2024年は飛躍に向けた土壌作りの年、税制改正でアセットの広がりに期待【デジタル証券フォーラム2024 イベントレポート 前編】

12月12日、4回目となる「デジタル証券フォーラム」が、東京・兜町にあるKABUTO ONE ホールで開催された。日本経済新聞社が主催し、共催としてCoinDesk JAPANを運営するN.Avenueが参加した。

今年のテーマは「セキュリティ・トークン 変革と成長の時」。2021年に第1号となるセキュリティ・トークン(ST)が発行されて以来、市場は大きく成長してきた。ところが、2023年のST組成金額は前年比2倍以上と大きな成長を見せた一方で、2024年は前年からの伸び率は鈍化した。

その背景には、税制の課題が明確になってきたことで、その整理に時間がかかったことが挙げられる。これはまさに変革期を迎えた24年が、来年の飛躍に向けた土壌作りの1年だったということが言えるだろう。税制改正が実現する25年は、不動産以外のアセットにもSTが広がりを見せることへの期待が高まる。

当日の模様を、前編(本編)と後編に分けてレポートする。

「資産運用立国」の取り組みを加速

最初に「開場の挨拶」として登壇したのは、金融庁 総合政策局 参事官 八幡道典氏だ。政府が進める「資産運用立国」のコンセプトを紹介。岸田前政権が掲げた「成長と分配の好循環」の実現を目指すことが最大のミッションだという。「この中でも、デジタル証券は大きな成長可能性を秘めた分野だと注目している」と八幡氏は語る。

[金融庁 総合政策局 参事官 八幡道典氏]

これまでも金融庁は、デジタル証券の発展に向けて積極的に取り組んできた。2020年の金融商品取引法の改正に始まり、2023年には、資金決済法等の改正において、ステーブルコインの事業者登録の規律を導入。現在も、さらなる規制緩和や税制改正を前に進めようとしている。

2024年10月に発足した新政権の石破内閣も、前政権が推進した「資産運用立国」の取り組みを、さらに加速する方針だ。

「金融庁は、関係各位の積極的なチャレンジを力強くサポートしていきたい。何か困りごとがあれば、遠慮なくサポートデスクに相談してきてほしい」と八幡氏は語った。

2024年のST発行累計額は伸び悩み

次に登壇したProgmat 代表取締役 Founder and CEO 齊藤達哉氏は、「デジタル証券の国内外の現在地、鍵となる信託税制変化と方向性」と題した講演を行った。齊藤氏はProgmatについて、「デジタル証券とデジタル通貨のナショナルインフラを目指すスタートアップ」と紹介した。

[Progmat 代表取締役 Founder and CEO 齊藤達哉氏]

最初にデジタル証券の国内外の現在地について解説。縦軸を「ユーザー」として「リテール」か「機関投資家、法人」に分け、横軸を「主たる生活圏」として「オフチェーン」と「オンチェーン」に分ける4象限の図を示した。

「米国市場は『機関投資家、法人』で『オンチェーン』のエリアの商品提供が活発だ。また欧州は『機関投資家、法人』かつ『オフチェーン』エリアで中央銀行がデジタル通貨などのPoCに取り組んでいる印象がある」

一方、日本は「オフチェーン」での「リテール」向けの商品としてデジタル証券が出てきている認識だと述べた。

「証券会社の顧客向けに、不動産を中心としたオルタナティブ投資の選択肢のひとつとして、活況を呈していると言えるだろう」

次に、2024年の市場を振り返り、前年との差分を見てみると、次の3つのポイントがあったと指摘する。1つは、ST発行や管理基盤を提供する企業が増えたこと。2つ目が、大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)「START」が始まり、セカンダリー市場での取引が拡大していること。そして3つ目が、RWA(リアルワールドアセット)を裏付けとしたSTも登場したことだ。

「映画の持分を裏付けとしたデジタル証券は、今年初めて出てきたものだ」

またST市場規模をみると、ST発行累計額は2024年末時点で1486億円となる見込み。右肩上がりではあるものの、2024年は伸び率が鈍化し、「年初に期待していた値には届いていない」。新規発行数は、2024年が18本で、2023年と同数に留まった。2024年は、第1四半期までは発行ペースは順調だったが、6月以降、新規発行が一時停止していた期間があった。

「この時期は、税制改正要望に向けた議論を信託各社で行っていた。税制改正が各社の想定通りに実現する場合には、不動産STの実務変更が想定されるところ、信託各社とも従前実務を前提とした新規発行に慎重な姿勢を示していた」と齊藤氏は説明する。

