統合や移行を経て、国内のチェーン事情はどうなる【後編・レイヤー1編】──グローバル vs ローカルの第2幕

前編ではレイヤー2の動向を見てきた。後編では、レイヤー1を見ていこう。

前編で紹介したa16z cryptoのレポート「State of Crypto Report 2024: New data on swing states, stablecoins, AI, builder energy, and more」が指摘したように、2024年はミームコインの発行母体となったソラナの躍進が目立った。レポートによると、2024年9月時点での2億2000万超の月間アクティブアドレスのうち、半分近くの1億をソラナが占めている。

ソラナ:ミームコイン人気で躍進

ソラナは国内では、5月に「Superteam Japan」が発足して日本に本格参入、8月には大型イベント「Super Tokyo」を開催した。

ソラナ、日本に本格参入──元dYdXの大木氏がSuperteam Japan代表就任【インタビュー】

グローバルでは、ビットコイン、イーサリアムに続くETF(上場投資信託)登場への期待から価格が高騰した。そしてデータで見ても、2024年、ソラナを彩ったのはミームコインだった。

DefiLlamaでチェーンやプロジェクトの収益(Revenue)を見ると、直近30日間のトップは、ステーブルコインUSDTを発行するTether(テザー)、2位は同じくステーブルコインUSDCを発行するCircle(サークル)、次いでイーサリアムとなっているが、4位にはソラナ基盤のミームコイン発行プラットフォームPumpがランクインしている。5位のソラナ自体を上回っているほどだ(ちなみに、7位、8位もソラナ上のプロジェクトだ)。

[DefiLlama]

2024年、新規開発者が一番集まったのも、ソラナだった。

2024年、新しい開発者を最も呼び寄せたのはソラナ:Electric Capital

開発者については、a16z cryptoのレポートも取り上げており、最も関心を集めているのは依然としてイーサリアム(20.8%)だが、ソラナが11.2%で続いている。レイヤー2のBaseは10.7%、Polygon PoSも7.9%となっている。

2023年から2024年の伸び率で見ると、ソラナがトップで+6.1%、Baseが続いて+2.9%だ。

[State of Crypto Report 2024より]

ミームコインについては、批判もある。Superteam Japan代表の大木氏は、それを踏まえつつ、「プロダクトは使われてなんぼです」と語り、次のように続けた。

「自分たちがいくら『良い』プロダクトを作ったと思っていても、マーケットでユーザーから評価されなければ意味がありません。ソラナは、世界的に、この点にかなり敏感です。その一つの結晶となったのが、ミームコインブームでしょう。『あんなふざけたトークンに何の価値があるのか』という声をよく聞きますし、他のチェーンの重鎮的な人からも苦言を呈されることがありますが、それらはマーケットの声を軽視していると感じています」

ソラナの国内での課題は、エンタープライズでの事例づくりだろう。大木氏によると、Stepnなどを輩出したソラナのグローバルハッカソンに10月、日本から前回の約2倍の58チームを送り出すなど、開発者やスタートアップでの注目は高まっている。だが大手企業での採用例などは、まだ聞こえてこない。

2025年の取り組みについて大木氏は「地方自治体や企業にソラナの活用を促進すると同時に、日本のスタートアップを育成する取り組みを両立して進めていきます」「とりわけ地方創生や金融、インフラの分野に注力する予定です」と語った。

Avalanche(アバランチ):エンタープライズで存在感

一方、a16zのレポートを見ると、アクティブアドレスは40万とソラナの1億からは後塵を拝しているものの、エイタープライズ分野、特に日本企業のブロックチェーン採用で存在感を強めているのがAvalanche(アバランチ)だ。

アメリカでは伝統的金融大手がトークン化MMF(マネーマーケットファンド)を発売するなど、ブロックチェーン利用が進んでいる。その他にも、カリフォルニア州自動車局が4200万枚の自動車登録証をAvalancheを使ってデジタル化している。そうした動きに比べると、日本企業はまだ慎重。だがその中でも、2024年は「アバランチを採用」とのニュースが目立った。以下のようなニュースだ。

[MUGEN Chainのロゴ]

ネクソン、コナミ、三井物産、サントリー、Pontaなど、よく知られた名前が並んでいる。

特に、Ponta(ポンタ)を運営するロイヤリティマーケティングが1億アカウントを対象としたWeb3エコシステムの構築にAvalancheの採用を発表したのは、2023年9月。1年強での「MUGEN Chain」の始動については、今後の展開はもちろん、構築時のハードル、課題なども気になるところだ。

Avalancheの開発会社Ava Labs(アバラボ)のHead of Japan、平田路依氏はブロックチェーンの現状について、「2024年はブラックロックのBUIDLなど既存金融発のサービスがパブリック、かつマルチチェーンで展開していく大きな転換点になった。2025年は本格的にステーブルコインをはじめとした金融領域や実ユースケースが伸びていくと予想している」と語る。

