DAOでインフラ維持管理に地域住民を巻き込む──水処理大手メタウォーターが山形県西川町で実証実験へ

水環境分野の総合エンジニアリング企業で、東証プライム上場のメタウォーターは2月12日、少子高齢化による人手不足や自然災害といった「インフラクライシス」に対応するため、2024年2月から取り組んできた上下水道の維持管理にDAO(分散型自律組織)を取り入れる「MizuDAkOプロジェクト」の中間報告を行った。同社会長の中村靖氏が、山形県西川町で行ったプレ実証実験の結果を報告し、4月から始める本格実証実験についての展望を話した。

同社は2008年、日本ガイシと富士電機の水環境部門が統合して設立。浄水場や下水処理施設の機械・電気設備の設計、維持管理などを手掛け、2024年3月期の売上高は1600億円を超える。同社はプロジェクトの狙いとして、担い手不足解消や関係人口の創出、国が推進する上下水道を官民一体で管理する「ウォーターPPP」への導入準備などを挙げ、地域住民による運用を目指し、準備を進めてきた。維持管理を住民参加型で行うためのコミュニティづくりをサポートする目的でDAOを活用、ブロックチェーン開発企業のフレームダブルオーと連携している。

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同町は山形県中央西部に位置し、人口は約4500人。中村氏は実証実験の場に同町を選んだ理由について、デジタル住民票を発行するなど、地方でありながら「先進的な取り組みをしている」点を挙げた。プロジェクトの仕組みとしては、町の水道課が頼みたい作業内容を参加者に依頼。作業が完了すると、DAOを通して名産の山菜をモチーフにした貢献NFTがもらえ、貢献度の蓄積によってメンバーズカードのランクが変わる。ランクが上がると、町の花火大会の特等席に座れる権利が与えられるなどする。

〈水道管の洗浄作業、放水の様子:メタウォーター提供〉

今回のプレ実証実験には町職員や地域おこし協力隊のメンバーが参加。現地調査やマニュアル作成などを経て、昨年11月と12月の計3回、水源、導水管の破損がないかといったパトロールのほか、施設周辺の草刈り、水道管内の圧力が適正値の範囲内かをチェックする減圧弁の圧力計確認、水道管に取り付けた仕切弁の開閉確認や清掃、放っておくと異臭の原因にもなる水道管の洗浄作業など7種の業務を実施した。

この日は参加者への説明にも使ったという動画マニュアルを見せながら、仕切弁筐という箱にたまった泥を除去する作業などを解説。プレ実証実験を経て、中村氏は一定の成果があったとしたうえで、「作業によっては、住民にやってもらうにはちょっとハードが高いかもしれない」と思ったとし、モニター付きスコープの活用やドローンによる点検の導入など、住民が作業しやすくなる工夫も検討していると述べた。

〈プレ実証実験の参加者への説明に使った動画マニュアル〉

目指すのはコモンズについての住民理解向上

4月からは本格的な実証実験を行うが、町職員や地域おこし協力隊のメンバーが参加していたプレ実証実験とは異なり、運用の主体が住民有志となる。関わる住民は10人程度を想定しているというが、今後の課題として中村氏は、上下水道というインフラの重要性を住民に理解してもらうことやプロジェクトに参加したくなる魅力的なインセンティブの探求などを挙げた。

また、デジタルやITに強い人材が地方にはまだ少ない現状に触れると、「困っていることをオープンにして町外の人も集める」ことがDAOを活用する魅力だと説明。ボーダーのないことがデジタルの面白いところだと指摘し、住民に説明するための動画マニュアルの編集が得意な高校生を集めるなど、オンラインボランティアの活用も進めていきたいと述べた。

〈実証実験のスケジュールについて話す中村氏〉

また、先月起きた埼玉県八潮市での大規模な道路陥没事故に触れると、「自分たちの生活を支えるインフラの大切さを、住民でもできる保守点検を通して肌で感じてもらう」ことが重要と指摘。「コモンズ(共有財産)について住民の理解を高める」ことがプロジェクトの大きな意義になるとし、インフラなどの共有資源を共同管理する仕組みや空間といった発想は、まさにWeb3やDAOに通じる概念だと説明していた。

最後に今後の構想として、同町での社会実装実現と人口規模が2万人以上の地域での実証実験を挙げ、西川町以外でも複数話をしている自治体があると述べた。

|文・写真:橋本祐樹
|トップ画像:水道設備のメンテナンス風景(メタウォーター提供)