「トークン」が次の金融イノベーションをリードする理由

ビットコインETF、イーサリアムETFは2024年、大成功を収めた。だが、暗号資産における飛躍的なイノベーションは「トークン化」にあると『Web3: Charting the Internet’s Next Economic and Cultural Frontier』の著者アレックス・タプスコット(Alex Tapscott)氏は語る。

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ETF(上場投資信託)は、運用資産残高が20年足らずで1兆ドルから10兆ドル超へと拡大し、バンク・オブ・アメリカは2030年までに50兆ドル市場になると予測している。投資家がETFに惹きつけられているのは、投資信託の分散性と株式の流動性を兼ね備え、手数料も低いからだ。

だが、それだけでは成功の理由を説明できない。

ETFの核心は、かつてはほとんどの投資家にとっては手の届きにくかった資産クラスと戦略へのアクセスを民主化した金融テクノロジーだ。ETFには、地方債から外国株式、株式オプション、プライベートクレジットまで、あらゆるものが含まれる。参入障壁を下げ、柔軟性を向上させることで、ETFは人々の投資方法を根本的に変えた。

金融イノベーションの歴史

ETFの成功は驚くべきことではない。金融イノベーションは歴史を通して、アクセスの改善、摩擦の軽減、選択肢の拡大など、同様の軌跡を辿り、ときにまったく新しい市場を生み出してきた。

投資信託(1924年)は、投資家が資金をプールし、有価証券のポートフォリオに投資することを可能にした。最初のクレジットカードであるダイナースカード(1950年)は、消費者が現金を持ち歩かずに商品を購入することを可能にし、消費者クレジットの巨大市場を生み出した。

チャールズ・シュワブなどのディスカウント証券会社(1975年)は、シンプルなサービスと安価な手数料で、一般投資家の株式取引への参入を可能にした。オンラインバンキングやオンライン証券(1990年代)は、移動に制限のある人々や遠隔地に住む人々にとって、より便利で利用しやすいサービスを提供した。

こうしたテクノロジーはそれぞれ小規模な規模で始まり、市場に浸透するまでには時間を必要とした。

ニッチな商品と見なされたETF

ETFは当初、ニッチな商品と見なされていた。DIY投資家(投資アドバイスを受けずに自身の判断で投資する人)には適しているかもしれないが、投資アドバイザー、トレーダー、機関投資家、富裕層など、ウォール街の主要プレーヤーには適していないと思われていた。

確かにETFは当初はインデックスファンドとしてスタートしたが、現在ではほとんどのETFはアクティブ戦略向けにローンチされている。世界最大の資産運用会社ブラックロック(BlackRock)によると、2023年に米国上場されたETFの76%はアクティブETFであり、同年のETFへのグローバルな資金流入の21%を占めた。

同社は、アクティブETFの運用資産残高は2030年までに4兆ドルに増加する予想している。現在の9000億ドルから4倍以上の増加だ。

イノベーションのジレンマ

ETF市場の成功は、クレイトン・クリステンセン氏の著書『イノベーションのジレンマ』の好例だ。新しいテクノロジーが台頭すると、既存企業(この場合は従来の資産運用会社、銀行、証券会社)はそれを受け入れるのに時間がかかり、破壊的イノベーターが大きな先行者利益を得ることをしばしば許してしまう。

既存企業のポジションは理解できるとクリステンセン氏は記している。投資の世界では、小規模なDIY投資家は当初、彼らにとって最も関心を引かない顧客層だった。投資金額が少なく、手数料に敏感なDIY投資家は、簡単に切り捨てられる存在だった。

だがその見方は短絡的だった。既存企業は、ETF(およびオンライン証券)といった技術イノベーションがDIY投資家を成長させる可能性を見誤った。またETFが幅広い層にアピールできるとは考えなかった。

クリステンセン氏は、存在しない市場は分析できないと述べている。ETFは、それまで存在しなかった10兆ドルの市場を生み出した。新興市場が古い市場を駆逐した。

金融を民主化するトークンの可能性

トークンは、ETFと同様に、金融をさらに民主化する可能性を秘めている。

トークンに関しては、神話や誤った情報が氾濫している。多くの場合、すべてのトークンは「暗号資産」として分類されている。これは不幸なことだ。なぜなら「暗号資産」という用語は誤解を招きやすいからだ。

実際には、ほとんどではないにせよ、多くのトークンは、交換手段、価値の保存、価値の尺度という古典的な意味での「通貨」を目指しているわけではない。むしろ、トークンはシンプルに価値の入れ物と考えることが最も適切だ。標準的な輸送コンテナを考えてみよう。コンテナには、コンピューターから自動車部品、ジャガイモ、プラムの缶詰まで、ありとあらゆるものを入れることができる。

これらのプログラム可能なコンテナは、株式、債券、アート、知的財産など、あらゆる価値を表すことができる。これは、ウェブサイトが店舗、ソーシャルメディア、政府のランディングページなど、オンライン上のあらゆる情報をプログラムによって表示できることと同じようなことだ。

トークンはまた、インターネットに接続できる環境があれば世界中の誰もがアクセスでき、従来の仲介者を不要なものにする。スマートコントラクトのような組み込み技術は、かつては証券会社、取引所などが担っていた機能を自動化し、手間と手数料を削減する。

トークンにとっての最初のキラーアプリは、これまでのところ、米ドルだ。トークン化されたドルは「ステーブルコイン」と呼ばれ、ユーザーに価値をドルで移動し、保存する能力を提供する。そしてユーザーは、ドルを証券取引、貸付プラットフォームへの預け入れによる融資、新規スタートアップへの投資など、幅広い金融サービスに活用できる。

現在、ステーブルコインの流通高は1500億ドルを超え、年間で何兆ドルもの決済が行われている。数十億の人々が、ドルを所有する簡単な方法を手に入れた。これは画期的なことだ。

次の勝者は?

ETFのように、トークンは新たな市場を生み出す可能性を秘めている(数十億の人々は金融市場に資金を投資していない)。また、金融商品をより利用しやすく、カスタマイズ可能にする(トークンは無限にプログラム可能だ)。

銀行や競合がこの新しいテクノロジーへの適応に苦戦するなか、アーリーアダプターは、グローバルリーダーとしてのポジションを確立する。既存企業は、金融フロンティアを切り拓く企業に追随するか、提携する以外に選択肢はない。

ウォール街の大手企業であるブラックロック、バンガード(Vanguard)、ステート・ストリート(State Street)などが、ETFを追い風に巨大企業へと成長したように、トークン革命から次世代の金融大手が誕生する。

だが、どのような企業なのか? 候補企業は存在するが、まだ誰が勝者となるかはわからない。

|翻訳・編集:CoinDesk JAPAN編集部
|画像:Shutterstock
|原文:Why Tokens Will Lead the Next Wave of Financial Innovation