エンタメ企業として、ソニーが目指すWeb3の世界──グループ企業との連携は【事業発表会 詳報】

ソニーグループは1月14日に「Web3事業発表会」を開催し、「ブロックチェーンを中心とした包括的なWeb3ソリューションの提供を開始」として、傘下のブロックチェーン関連会社3社(Sony Block Solutions、S.BLOX、SNFT)が、ブロックチェーンの「Soneium(ソニューム)」の一般公開、暗号資産取引サービスのリニューアル版「S.BLOX」、NFT発行プラットフォームの提供という3つの新たな取り組みを開始すると発表した。

Web3事業発表会には、ソニーグループ 執行役 副社長 CSOの御供(みとも)俊元氏、S.BLOX 代表取締役社長 渡辺潤氏、元乃木坂46の高山一実氏が登壇し、Web3事業の狙い、Web3の可能性などを語った。

発表会の開催と関連するニュースは昨日、以下で報じたとおり。

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ここでは発表会のプレゼンテーションや質疑応答について詳しくお伝えする。

感動共有したいという気持ちは人類普遍

[ソニーグループ執行役 副社長 CSOの御供俊元氏]

最初に登壇したのは、ソニーグループ執行役 副社長 CSOの御供俊元氏。御供氏は「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というソニーグループのパーパス(存在意義)を紹介したのち、「エンターテインメント企業であるソニーが、なぜWeb3事業を行うのか疑問に思う人もいると思う」とプレゼンテーションを始めた。

Web3の技術はかつては投機的なマネーゲームに使われることが多かったが「ソニーが目指すWeb3を使った世界はそうではない」と述べ、古くからWeb3的な仕組みは、絵画や陶器など「クリエイティビティの高いものの流通を託せる道具」として機能してきたと説明。実際、中世の日本では茶器を収める桐箱に持ち主が名前を書き込むことでその文化的価値をさらに高めてきた歴史があり、こうした習慣は欧州にもあったと述べた。

さらに、こうした文化は「Web3に非常に似ている」とし、「自分が感動したコンテンツや、体験に共鳴した事実を示し、それを人に共有したいという気持ちは人類普遍」であり、これからは「感動の輪が広がるだけでなく、好きなものを応援し、一緒に価値を作っていく時代」と、ソニーがWeb3事業を推進する目的を話した。

クリエイターとファンの共創を活発に

続いて、S.BLOX 代表取締役社長 渡辺潤氏は、ソニーグループがパーパスのもとで掲げる3つの「Crective Entertainment Vision」に触れ、特に「境界を超え、多様な人々の価値観をつなげ、コミュニティを育む(Boundaries Transcended)」がソニーのWeb3事業の「最初の一歩になると考えている」と述べた。

つまり、今後はコンテンツを作る人と見る人の間にあった境界が、特にWeb3テクノロジーによって曖昧になり、イベント運営やSNS発信などにおけるクリエイターとファンの共創が活発になっていく。共創とは、クリエイターとファンが一緒にイベントを運用したり、投票で何かを決めたり、SNSなどで両者が寄り添っていくこととし、同時にファンがクリエイターの作品をもとに二次創作を行うなど、ファンがクリエイターになる可能性もあると指摘した。

[S.BLOX 代表取締役社長 渡辺潤氏]

そうした動きが広がるなかで、現状の課題としては、「推し活」をはじめとするファン活動は基本的に報酬を伴わないものであり、一人一人がどれだけ応援や貢献を行ったかを把握したり、証明したりできないと指摘。それをブロックチェーンを活用したWeb3が解決し、ファンとクリエイターの新しい関係構築をサポートしていくと述べた。

ブロックチェーン、トークンの役割

同日、メインネットローンチが発表されたイーサリアムレイヤー2「Soneium(ソニューム)」については、「グローバルな土地」のようなもので、その上でクリエイターが「ゲームや映像、音楽などのアプリケーション」を作り、そのアプリケーション上でのユーザー(ファン)の行動は「ブロックチェーン上に記録され、証明できるようになっていく」と説明。

