トークンこそWeb3の本質、誰もが気軽に発行できる時代へ:Oasys松原氏、MORI HAMADA増田弁護士が語るシン・トークン活用

トランプ大統領の就任により、暗号資産市場は追い風を受けている。ビットコインは企業による購入がますます進み、国家が準備資産として購入する動きも始まるなど、資産クラスとしての地位を固めている。大統領就任式の直前にはトランプ氏の名を冠したトランプコイン(TRUMP)も登場した。2025年、暗号資産はこれまでとは違う、非連続的な進展を遂げそうだ。
ドラスティックに変化する状況を我々はどのように捉え、対応し、活用していけばよいのか。ゲーム特化型ブロックチェーンOasys(オアシス)代表の松原亮氏とITやFintech領域に詳しい森・濱田松本法律事務所外国法共同事業 パートナー弁護士/一橋大学特任教授の増田雅史氏の2人を招き、N.Avenue/CoinDesk JAPAN 代表取締役 CEOの神本侑季が聞いた。
なぜそのゲームをWeb3でやるのかという必然性
──Web3のマスアダプションには、ゲームやエンターテインメントがきっかけになると言われて久しい。日本ではまだハードルが残っているようだが、世界的にはどうなっているのか。
松原氏:実は世界でも日本でも、1回目のアプローチは終わっていると思っている。Web2コンテンツを主軸にWeb3を普及させていこうとする動き、例えば、10億円、20億円かけたようなゲームをローンチし、ゲーム内でのアイテム交換などを通してWeb3の世界に触れてもらおうとするアプローチが海外でもあった。
ただ、そもそもWeb2コンテンツの競争は非常に激しく、なぜそのゲームをWeb3でやるのかという疑問が残る。例えば、シューティングゲームならフォートナイトでよいといった具合に。

日本に目を向けると、ソーシャルゲームがこれだけたくさんあるなかで、なぜそのゲームをWeb3でやるのかという必然性が不可欠になる。人を引き付けて定着させるには、既存のWeb2コンテンツを単純にWeb3に持ってくるやり方では難しいことが昨年くらいにわかったのではないだろうか。
──2017年に人気のブロックチェーンゲームが初めて登場した。そこから見て、今の市場をどう捉えているか?
増田氏:2017年にリリースされたNFTゲーム「CryptoKitties(クリプトキティーズ)」の人気を受けて、当初はそのゲーム性を模倣しつつキャラクターやビジュアルを変える、いわゆる「ガワ替え」から日本のブロックチェーンゲームが始まった。その後、2021年のNFTブームを経て、Play-to-Earn型のサービスへ注目が高まったが、日本では、需給によってのみトークン価格が決定され相場が乱高下する海外タイトルの状況を見て、それとは少し異なった形で、コンテンツ力やゲーム性などの観点からユーザーの安定的な需要を掴もうとする形でのWeb3ゲームの開発が試みられ続けている。しかしその過程で、トークンの取り扱いに関連する暗号資産規制など、法律や制度上の課題が浮き彫りとなった。そうした壁があるなかで闘ってきたが、足元ではまだ市場規模も伸びず、疲弊している事業者も多いのではと感じている。

──トランプ大統領の就任に象徴されるように、2024年後半くらいからWeb3をアメリカがリードしていく図式が明確になってきた。日本はそれに対してどうすべきだろうか。
松原氏:いったんブロックチェーンゲームから離れて見てみると、昨年は1月にアメリカでビットコイン(BTC)の現物ETF(上場投資信託)が承認され、4月にはビットコインの半減期も迎えた。とにかくビットコインを中心に機関投資家などから資金が流入した1年だった。
その後、業界のお金はソラナブロックチェーンに向かい、無数のミームコインが生まれた。かつて、DeFi(分散型金融)誕生後に数多のトークンがイーサリアム上で生まれたが、今はソラナ上で、よりカジュアルに、具体的なプロジェクトを持たないトークンが数多く生まれている。
トークンこそがWeb3の本質
──ミームコインはなぜこれほど注目を集めたのだろうか。
松原氏:「トークンこそがWeb3」というところに行きついた結果だと考えている。多くの人がカジュアルにトークンを発行したいと考えた結果だ。今後はAIエージェントなどの利用も進み、トークンが特にコミュニティエンゲージメントに活用されるようになるのではないか。さらに広い意味でのトークン発行がWeb3発展の軸の1つになっていく可能性があると考えている。

