地方創生✕Web.3は、日本再生の切り札となるか──自治体間の “ゼロサムゲーム” に陥らないために【2025年始特集】

石破首相は「地方創生2.0」を政権の1つの旗印に掲げる。2024年10月、国会での首相就任後初の所信表明で「地方こそ成長の主役です。地方創生をめぐる、これまでの成果と反省を活かし、地方創生2.0として再起動させます」と述べ、「ブロックチェーンなどの新技術やインバウンドの大きな流れなどの効果的な活用も視野に入れ、国民の生活を守りながら、地方創生を実現してまいります」と続けた。

また自民党web3プロジェクトチーム(web3PT)座長を務め、石破政権でデジタル大臣に就任した平将明氏は、「地方創生2.0」のキーマンの1人といわれ、NFTやDAO(分散型自律組織)の活用を訴える。11月のCoinDesk JAPANのインタビューでは「NFTを購入した人がデジタル村民になり、DAO(分散型自律組織)を地域の人とともに運営するなど、ブロックチェーンは地方創生の中で必要な解決策に貢献できる」「NFT化によって、地方の体験価値をグローバル価格に引き直すことができるし、スマートコントラクトを活用して、実際に汗をかいた人に還元する仕組みができる」と語っている。

自治体の財政破綻

地方創生、地域活性化が大きな問題として浮上したきっかけの1つは、2006年に北海道夕張市が財政破綻したことだろう。それまでも地方の人口減少、東京への一極集中はニュースとなっていた。だが、最盛期には11万人、2006年には1万3000人にまで人口が減っていた自治体が350億円超の赤字を抱えて破綻したニュースのインパクトは大きかった。

夕張市はすでに1990年頃から財政破綻が避けられない状態だったとされるが、国はそうした地方自治体の苦境を解消する施策として、1999(平成11)年から2010(平成22)年にかけて大規模な市町村合併、いわゆる「平成の大合併」を進めた。

そして当時、「夕張市の次に破綻する」と囁かれたのが、島根県隠岐郡海士(あま)町、日本海に浮かぶ隠岐諸島にある町だ。だが合併は島という地理的な制約からメリットが見出だせず、実現しなかった。海士町は町独自の財政再建を選択。市長をはじめとする幹部職員の給与カット、「サザエカレー」や「隠岐牛」といった特産品の開発、最新の凍結技術を導入した海産物の鮮度向上による漁業収益アップなどに取り組んだ。

また「島留学」というユニークな制度も話題となった。2010年から「隠岐島前高校教育魅力化プロジェクト」に取り組み、全国から生徒を募集した。「島留学」は生徒増に成功。今では全国の公立高校の中で、推薦入試の倍率が最も高いレベルになっている。

今では、財政破綻寸前だった海士町を「地方創生のトップランナー」と呼ぶ人もいる。その取り組みはメディアでも紹介され、最近では2024年5月にNHKの『新プロジェクトX』で「破綻寸前からの総力戦」と題して放映された。

「地方創生のトップランナー」のジレンマ

[海士町職員で、島前ふるさと魅力化財団 還流事業本部 本部長の青山達哉氏]

財政破綻寸前の状態からは立ち直ったものの、状況がすべて改善されたわけではなかった。最大の問題は、やはり人口減少だ。「島留学」で高校の生徒数は倍になったが、高校を卒業すると、進学や就職などによってほとんどが島を去り、都市部で就職していた。つまり、島の高校は廃校寸前からV字回復していったものの、島の人口、特に生産年齢人口の減少は徐々に進んでいく状況が続いていた。

海士町職員で、島前ふるさと魅力化財団 還流事業本部 本部長の青山達哉氏は海士町や全国的な地方創生に向けた取り組みについて、「自治体にとって人口は重要な指標。その意味において現状の地方創生やまちづくりの究極的な目的として、人口の社会増を目指すことが重要になっているのではないか」とストレートに語る(注:社会増とは転入が転出を上回る状態)。

