ボランティア参加を可視化して証明──神奈川県、NFT活用し新たな試み

神奈川県とデジタルガレージは2月13日、2024年11〜12月に実施した「湘南ビーチクリーンアクション」のボランティア参加者特典として、デジタル証明を活用した環境ボランティア支援の仕組みづくりをテーマにしたイベントを東京・恵比寿のCrypto Cafe & Barで開いた。

計4回行われた海岸清掃のボランティアには、延べ約200人が参加。終了時には活動証明として、海の生き物とともに楽しくゴミを拾う湘南海岸の様子を描いた限定NFTが配布されており、この日のイベントはNFT所有者の特典として企画された。

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〈参加者に配布されたNFT:神奈川県のホームページから〉

この日、会場に集まったのは清掃活動に参加した大学生ら約20人。人手不足が課題とされるボランティア人口をどう確保するか、ブロックチェーンやNFTの技術を生かしてできることについて意見が交わされた。

第一部では、デジタルガレージ共同創業者の伊藤穰一氏が登壇し、日本におけるWeb3の現在地について解説した。伊藤氏はまず、日本の暗号資産の歴史を「悲劇から生まれた」と表現。マウントゴックスの破綻を受け、2017年に日本が世界で初めて暗号資産を定義する法整備をしたと紹介。その後、規制が厳格化され日本市場は停滞したが、世の中が冷え込んでいた時でも有望なプロジェクトは多く生まれていたと話した。

〈国内のWeb3事情について解説する伊藤氏〉

続けて社会の変化に関して、古代メソポタミアの台帳管理から現在の会計・法律制度へと発展し、中央集権型から徐々に分散化してきたと指摘。今後はブロックチェーン技術によるスマートコントラクトの登場で、社会の仕組みが再構築される可能性があると話した。

そのうえで、テクノロジーを社会の良い方向へ活かすためには「何のためにやるのか」という目的が最も重要であるとし、協調性や自然との共生といった日本独自の価値観をデジタル技術にどう表現していくかが今後の課題だと述べた。

第二部では、海洋プラスチックごみの問題解決に向けた組織CLOMA(クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス)技術総括の柳田康一氏が登壇。プラスチックごみと海洋汚染について解説した。柳田氏は「プラスチックの歴史はまだ70年足らず」と述べたうえで、DDTやアスベストがそうだったように、プラスチックに関しても環境への負の影響が出始めていると解説した。

統一規格や評価基準を持つNFT証明書

第三部では伊藤氏と柳田氏のほか、湘南で海岸清掃に取り組むNPO法人の有識者らが登場。JAPANボランティア協会理事長の小茂鳥雅史氏、湘南ウキブイ代表理事の熊沢博樹氏、湘南ビジョン研究所理事長の片山清宏氏を加えた5人によるパネルディスカッションが行われた。司会は神奈川県政策局いのち・未来戦略本部室科学技術・ライフイノベーション担当部長の穂積克宏氏が務め、ボランティア活動の証明として独自NFTを発行する取り組みを振り返った。

同県は今回の取り組みの背景について、従来のボランティア参加証明書は団体ごとに発行され、統一規格や第三者的な評価基準が存在しなかったことを挙げた。そこで、参加者の動機づけにもなり、大学のAO入試や企業の採用試験などにも利用できる参加証明書をデジタルで発行できないか検討。同協会と連携しながらNFTを活用した新しい参加証明書の形を考え、今回の実証実験を行ったと述べた。

小茂鳥氏は、「ボランティアを日本で当たり前に」という同協会のビジョンを紹介し、日本でも欧米並みにボランティアの文化やインフラを整えることが重要だと指摘。自身がアメリカで生活した経験を引き合いに、大学受験や就職活動にも使えるボランティア証明書の発行に取り組んでいると明かした。

江の島のすぐ近くで育ったという片山氏は、海岸ごみの約7割が川から流れ着くと説明。ごみを減らすには清掃にかかわるボランティア人口を増やし、行政や企業と連携した取り組みが不可欠であると話した。「NFTを活用することは、こうした社会活動を可視化する」と実証実験を振り返り、ボランティア人口を増加させる一つのきっかけになると述べた。

可視化してボランティアへの動機づけに

伊藤氏はブロックチェーンやNFTの役割について、今まで人力で時間をかけてやらざるを得なかった「人間の活動を調整する」という仕事を代わりにやってくれるようになると説明。今後、日本のボランティア団体の取り組みが海外に発信される事例が生まれてほしいと期待を寄せていた。

ディスカッション後には質疑応答の時間が設けられ、拾った海洋ごみからビーチサンダルを作る取り組みをしている起業家からWeb3が社会のボランティア活動や人々の意識を変える可能性について質問が飛んだ。

〈参加者からの質問も飛んだパネルディスカッション〉

質問に対して片山氏は、「NFTの証明書もサンダルと同じように、目に見える形にプロダクト化することが重要」と説明。拾ったごみから生まれたサンダルを目にすることでボランティアへの意識が高まるように、参加した証が目に見える形にできると人々のモチベーション継続にもつながると述べた。熊沢氏はコロナ禍以降のボランティア人口減少に言及し、デジタル証明やNFTの発行が、行動を起こす際のハードルを下げる役割を果たすのではないかと答えていた。

|文・写真:橋本祐樹