増田氏:大きな実験場が開いてきたと理解している。ミームコインを起点に、DeFiの新たな試みが加速し始めている。2025年が「本格的なDeFi元年」などと言われるのは、ミームコインを含め、さまざまなトークンによる流動性が生まれているからだ。ただ、ミームコイン自体には、ユーティリティなどが必ずしもあるわけではないので、いつまでブームが続くのかという疑問もある。
──確かに、トークンの本質が語られることは少ない。最初は単なる投機目的としか解釈されていなかった。しかし徐々にコミュニティが生まれ、Web3マスアダプションのきっかけの1つになるのではないかと再認識している企業もあるように思う。
松原氏:その通りだ。NFTブームの初期にスタートした「Pudgy Penguins(パジーペンギン)」などがよい例だ。発行数が限られ、流動性が低いというNFTの課題を解決するのがトークンだと考え、PENGUトークンを2024年12月に発行した。トークンを軸にコミュニティの再構築を目指しているように見える。NFTも活用するが、FT(ファンジブルトークン)を中心に、いろいろなものを出していくというアプローチに変わりつつあると思っている。
トークンから始めるというアプローチ
──海外では、TRUMPトークンなども登場しているが、日本でトークンを発行するのはレアケースになっている。法的な視点ではどう捉えているか。
増田氏:実は日本でも、トークンを発行すること自体は基本的に法規制の対象外である。もし金融商品取引法上の有価証券に該当するものを発行しようとした場合には、同法上の発行開示など規制が及ぶことになるが、資金決済法上の暗号資産には同様の規制がない。もちろん、暗号資産の売買や取引に関与しようとすると、暗号資産交換業規制の問題となるが、例えば、プロジェクトの認知やマーケティング目的で配布するだけなら、基本的には暗号資産交換業に該当しない。トークン発行に二の足を踏む企業は多いが、売買さえ考えなければ実は法規制上のハードル自体はそれほど高くないということだ。

これに対して、アメリカでは証券規制の対象となるものの範囲が広く、例えば、収益を分配するような性格のトークンでなくとも、発行者が値上がり期待を煽るような行為をするだけで、連邦証券法上の証券として規制を受けるおそれが生じる。そう考えると、日本の方が発行に対するハードルは低いと言える。
松原氏:私はやはり、ブロックチェーンの魅力は流動性があることだと思っている。ゲーム資産やファンクラブの投票権など、今まで流動性を持ち得なかったものに流動性を与えるのがブロックチェーンの良さだと考えている。「トークンから始める」というアプローチは、流動性を得られるという意味で最も有益だ。さまざまな人が取引に参加でき、いろいろな人を巻き込むことができる。
──ブロックチェーンの本質を考えると、NFTではなく、トークンということか。
松原氏:NFTの場合、ひとつひとつが違う商品なので、1個の商品に対しての流動性は低くなる。
増田氏:流動性はもちろん大きなポイントであり、さらに共通の基盤上で取引可能なものをすぐに発行できることも大きな魅力だ。例えばこれまでは、チケットを販売するなら専用のシステムが必要で、仲介する業者が必要だった。これが、トークンであれば、ブロックチェーン上で直接発行し、ウォレットを持つ人なら簡単に保有することができるようになった。
今は限られているかもしれないが裾野は徐々に広がっているので、Web3に親和的な人に対してトークン発行をすることは、きわめて低コストで実現できるマーケティング手法の1つとなり得る。Web3ウォレットを持っている層が拡大すれば、また新しいやり方が生まれてくるだろう。
発行数100万個というボーダーライン
──ブロックチェーンの本質と言えるトークン発行を、我々はどう活用していけばよいだろうか。