海士町で生まれ、高校卒業後は京都の大学に進学、その後Uターンした青山氏は2020年に「大人の島留学」事業を立ち上げた。全国の若者を対象とした、3カ月または1年の期間を設定した「就労型のお試し移住制度」だ。これまでに500人近くを受け入れ、そのうちの約15%が実際に海士町に移住しているという。人口2000人強の町にとっては、大きな数字だ。だが青山氏はこう続けた。

「一方でまた、『大人の島留学』期間を終えた “卒業生” を輩出し続けてしまっている側面もある。もともとは島の高校の卒業生がどうすれば島に帰ってきてくれるかを考えて始めたのが『大人の島留学』だったという背景もあったが、今度は『大人の島留学』した後、また卒業生を輩出している。その時、私たち地域側の次の打ち手として、“そうした卒業生たちがどうすれば島に移住して(戻ってきて)くれるのか” を自然と考えてしまっていることに気づいた」

消耗しない関係性

今、日本各地で取り組まれている地方創生では「関係人口」の創出・維持が叫ばれている。地域の外に住んでいるが、その地域に関心を持ち、ときに地域を訪れ、地域の活性化にポジティブな影響を生み出す人たちとの関係づくりだ。

NFTをデジタル住民票として発行し、地理的な制約を超えたデジタル村民を関係人口として生み出した新潟県・旧山古志村は、Web3 / ブロックチェーンを活用した地方創生の最初期かつ代表的な事例として知られる。その後、各地の自治体でNFTを発行する事例が続いた。さらに今では、DAO(分散型自律組織)を活用し、関係人口の創出、関係性の維持・深化を目指す事例が増えている。

2023年11月から12月にかけて自民党web3PTが開催した「DAOルールメイクハッカソン」には、全国からDAOをベースにさまざまな取り組みを行っている事業者やDAOのソリューションを提供する事業者が参加し、DAO活用に向けた環境整備について議論した。そこにも地方の農業生産者と都市部の消費者を結ぶDAO、島への移住希望者の住宅問題解決を目的とするDAO、地方での進む空き家問題に取り組むDAOなどが参加していた。

青山氏も「大人の島留学」卒業生との関係性の構築にDAOを活かそうとしており、2024年11月に「Amanowa DAO」を立ち上げ、専用アプリをリリースした。

「Amanowa DAO」アプリでは、参加者は「クエスト」と呼ばれる課題にチャレンジし、クリアすると「AMAコイン」を受け取ることができる。クエストは運営側が設定するだけでなく、参加者もクエストを設定できる。つまり、クエストの設定・解決によって島を舞台とした共創を生み出し、単なるゲームではなく、リアルな島=町に新しい動きを作ることを狙っている。

「地方の取り組みのゴールが常に移住だと、関係性の構築は難しい。移住してくれるまで追いかけ回すような関係性は消耗するだけだ。『ふるさと納税をして欲しい』『いつか移住して欲しい』という地方が都市部の人たちに、ある意味無意識的に求めてしまっているような今の動きは長くもたない。住んでいるかどうかにとらわれない新しい地域経営のあり方を目指す必要があると考えた」とAmanowa DAOの狙いを青山氏は語った。

トークン(=資金)との向き合い方

[「ないものはない」が海士町のキャッチフレーズ]

AMAコインはデジタル地域ポイントであり、法定通貨に換金できない。利益目的のDAOへの参加を防ぐためだ。

前述のDAOルールメイクハッカソンを契機に、合同会社型DAOの設立・運営についての環境整備が進み、DAOによるトークン発行が可能になった。だが、投資に対して出資額以上の配当を渡すことは制限されている。

地域活性化の取り組みに賛同して出資する人に、出資以上のリターンを出せないことは、ある意味、地域への資金流入を阻害することにつながる。この点について、平デジタル大臣はCoinDesk JAPANのインタビューに「まだ過渡的な対応」であり、「最終的には『DAO法』のような包括的な法律を作って、DAOを運営しやすくすることが必要だろう」と答えている。

AMAコインがポイントであり、法定通貨と換金できないことは、資金流入をさらに狭めてしまうことになりかねないが、そこには理由がある。海士町は「大人の島留学」と並行して「オフィシャルアンバサダー制度」を展開している。