つまり、誰が、どのライブに、いつ参加したのか。あるいは、クリエイターが作ったコンテンツや広告を何回拡散したかといったことがオープンな形で記録され、コミュニティへの貢献度を証明できるようになると述べた。

[ソニーグループWeb3事業発表会 プレゼンテーションより]

さらに「クリエイターとファンの共創を促すため、ブロックチェーン上のトークンやNFTが使われるようになる」とし、トークンやNFTにはさまざまな側面があり「ポイント」「通貨」「株」をミックスしたようなもので、例えば、ファンは何らかの形で貢献を行うと、トークンやNFTを得ることができ、限定グッズを購入できたり、限定ライブに参加できるなどの特典が得られるようになると述べた。

こうしたクリエイターとファンの新たな関係構築を実現する取り組みとして、NFTを活用したエンゲージメント施策を支援する「Fan Marketing Platform」を紹介。「ソニーグループ内でも、ファンの貢献・応援の可視化や、特別な体験の創出にNFTが活用される事例が生まれている」とアピールした。

Web3への入口として2つの経済圏をつなぐ

さらに、こうしたクリエイターとファンが相互に絡み合い、共創が活発化する世界を実現するには、今、リアルの世界で活発化しているコミュニティの世界、いわゆるコミュニティ経済圏と、Web3経済圏を “つなげる機能” が重要になると強調。その重要な機能を担うのが、ソニーグループ内で暗号資産交換サービスを担うS.BLOXだと述べた。

Web3経済圏は、ビットコイン(BTC)、イーサリアム(ETH)といった暗号資産をベースに動いている。一方、我々が日常生活している世界は円やドルといった法定通貨が使われており、法定通貨を暗号資産に、あるいは暗号資産を法定通貨に交換する「ゲートウェイの役割をS.BLOXが果たす」と説明した。

[ソニーグループWeb3事業発表会 プレゼンテーションより]

リニューアル版「S.BLOX」は、「システムを完全に一新し、グローバルスタンダードかつ、ソニーのスタンダードに則った使いやすいUIを目指して開発を進めた」と述べ、今後、スマートフォンアプリの展開、新しいトークンの取り扱い、グループ内外の事業者との提携を進めるとした。

プレゼンテーションの最後に渡辺氏は、インターネットの歩みとWeb3の成長を比較して、次のようにまとめた。

「インターネットのユーザー数が伸びてきたペースと、暗号資産のアクティブなユーザーが伸びてきたペースはこの10年近く、同じペースで上がってきている。今はちょうど、インターネットの2000年から2001年ぐらいの位置にある。このペースでユーザーが増えていくと、非中央集権的なこの仕組みに合わせた仕組みが必要になってくる。我々はより多くの人たちに、よりリッチなコンテンツ体験を提供して、人々に感動を提供するというソニーグループ全体の思いを叶えるために活動していく」

「怖いよねと言われた時代は超えた」高山氏

プレゼンテーションの後には、元アイドルで現在は小説を執筆するなど、クリエイターとファン両方の立場が分かると話すタレントの高山一実氏と渡辺氏によるパネルディスカッションが行われ、高山氏は冒頭、投資に興味を持ち、暗号資産やWeb3についても自分なりに調べていたので、今日、この場に参加できたことは非常にうれしいと述べた。

宝塚歌劇団の推しとしても知られる高山氏はファン心理について、推し活をしていても「自分で言うのはちょっと」と遠慮する人はいると指摘。アイドルや宝塚の推し活をするうえで、ブロックチェーンがあれば、自ら積極的に発信しなくても、簡単に自分がした活動が記録できるようになるとうれしいと期待を寄せた。渡辺氏は「推す方も推される方も大切。両者を仕組みでどうつなげられるかが重要」だと応じた。

[高山一実氏と渡辺氏]

