アフリカ・ガーナのスラムに捨てられた電子廃棄物を使ってアート作品を制作するアーティスト、長坂 真護氏が、ブロックチェーン上で発行されるトークン(NFT)を使ったデジタルアートを販売する。また、新たにオンライン美術館を開設する。
長坂氏が経営するマゴ・クリエーション(MAGO CREATION)は2月10日、5,555点のプロフィール画像(PFP=Picture for Profileの略)をNFTにした作品をNFT(非代替性トークン)のマーケットプレイス「マジックエデン(Magic Eden)」で販売する。また、3月にはオンライン美術館の『マゴ・ムーン・ミュージアム(MAGO Moon Museum)』を開設する計画だ。
長坂氏は8年前に「世界最大の電子廃棄物の墓場」といわれるガーナのスラム、アグボグブロシーで電子廃棄物を使ったアート作品の制作を始め、日本やニューヨークなどで個展を開き販売してきた。
その売り上げの一部をスラムの人々に還元する一方で、ガーナで養鶏所や幼稚園、リサイクル工場、アートスクールを運営したり、スーパーフードで知られるモリンガなどの栽培を行うなど、2030年までに現地で10,000人の雇用を生み出すという目標を立て、活動している。
長坂氏が手がけるアート作品は今では1億円を超えるものもあり、年間の総売り上げは10億円を超えるという。
〈長坂 真護氏が制作したアート作品、撮影:佐藤 茂〉
マゴ・クリエーションが売り出すプロフィール画像のNFTコレクション「Mily and Friends」は全て一点もので、実際のアート作品で使われているパーツをモチーフにデザインされている。
NFTを購入すると、オンライン美術館の中の特別な部屋に入ることができ、長坂氏が手がけた『月』のシリーズと呼ばれる作品コレクションを鑑賞することができる。また、NFT保有者は、長坂氏の実際の作品を通常価格より低い値段で購入することが可能となる。
今回の取り組みの企画・開発とプロデュースを請け負ったのは、NFTを使ったデジタル体験事業を展開するアーパスポート(Apas Port)社と、芸術や文化遺産をデジタル保存・トークン化を行うLEGENDARY HUMANITY。
5,555体のNFTは、イーサリアム・ブロックチェーンのレイヤー2チェーンであるアブストラクト(Abstract)で発行される。アブストラクトは、人気を集めたNFTコレクション「Pudgy Penguin」の親会社であるイグルー社(Igloo.inc)が開発している。
レイヤー2とは:暗号資産(仮想通貨)やNFTなどの基盤となるネットワーク(レイヤー1)の上に構築された追加的なネットワークのこと。
スラム街のアグボグブロシーでは、「バーナーボーイ(Burner Boy=火を燃やす少年)」と呼ばれるローカルの人たちが、パソコンのキーボードなどの廃棄物を火で燃やして金属を採取することで生計を立てている。
長坂氏は、有毒なガスを吸い続けるバーナーボーイたちに1,000個を超えるガスマスクを寄付する一方で、彼らにアート作品の作り方を教え、実際に制作させる活動も行ってきた。彼らが作った作品を日本などの先進国で販売し、売り上げの一部をバーナーボーイのアーティストたちに渡してきた。
欧米や日本が整備してきたような社会・経済基盤が機能しないアフリカの多くの国々では、例えば、銀行の基本的なサービスを受けられない膨大な数の人がいる。一方で、中国や東南アジア諸国で起きてきたように、スマートフォンとインターネット接続さえあれば誰でも利用できるサービスは短い時間で広く普及し、大陸の社会基盤の背骨を形成している。
アートと、ブロックチェーンで流通するトークンをかけ合わせることで、長坂氏は今後どれほどデジタルのアプローチでアグボグブロシーを変えることができるだろうか。
|文:佐藤 茂
|トップ画像:ガーナのスラム、アグボグブロシーに立つ長坂真護氏、提供:マゴ・クリエーション)