中国は米国最大の資産であるドルに対して数十年にわたる経済戦争を仕掛けている。ビットコイン戦略備蓄は、米国の影響力を回復するうえで大きな役割を果たすと、世界初のビットコイン建て生命保険を提供するMeanwhileの共同創業者兼CEO、ザック・タウンセンド(Zac Townsend)氏は語る。
◇◇◇
金融は国家間の戦いの武器としての重要性を増してる。米国の政策立案者や同盟国は、制裁やドルを準備通貨として強化するといったマクロ経済的手段にあまりにもこだわっているが、現代の戦線は進化している。今日、真の戦いはスマートフォンやグローバル通貨市場で展開されている。
中国は、米国にとって最大の資産であるドルを追い落とすために、数十年にわたる計画を遂行している。ドルは、世界の基軸通貨として米国の経済力および地政学的影響力を支える重要な存在。ドルがなければ、米国の影響力は弱まり、米国の債務はより大きな問題となる。中国共産党とクレムリンはまさにそれを望んでいる。
中国とロシアは、金の備蓄を増やしながら、数十億ドル相当の米国債を売却している。米国の制裁措置(対象国を「西洋」の経済システムから切り離すことが目的)は、自国の金融活動をコントロールし、その力を国外に及ぼすことができる者に対する抑止力としてはもはや十分ではない。
中国、イラン、ロシアなどの権威主義的な敵対国は、また国境を超えた経済システムを積極的に構築しており、これは近隣諸国のみならず、こうした国々と盛んに取引を行う同盟国をもその影響圏に引き込もうとするものだ。
例えば、日本の企業の半数以上がAlipay(アリペイ)を受け入れ、3分の1以上がWeChat Pay(ウィーチャットペイ)を受け入れている。2つの中国企業は、これにより日本の消費者および企業の個々の市場取引に関してきわめて大きな可視性を得ている。台湾をめぐる紛争の可能性など、緊張が高まった場合、中国は日本の経済を混乱させることができるかもしれない。
米国の対応策
中国は、金融テクノロジーと暗号資産(仮想通貨)を自国の金融パワーと監視をグローバルに拡大する手段と捉えている。米国は2つの方法で対応しなければならない。すなわち、金融テクノロジーとシステムを世界中に輸出すること、そしてイノベーションを抑制するのではなく、ビットコインを戦略的準備資産として受け入れることだ。
超党派の議員や政治家、とりわけ次期大統領のドナルド・トランプ氏は、インフレ対策として国のバランスシートにビットコインを保有することのパワーを認識している。これは、中国の金融戦略がもたらす経済的課題に対する米国の回復力を強化することにもなる。
米連邦準備制度は、多くの中央銀行と同様に、多様な準備資産を保有している。2024年現在、その中には約350億ドルの外貨と110億ドルの金が含まれている。こうした保有資産は米国の経済力を示し、金融危機の際には流動性を提供する。しかし、急速にデジタル化が進む世界において、このポートフォリオに暗号資産が含まれていないことはがますます目を引くようになっている。
世界中に広がり、普及が拡大しているビットコイン(BTC)は、このギャップを埋める理想的な存在だ。「デジタルゴールド」とも呼ばれるビットコインは希少なコモディティ。米国は、違法行為者から21万枚のビットコインを押収し、国としては世界最大の保有者となっている。米国は先行者利益を得て、経済の未来を確保できる可能性がある。
ビットコインのボラティリティは準備資産として不適当と批判する物もいるだろう。しかし、ボラティリティは普及が拡大し、市場が成熟するにつれて減少する可能性が高い。2021年、エルサルバドルはビットコインを法定通貨として認め、国家準備資産として購入し始めた。その価値は100%上昇(つまり2倍)にているが、売却する予定はない。
多方面戦争
米国は、すでに中国との多面的な戦争状態にあることを認識しなければならない。戦線のひとつが金融サービスであり、暗号資産は我々が持つ武器だ。この戦いに負ければ、グローバルな金融サービスと個人の金融活動は、支配、監視、優位性を重視する敵対的な国家に支配されることになるだろう。そして、我々の通貨に対する攻撃は継続されるだろう。
トランプ氏はこのことを理解しており、7月にBloombergに対して、「我々がやらなければ、中国が(ビットコインを)手に入れるだろう」と語っている。
また、アメリカの金融パワーを拡大するには、政府が民間セクターをインド太平洋地域など、激しい競争が繰り広げられている経済圏と取引できるよう支援、促進することも必要だ。議論の余地がある場合でも、米国の決済システム、銀行、ドルの利用拡大を図ることは不可欠だ。
今、敵対勢力は勝利を収めつつある。我々が戦いに参加さえしていないからだ。彼らは自国のシステム、制度、監視ツールを世界中に輸出している。一方、我々は、国家安全保障に対する深刻な脅威であるTikTokが米国のすべての世代を魅了しているにもかかわらず、ほとんど何もしていない。我々は敵と同様に金融テクノロジーを活用すべきだ。なぜなら、敵対勢力にとって最も大きな打撃をもたらすからだ。
米国は、金融テクノロジーと暗号資産をより明確に武器化すべき。例えば、イランのような敵対的な政府の国民が、スマートフォンを使って米ドル連動型ステーブルコインや決済サービスにアクセスできるようにする分散型金融テクノロジーを支持すべきだ。これにより、国民も経済活動を政府の支配から切り離すことが可能になる。本質的には、権力とはコントロールだ。警察や国家安全保障のみならず、資源や経済のコントロールだ。
世界は金融的な岐路に立っている。問題は、デジタル通貨が未来を形作るかどうかではなく、この新しい現実に我々がどう適応していくかだ。米国はビットコインを準備資産として受け入れることで、未来を形作ることができる。大胆な行動を起こすのは今だ。グローバルな金融安定性とイノベーションの恩恵は計り知れない。
|翻訳:編集:CoinDesk JAPAN
|画像:中国・上海(Shutterstock)
|原文:Why a U.S. Bitcoin Strategic Reserve Is Critical to Fending Off China