また「本格的に各サービスごとに独自のL1、L2チェーンを立ち上げていくトレンドが来ている」なかで、「日本語での24時間サポートも含めて、世界最先端の技術を安心して利用できる環境を2025年も継続してより安全で便利なものとして提供していきたい」と続けた。

Aptos(アプトス):万博でマスアダプションの先陣を切るか

Soneiumと並んで2024年、Web3業界を驚かせたのが、Aptos Labs(アプトスラボ)がHashPort(ハッシュポート)の子会社HashPalette(ハッシュパレット)を買収し、日本発・NFT流通に特化したブロックチェーンPalette Chain(パレットチェーン)をAptos(アプトス)に統合するというニュースだろう。

関連記事:アプトス、ハッシュパレット買収──パレットチェーンをアプトスに統合し、日本市場進出を強化

[吉田氏とAptos Labsアプトス・ラボ共同創業者のモー・シャイフ氏:2024年10月のパートナーシップ調印式にて:CoinDesk JAPAN]

Palette Chainのネイティブトークン「パレットトークン(PLT)」は2021年7月、国内第1号のIEO(Initial Exchange Offering)として上場したことでも知られ、期待を集めたチェーンとトークンの統合は業界とユーザーに衝撃を与えた。

HashPortの代表取締役CEOの吉田世博氏は2024年10月、CoinDesk JAPANのインタビューに応じて「チェーンの研究を長く行ってきたが、力不足を感じた。今年4月以降に『THE LAND エルフの森』の利用拡大に伴うチェーンへの負荷増加を通じて、万博などの社会インフラを支えるチェーンとしての性能不足を実感した」とストレートに語った。

また「技術的差別化は、いまや数億ドル単位の先行投資が必要だ。例えばAptosは、旧フェイスブックでLibra/Diem(リブラ/ディエム)を開発していた時代からの技術的蓄積に加えて、4億ドル以上の資金調達を行って技術開発に投資している。我々が単独で同レベルの投資を行うことは難しいとの認識だ」と述べ、グローバル進むチェーン競争の激しさを吐露している。

関連記事:ハッシュパレットをアプトスに売却──疑問点や背景を吉田CEOに聞く【独占インタビュー】

「EXPO2025デジタルウォレット」への影響は

[阪急電車の車両に飾られた大阪・関西万博のロゴマーク:Shutterstock]

HashPortは、2025年4月から始まる「2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)」において「EXPO2025デジタルウォレット」を提供する。同ウォレットは、大阪・関西万博の紹介ページによると「サーバー管理型のWeb2、ブロックチェーンのWeb3の管理手法を用いたデュアル方式のウォレットアプリ」だ。

HashPortが協賛・提供するサービスは「ウォレットID基盤」「SBTデジタルパスポート」「Web3用ウォレット」で、Palette Chainが利用されている部分はAptosに移行することになる。

Palette Chainはコンソーシアム型で、バリデーター、すなわちチェーンの維持・運営を担う主体が明確だったが、Aptosはパブリックチェーン。一定の基準を満たせば、誰でもバリデーターになれる。こうした点について、公益法人である2025年日本国際博覧会協会(万博協会)から、チェーン移行に対する不安や懸念の声はなかったのか。

吉田氏によると「EXPO2025デジタルウォレットはHashPortがサービスを提供」するものであるため、いわばその裏側の仕組みとなるチェーンの統合については大きな問題などにはならなかったという。

EXPO2025デジタルウォレットでは、電子マネー(決済サービス)の「ミャクペ!」は、クレジットカードや銀行口座からチャージして使用するので、暗号資産(仮想通貨)決済サービスが大阪・関西万博で実現するわけではない。だが、Web3ウォレットが数十万、数百万の規模で使用され、マスアダプションへの大きな一歩となるケースであることは間違いない。

イーサリアム完全互換を目指す2つのチェーン:Japan Open ChainとJapan Smart Chain

前編ではイーサリアムレイヤー2を、そしてここでは、数年前には「イーサリアムキラー」と呼ばれたソラナ、Avalanche、Facebookのグローバルステーブルコイン構想を源流とするAptosの動きを見てきたが、2024年末にはバリデーターを日本国内の法人に限定し、サーバーの物理的なロケーションも国内に限定して、セキュリティとコンプライアンスを確保することを重視した2つのイーサリアム完全互換チェーンが話題となった。

