していると明かした。
具体的な事例として、サッカー地域リーグ(神奈川県社会人 1 部リーグ)に属する鎌倉インターナショナルFC(鎌倉インテル)の鎌倉インテルトークン、コミュニティにおける取り組みを挙げた。たとえば、コミュニティのメンバーがスタジアムの名称を考えたり、企画を考えたりしているほか、地域のクラフトビール会社(鎌倉ビール醸造)と提携して企画、味やラベルの投票が行われたり、新規事業としてアパレルブランドが立ち上げられたりと活発な動きを見せていることを紹介した。
プレゼン後のQ&Aセッションでは、「フィナンシェがIEOしたトークンと、FiNANCiEプラットフォームの中のトークンの連携はあるのか?」「FiNANCiEのトークンはプラットフォームでしかやり取りできないと思うが、オンチェーン化するのか?」などのやり取りが行われた。
日本のエンタメを世界に送り出すためのWeb3
最後に、株式会社YOAKE entertainment代表取締役の福山正之氏が登壇。同社は、秋元康氏参画のY&N Brothers Inc、きゃりーぱみゅぱみゅ、Fruits Zipper所属のASOBI SYSTEM、東京ガールズコレクション主宰のW TOKYOなどが参画してできた合弁会社。
ほかにも、福山氏が副代表を務め、新しい学校のリーダーズをASOBI SYSTEMなどと共同マネージメントしているTWIN PLANETや、日本発のブロックチェーン「Astar Network」を手がけ、世界を舞台に活躍するWeb3起業家・渡辺創太氏のStartaleも参画している。
福山氏はまず、エンタメ業界で事業を進めるには製作委員会方式がとられるのが一般的で、JVを作ることは珍しいと指摘し、JVを作った背景について説明した。
エンタメ業界の課題を、「日本のコンテンツを海外にいかに出すか」だと定義した上で、「Web3などのテクノロジーに活路を見出したい」と解説。さらに、「Web3のいいところはグローバルから資金調達できることであり、従来の製作委員会形式ではできない」と述べた。
一方で、「アイドルやアーティストがトークンやNFTなどに関わると、どうしても金融的な商材として見られてしまうのが厳しい」との課題感を示し、ブロックチェーンについては、「推し活の記録と可視化」での活用を考えていると話した。
今後の予定については、JVに参画しているStartaleがソニーとブロックチェーン「Soneium」(ソニューム)を開発していることもあり、ソニュームのメインネットローンチのタイミングにあわせて、来年3月に新しいアーティストをお披露目するといい、既にオーディションが始まっているなどと話した。
ファントークンで日本のスポーツ・エンタメ業界をどう変えられるか?
プレゼン終了後、参加者は8つのテーブルに分かれて、ディスカッションを行った。テーマは「ファントークンで日本のスポーツ・エンタメ業界をどう変えられるか?」と「ファントークンに関連した、具体的な事業・企画アイディア」の2つ。6人ほどのグループを作ってディスカッションを行い、その内容を発表した。
「N.Avenue club」は毎月、ラウンドテーブルをクローズドな環境で行なっており、そこでは、国内外の先進的な取り組みが紹介されているほか、Web3に携わる会員企業の参加者らによって、最新の情報や議論が盛んに交わされている。2025年も1月以降、毎月イベントが行われる予定で、事務局は、Web3ビジネスに携わっている、または関心のある企業関係者、ビジネスパーソンに参加を呼び掛けている。
|文:瑞澤 圭
|編集:CoinDesk JAPAN編集部
|写真:多田圭佑