通常、地域をPRするアンバサダーは、その活動に対して、地域が何らかの対価を支払うことが通例だが、海士町の場合は、オフィシャルアンバサダーになりたい人がお金を支払う。1万円、3万円、10万円の3つのプランがあり、宿泊、釣具レンタル、EVスクーター貸し出しなどの特典があるものの、地方創生のトップランナー、高校魅力化プロジェクトなどで関心を集めている海士町ならでは取り組みと言えるだろう。

オフィシャルアンバサダーからの収益の一部は、「Amanowa DAO」アプリのクエストを通した地域の課題解決に充てられる。町を盛り上げるための資金の使い道をDAOの中で決め、多くのクエストをクリアして多くのAMAコインを持っている人は、町への貢献度が高い人と位置づけられ、意思決定により強く関与することができる。

「稼ぐためにDAOに入るようなことはないようにした。だが、資金を積み立てて、どう活用するかをDAOで考えて、現実世界の課題解決とつなげるという両方の仕組みが回っているからこそ、両方が盛り上がるのではないかと考えている」と青山氏は述べた。

ワクワクするような方向性

[青山氏と同財団アシスタントの東條ゆかり氏。東條氏は東京出身。「大人の島留学」を経て、海士町で暮らしている]

石破内閣が政権の柱として掲げる「地方創生」。2025年はさまざまな取り組みが伝えられるだろう。だが、1つの疑問が浮かぶ。例えば、地方創生を目的にスタートした「ふるさと納税」では、大きな人気を集めて税収を確保できている自治体とそうではない自治体の格差が生まれている。「地方創生2.0」は、全国の自治体が都市部の人口を取り合って、争うようなことにならないだろうか。そうした動きも含めて、活性化と呼ぶことができるかもしれないが。

青山氏も「人口減少社会において、新しい地域経営の形は何かという問いが常にある。自治体同士で人の取り合いをしていると、ゼロサムゲームでしかない。そうではない仕組み、新しい考え方を生み出さない限りは不毛な戦いになる」と述べた。ただ、この懸念は、まだ先の話かもしれない。地域創生、地域活性化は日本が抱える緊急課題だ。

もう1つ、大きな問題がある。住民と関係人口の間の温度差だ。海士町の場合は、そこに移住者も加わる。高齢化が進む住民にNFTやDAOについて理解してもらうことは難しい。ブロックチェーン、Web3など、難解な用語が並ぶ。

「地域住民はそもそも現状は、Web3やDAOやデジタルを積極的に求めているわけではない。地方は経済的所得は都市部と比較すると高くないかもしれないが、ウェルビーイングが高く、地方だからこその豊さがある。都市の論理を持ち込んで、変化を求めても難しいのではないか」と青山氏は指摘する。

「海士町は20年前に財政破綻寸前となって以降、官民が協力しながら、島内外の海士町を応援してくださる方々と島民とが一丸となって、地方創生に向けたたくさんの挑戦や失敗を経験してきた。これまでの20数年間の中でたくさんのことにチャレンジしてきたからこそ、これからは危機感などを軸とした頑張り方ではなく、ワクワクできるような方向性を示すことが大切だと考えている」

だからこそ、海士町で取り組む「Amanowa DAO」では、クエストを通じて、「大人の島留学生」と「オフィシャルアンバサダー」との共創が促進され、それによって地域に新しい価値が生まれ続けるような “共創型DAO” を目指しているという。

共創型DAOのより具体的な姿について青山氏は「Amanowa DAOは単なるデジタルコミュニティで留まるのではなく、DAOメンバーの活動が現実の地域経営に反映されてこそ意味があるのではないかと考えている。現実の地域社会に新しい風を起こすことができたときに初めて、関係人口やデジタル、AmanowaDAOは、地域住民や社会にとって、価値を感じられるものになるのではないか。だからこそ、私たちは海士町で『大人の島留学生』というある意味、最長で1年しかいない若者たちとその卒業生、お金を払ってでも海士町に関わりたいというアンバサダーとが共創する仕組みにこだわって新しい価値を作っていきたい」と語った。

|インタビュー・文:増田隆幸
|トップ画像:海士町の風景(提供:島前ふるさと魅力化財団)
|撮影:多田圭佑

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