投資については、高山氏は「金への投資は一旦お休みしているが、相場を調べることが習慣になっていて、暗号資産やビットコインの相場は毎日見ている。暗号資産はちょっと怖いよねと言われた時代は超えたと思っている」と述べた。

渡辺氏が「各国で法整備が進んだことで、金に投資することとさほど変わらない時代になっている」と応じると、高山氏は「ビットコインは金との関係が気になっている」と話した。またブロックチェーンの可能性について「今日の発表会に参加し、話を聞く前と後では、見える世界が一気に変わった」と答えた。

その他、小説などの創作活動でのWeb3の可能性や、ゼロから何かを生み出す創作以外にも、Web3を使って、1を10や100にすることにもチャレンジしたいと高山氏は語った。最後に今日の感想を聞かれると「コロナ禍でまだ声が出せない時期に卒業コンサートを行い、最後、応援してくださった方々とのつながりがちょっと薄くなってしまったことがずっと心残りだった。今日話を聞いて、ファンの方への恩返しみたいなことがやりやすくなるWeb3の可能性はとても大きいと感じた」と結んだ。

Q&A:ソニーグループでの展開は未定

パネルディスカッションの後には、渡辺氏への質疑応答が行われた。

──S.BLOXの紹介で「グループ内外の各事業者様との提携」とあったが、ソニーグループ内のプレイステーションやソニーストアでの暗号資産を使った決済は想定しているのか。

渡辺氏:今はそのような計画はない。

──今日聞いたようなクリエイターエコノミーの構想は他社も発表しており、最近はトーンダウンしている印象がある。ソニーグループが選ぶ未来は、今までと違うのか。自信や裏付けがあるのか。

渡辺氏:今までは、何かを発行したりすると投機的になりやすい仕組みになっていたと思う。法整備も進み、我々は安定した基盤で投機的でないものを作っていくことを目指している。

──ファンコミュニケーションへのトークン活用において想定しているクリエイターとは、具体的にはまずは、ソニーミュージックに所属するアーティストなどになるのか。

渡辺氏:トークン活用が鍵になるかどうかはこれからの話だが、想定しているクリエイターについて、まだソニーグループのアーティストなど、どこのアーティストで行うかは決まっていない。グループも含めて、オープンなプラットフォームとして広く使ってもらうことを想定している。

──例えば具体的にトークンを活用するとなったときには、アスター(ASTR)を使うことになるのか。

渡辺氏:トークンについて我々自身は発行する立場にない。我々のチェーンの上でどなたかがトークンを発行することはあるかもしれないが、我々が直接関与することは考えていないし、そのために、アスターを使うことは想定していない。

──Soniumeのメインネットローンチに関して、1700件を超える応募から選考を勝ち抜いた32プロジェクトとの情報があるがこの詳細は。

渡辺氏:Soniume Spark(ソニュームスパーク)というインキュベーションプログラムを実施した。世界から1700以上のプロジェクトから応募があり、我々がアワードを出したのが32のプロジェクト。主にゲーミングなどのエンターテイメント領域と、DeFi(分散型金融)の領域がメインだった。

◇◇◇

「ソニーグループWeb3事業発表会」と銘打たれた発表会は、確かにブロックチェーン関連会社3社の取り組みを発表するものだった。だが、ソニーグループ全体として、ゲーム、金融、音楽、映画、エレクトロニクスの各事業とどう連携していくかは現段階では明らかにされなかった。

例えば、ソニー銀行はすでにWeb3エンターテインメント領域を対象とした「Sony Bank CONNECT」をリリースしている。さらにステーブルコインの発行に向け、Polygon Labsなどと実証実験の検討を開始している。ここでは、チェーンはPolygon PoSとなる。

こうしたグループ内でのブロックチェーン関連の取り組みは、いずれSoniumeに集約していくことになるのだろうか。大きな期待と同時に、疑問もまだ残っている。

|文・編集:CoinDesk JAPAN編集部
|写真:多田啓介、CoinDesk JAPAN編集部