Japan Open Chain(JOC)とJapan Smart Chain(JSC)だ。

世界6取引所に同時上場

Japan Open Chain(JOC)は、2022年にIEOの計画を明らかにし、2024年11月にネイティブトークン「ジャパンオープンチェーントークン(JOC)」のIEOを実施、申込申請額は90億円を超え、予定販売金額の12億6000万円が完売した。12月23日にはIEO後の流動性確保を目的に、JOCを世界6取引所に同時上場させた。世界6取引所への同時上場は日本初の試みという。

同社代表でJapan Open Chain代表の近藤秀和氏は「今、世界が混沌としているなかで、金融資産をどこに置くかは非常に重要なテーマ。既存のブロックチェーンではまだ課題が多いので、自分たちで良いものを作ろうというのが、JOCのスタートだ」とその意義を述べている。

レイヤー2という選択肢については「信頼できるバリデーターが運営しているレイヤー1チェーンを作った方が安心ではないかというのが我々の立場」と語った。バリデーターは最終21社を予定しており、現在、ソニーのグループ内スタートアップであるコーギア、電通、NTTコミュニケーションズ、G.U.Technologies、insprout、Kudasai、みんなの銀行、ピクシブ、TIS、テレビ朝日グループのextra mile、京都芸術大学、はてな、シーエーシー、サイバーリンクス、SBINFT、Nethermindの16社が参画している。

一方、JOCがIEOを行っていた11月下旬に、千葉工業大学学長でデジタルガレージ共同創業者の伊藤穰一氏らは「Japan Smart Chain(JSC)」の開発を進めると11月27日に発表した。

ローカルなチェーンの必要性

JSCは、日本国内にバリデーターとデータを置く「日本発・主権型イーサリアム完全互換レイヤー1ブロックチェーン」を謳っており、先行するJOCと基本的には同じ考え方だ。

伊藤氏はJSCの発表プレゼンテーションで、そのアイデアをインターネットにおけるLANに喩えて、「パブリックインターネットはあるけども、会社の中とか家の中にはLANがあって、ローカルで信用できる人たちのネットワークと、世の中に繋げるためのネットワークが必要なのと同じで、イーサリアムやビットコインは絶対残ると思うけれど、ローカルにはローカルなチェーンがあってもいいのではないか。ローカルなチェーンの中で安全保障を考えたり、個人情報を管理する」と説明した。

[伊藤穰一氏:CoinDesk JAPAN]

関連記事:なぜ今「日本発」ローカルチェーンが必要なのか──インターネットにおけるLANの役割に喩えた「Japan Smart Chain」伊藤穰一氏プレゼンテーション全文とQ&A

先行するJapan Open Chainとの戦略の違いについては、伊藤氏に続けてプレゼンテーションを行った、あと払い(Buy Now Pay Later:BNPL)サービス Paidyの創業者ラッセル・カマー氏が「マルチチェーンの世界です。いろいろな目的でさまざまなチェーンが最適化していく。日本発のプロジェクトもレイヤー1、レイヤー2、複数あり、我々も独自のアプローチを行った」と答えた。

多様化するニーズ、チェーンも多様化するか

ブロックチェーンの理想像として、誰でも参加できるオープン性があげられる。その意味で「パブリックチェーンでなければブロックチェーンではない」との主張もあるが、日本企業が日本国内の顧客を対象に、日本国内でWeb3ビジネスを展開しようと考えた時、基盤となるブロックチェーンは、より身近で、信頼できるものを選びたいというニーズは当然出てくるだろう。

ソニーのWeb3事業のキーマン、S.BLOX 代表取締役社長 渡辺潤氏も、ソニーのブロックチェーン「Soneium(ソニューム)」に国内から多くの関心が寄せられていることに対して「安心感をどこに感じるかは会社によって違うだろうが、我々に安心感を感じる人もいるのだと思う」と答えている。

関連記事:いろいろな企業がブロックチェーンを手がけるようになる──ソニーWeb3事業のキーマンに聞く【渡辺潤氏インタビュー】

また年間約6兆円と言われる「デジタル赤字」を解消する観点からも、国内でブロックチェーンを運営する意味はある。またこの動きは、国内発チェーンのAstar Network(アスター)がOP Stack/Superchain勢力の一員としてSoneium(ソニューム)に移行し、Palette ChainがAptosに統合される2024年を大きなニュースに続く、グローバル vs ローカルの第2幕の開幕と言えるかもしれない。

2024年は、レイヤー1、レイヤー2ともに大きな地殻変動が始まった印象を受けた。今回は触れられなかったがプライベートチェーンの復権を指摘する記事もあった。

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2025年、変動はさらに加速して混沌を極めるのか。混沌と見えつつも、相互運用性ソリューションによってシームレスな世界が実現するのか。あるいはチェーン間の勝敗の行方が見えてくるのか。Web3マスアダプションを支えるチェーンの動きに注目したい。

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|文:増田隆幸
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