その税制改正の要望とは、「『元本払い戻し』にかかる課税関係の明確化」と「『純資産計上される評価・換算差額等』の留保金除外」という2点だ。内容は非常にテクニカルなため割愛するが、この要望が実現する場合の不動産STへの影響を見極めるのに時間がかかったのだという。結果として、不動産ST発行にかかる諸論点につき対応可能であることが確認され、秋口より新規発行が再開された。

最後に、齊藤氏は2025年に向けたProgmatの展望を語った。

「ようやくステーブルコインの準備が整いつつある。来年は、ステーブルコインを活用したSTが出てくるだろう。また将来的には、暗号資産とデジタル証券の規制の壁が溶けてくることも考えらえる。パーミッションドチェーンとパーミッションレスチェーンのどちらのブロックチェーンにもスタンスを取れるように臨んでいきたい」

現物とJ-REITの両方の良さをデザイン

続いて「不動産STで始まるデジタル・アセットマネジメント」と題して、ケネディクス 執行役員 デジタル・セキュリタイゼーション部長 中尾彰宏氏が講演した。3.4兆円という国内最大級の運用資産規模を持つケネディクスは、2021年8月に日本初の不動産STを手がけて以来、不動産STのパイオニアとして、これまで12案件、約1400億円もの不動産をST化してきた。

[ケネディクス 執行役員 デジタル・セキュリタイゼーション部長 中尾彰宏氏]

「ケネディクスのコーポレートミッションは『不動産の限りなき可能性を切り拓く』だ。不動産STはまさにこれを体現するもので、日々新たな挑戦を続けている」と中尾氏は語る。

現物不動産は、2001年のJ-REITの登場で金融商品化が進み、投資インフラが整備されてきた。不動産STは、そのJ-REITと多くの共通点を持つが、次の点で不動産STと異なってくる。J-REITの場合、投資不動産がポートフォリオ化されており、不動産を選定するのも資産運用会社となる。また、金融商品として市場の影響を受け、価格変動が大きいことも懸念点だ。一方、不動産STは、投資対象は個別の不動産であり、選定も投資家自身が行う。さらには、価格形成も安定的だ。

「つまり、不動産STは現物不動産のような分かりやすさと安定性を持ち、J-REITのような利便性と簡便性のある不動産投資商品としてデザインすることが可能だ」

賃貸戸建を裏付けとしたSTも展開

2024年7月には、賃貸戸建「Kolet(コレット)」を裏付けとした不動産STを発行した。これはオフィスや物流などを中心に発展してきたJ-REITにはない日本初の試みだ。

「個人投資家にとって身近な戸建住宅を、STを活用して商品化することに成功した。不動産STがJ-REITとは異なる、新たな不動産投資対象の領域を改革したものとして、エポックメイキングな事例と言えるだろう」

また、STのセカンダリー市場である大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)では、ケネディクスが発行した神戸元町のホテルと名古屋栄のオフィスの2銘柄が取り扱いされている。売買出来高も増えており、少しずつ活況を呈し始めている状況だ。

「STセカンダリー市場が可視化され、証券会社を跨いだST売買が促進される効果は大きい。プライマリーで買えなかったSTをセカンダリーで買うといった利便性がさらに高まっていくことに期待したい」

さらに2025年2月には、顧客投資家との接点として重要な役割を果たす、「顧客ポータルアプリ」をリリースする予定だ。投資対象不動産の情報提供に加えて、ブロックチェーンプラットフォームと連携した資産管理機能など、様々なサービスを提供する。登録者数5万人を目指すという。

「即時性のある不動産データを通じて個人投資家のニーズを把握し、それに合わせた不動産投資運用サービスを提供していきたい」

2025年、ケネディクスは、1000億円以上の不動産をST化していく方針だ。2030年までに2.5兆円の不動産ST市場を実現するべく、最大限のコミットを続けていくという。

「来年から不動産セキュリティトークンの第二幕が始まる。ケネディクスは不動産STOの推進に加えて、デジタルセットマネジメントを本格化させていく」と、中尾氏は意気込みを語った。

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後編では、「不動産STの発展と未来への展望」「2025年、アセットの広がりでST市場はどう変わる?」と題して行われた2つのパネルディスカッションと、クロージングセッション「新進気鋭のスタートアップが語る、ST市場の変革と成長」の模様をお伝えする。

|テキスト:橋本史郎
|編集:CoinDesk JAPAN編集部
|撮影:多田圭佑