松原氏:発行を100万個以下にして決済手段に利用しないようにするなど、金融庁のガイドラインを踏まえて、「暗号資産ではないトークン」を発行することもできるのではないだろうか。それを気軽にトレードしたり、ファントークンのような形で、例えば1000トークン持っている人には割引が適用されるといった有効活用ができるのではないか。
増田氏:FTかNFTかで線引きすることにはあまり意味はなく、ポイントになるのは発行数量。金融庁のパブコメ回答によれば、「分割可能性を踏まえた発行数量」が100万個以下である場合には、「代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる」という暗号資産の要件を充足しないと判断されることとなる。つまり、暗号資産に該当しないトークンとして扱われる。この場合、基本的には金融規制がかからなくなるので、取引も含めて扱いやすくなる。
一般的に、NFTというと、数が少ないものをイメージするだろう。しかし工夫次第では、典型的なNFTでなくとも、暗号資産に該当しないものは発行できるということだ。
イーサリアムブロックチェーン上のトークン規格で言うと、ERC-1155で発行されるものは、数量を適切に限定すれば暗号資産該当性を回避し得る。また、ERC-20でも、小数点以下の数量への分割を禁止・制限することで、発行数量の設定との組み合わせにより、「分割可能性を踏まえた発行数量」を限定できるだろう。つまり、典型的なNFTでなくとも、暗号資産規制を受けない形でのビジネスはいろいろ模索できるはずだ。そうした領域に気づいて、注目する企業が増えると、これまでにないサービスがどんどん登場してくるだろうと期待している。
松原氏:暗号資産の規制に縛られず、NFTでの課題も解決した新しいトークンビジネス、もしくはビジネスでなくてもコミュニティが活用するトークンといったさまざまな形での利活用ができるだろうと思っている。
──プロモーションやユーザー獲得のためにエアドロップで配布することは想像がつくが、発行数が100万個以下であれば販売してもよいのか。
増田氏:暗号資産規制の観点から言うと、答えはイエス。「分割可能性を踏まえた発行数量」が100万個以下であれば、原則として暗号資産には該当しないこととなるので、販売行為にも規制がかからない。
松原氏:つまりNFTと同様に、実はトークンも一定の要件の範囲内であれば発行できてしまう。
増田氏:100万個まで発行できるとなると、かなりいろいろなことができるのでは。ただ、例えば大規模に展開されるゲームだと、ある種類のトークンの数が100万個を超える事態も想定され得るので、ビジネスのスケールの仕方によっては、悩ましい問題だ。他方、地方創生の文脈などでは、地域が限定されていることによってトークンを大量発行する必要性が低いことも多いと思われ、そのような場合には問題が生じない。そうしたケースは、現実的にかなり多いと思われる。
地方創生とオーバーツーリズム解消に
──地方創生は日本の大きな社会課題にもなっている。Web3の活用方法は大きなトピックとなっているが、トークン発行が解決策の1つになりそうだ。
松原氏:地方創生ではNFTの活用が見られるが、トークン発行はNFTと同じような仕組みで実現できる。過度に神経質になるのではなく、よりよい活用方法を模索していきたい。日本の歴史や戦国武将をテーマにした地方創生トークンの仕組みなども、今後登場してくるのではないかと考えている。

例えば、関ヶ原の戦いをモチーフにしたトークンがあったとする。そのトークンを持っていると、岐阜県の該当地域でお土産を割引購入できるといった特典が受けられるなどだ。あるいは、日本人だけでなく、海外の人々が自国で日本の地方創生トークンを購入し、それを持って観光に訪れる。そんな未来を想像すると、非常に夢のある話ではないだろうか。
増田氏:地方創生のユースケースは、今まさに各事業者が仕込み段階だと思う。地方創生を重視する石破氏が首相になったことで、この動きに拍車がかかると皆が考えている状況だろう。
個人的には、オーバーツーリズムの解消にトークンを活用できるのではないかと考えている。一部の著名な地域に海外からの観光客が集中してしまうのは、日本には魅力的な場所がたくさん存在することが知られていないからだ。眠れる宝を知ってもらうきっかけとして、例えば地域限定のトークンを発行し、来訪のきっかけとすることができるのではないか。
地方創生とゲームの親和性も高いといえる。先ほど話にあった関ヶ原×トークンで言うなら、東軍・西軍や登場した武将ごとに異なるトークンを発行することも考えられる。そうすることで、誰かが自主的にゲームを開発したり、草の根レベルで新しいトークンの遊び方が生まれたりする可能性もある。
トークン発行してから利活用を模索
──発行されたトークンの取引はどこで、どのように行うことになるだろうか。
増田氏:重要になってくるのは決済手段だろう。一般消費者にとっては、暗号資産を資産や生活の単位としている人はごく少数であり、広く浸透するうえでは、法定通貨建てでの取引が可能なステーブルコインの利活用がキーとなり得る。今年は我が国のステーブルコイン元年とも言われているので、そうしたコラボレーションも見てみたい。
松原氏:NFTをOpenSea(オープンシー)で取引することとあまり変わらないようになるかもしれない。
増田氏:トークン発行自体には費用はそれほどかからない。共通の取引基盤であるブロックチェーンネットワークという形で、取引システムもすでに存在している。発行から流通までを低予算で実現できるので、自治体の取り組みにも結び付きやすいと思う。
松原氏:昨年はソラナ上で簡単にトークン発行ができるPump.funが流行したが、もともとミームコインはジョークとして始まったもの。それが次第に市民権を得て、海外では実用的な活用も進んでいる。日本でも、まずは気軽に、目的を定めずトークンを発行し、後からさまざまな利活用を模索する形でよいと思う。その結果、地方創生などにも活用できる可能性が広がるだろう。
ちょうど先日、エコシステム内でトークンを発行できるプラットフォーム「yukichi.fun」がローンチされていたが、トークンローンチャーのような取り組みが人気を集めるなかで、弊社も的確にキャッチアップしていきたい。皆が気軽にトークンを発行し、利活用する時代が到来すればより楽しくなると考えている。
|文:CoinDesk JAPAN広告制作チーム
|撮影:多田圭佑