企業が将来、パブリックチェーンを “初期設定” とする理由

企業はこれまで、プライベートチェーンを選択してきた。EYのポール・ブロディ(Paul Brody)氏は、パブリックチェーンへのシフトが起こると考えている。

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過去10年、金融機関はデジタル資産向けにオープンなパーミッションレスチェーンではなく、クローズドなプライベートチェーンを選択してきた。世界最大級の銀行や金融機関の多く(ほとんどではないにしろ)は、プライベートなパーミッションドブロックチェーンに投資し、デジタル資産をテストした。だがいずれも、顧客、企業、機関投資家の支持を得られていない。

金融機関が資産をパブリックチェーンに置くのではなく、こうした取り組みを優先する主な背景には、規制や当局がパーミッションドブロックチェーンを強く推奨、場合によっては具体的に要求していることがある。だが私は、そうした時代は終わりを迎えつつあると考えている。

規制の “初期設定” は、今後数年で大きく進化するだろう。今はまだ理解できないかもしれないが、資産をパブリックチェーンではなく、プライベートチェーンに置くことを規制当局が疑いの目で見る時代はそう遠くないだろう。

この変化を促す要因は以下の3つだ。

流動性

第1に、そして最も重要なのは、流動性だ。イーサリアムのようなパブリックブロックチェーンには数百万(いずれ数十億)のユーザーが存在し、数千億ドル(いずれ数兆ドル)におよぶ資本が蓄積される。イーサリアム上で取引されるデジタル資産は、投資可能な資本を持つ顧客すべてから恩恵を受ける。

巨大でパブリックな株式市場と同様に、市場に買い手と売り手がより多く存在するほど、プロダクトが適正な価格で評価され、適正な価格を支払う買い手が見つかる可能性は高くなる。

プライベートチェーンでしか売買されないデジタル資産は、公正な価格設定の機会を得られないだろう。実際、トークン化され、プライベートチェーンで発行されたRWA(現実資産)が、純資産価値を下回る価格で取引された事例を私は知っている。

これはもちろん、RWAトークンを裏付けている資産の価値がさらに下落するだろうとの妥当な予想を反映している可能性もあるが、プライベートチェーンに通常であれば、そうした取引にすぐに飛びつくような強力なバイヤーが存在しないことを示しているかもしれない。

トークンが期待通りの価値を発揮できず、買い手がいないことに腹を立てた顧客が、規制当局に苦情を申し立てるのは、そう遠い未来ではないだろう。顧客は、プライベートチェーンでのみ取引可能な資産として販売されたことで公平な扱いを受けなかったと主張するだろう。

技術の成熟度と回復力の進化

規制当局がパブリックチェーンへの視点を変化させる2つ目の大きな要因は、技術の成熟度と回復力の進化だ。パーミッションドシステムは、離陸に成功していないばかりか、その進化も遅く、開発されたプロダクトも少ない。現在最も野心的なパーミッションドシステムでも、プロダクト数は10にも満たず、実用化されたプロダクトの多くは、ユーザー数がきわめて限られている。

パブリックチェーンを見てみよう。イーサリアムだけでも、数十万のスマートコントラクト、約3,000のプロトコルが運用され、年間数兆ドルの決済や資産移転を処理している。

イーサリアムエコシステムは、3~6カ月に一度、大幅なハードフォーク(=機能向上)を経験しており、全体的な処理能力は、メインチェーンのみでの1日あたり約100万トランザクションから、50以上のレイヤー2ネットワーク、数十の独立した分析ベンダーやコンプライアンスプロバイダー、監査プロバイダーを通じて、1日あたり数億トランザクションにまで拡大している。これは、どのパーミッションドブロックチェーンよりも桁違いに大きい。

規制当局による受け入れ

最後に、規制当局が暗号資産のフレームワークやインフラをますます受け入れるようになると、暗号資産の販売や移転に有効な顧客確認(KYC)やマネーロンダリング防止(AML)のルールは、ステーブルコインや他のデジタル資産にも有効であることを受け入れざるを得なくなるだろう。

暗号資産はパブリックチェーンでのみ存在し、世界中で広く受け入れられていることで、あらゆる種類のデジタル資産の可能性を切り拓いている。

EUのMiCA(暗号資産市場規制)」のような規制は、今後の方向性を示す好例だ。MiCAはパブリックネットワークの知識を念頭に構築されたもので、パブリックネットワークの利用を義務付けるものではないが、欧州の銀行の間でパブリックブロックチェーンシステムへの投資とイノベーションが巻き起こっている。

結論として、規制当局の安心感とコンプライアンスの観点から、プライベートネットワーク上のデジタル資産が享受してきた利点は、まだ完全ではないにせよ、失われつつある。

すでに世界中の多くの地域で、規制当局がパブリックネットワークという理由のみで、サービスを一律に阻止することはなくなっている。遅かれ早かれ、規制当局はさらに一歩踏み込み、プライベートネットワークで資産の提供を試みる者に対して、その行為について明確に説明を求めるようになるだろう。

※当記事の見解は著者のもので、EYの見解を代表するものではありません。

|翻訳・編集:CoinDesk JAPAN編集部
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|原文:Why Corporates Will Default to Public Chains in the Future