イーサリアムレイヤー2の断片化、「Based Rollups」は解決策となるか
  • イーサリアム(Ethereum)コミュニティは、チェーンがレイヤー2の断片化とセキュリティの問題に対処しなければ、競争力を失うことを懸念している。
  • レイヤー2は、イーサリアム自体よりもはるかに多くのトラフィックを集めている。
  • 一部の開発者は、「Based Rollups(ベースド・ロールアップ)」を推進している。これは、レイヤー2にトラフィックを逃がすのではなく、イーサリアム上のシーケンスを使用する。

イーサリアムコミュニティはここ数週間、混乱状態にある。メンバーは、いくつかの設計上の重要な問題に対処しなければ、チェーンは競争力を失うと警鐘している。

問題となっているのは、レイヤー2による断片化だ。近年、イーサリアムは、ベースとなるイーサリアムエコシステムを拡張するために、「レイヤー2ロールアップ」と呼ばれるサードパーティの補助的ネットワークの開発を促進している。これらの新しいネットワークに処理を移行することで、取引手数料の引き下げと速度向上を実現しているが、レイヤー2のエコシステムが大規模かつ深刻なレベルに断片化する結果となっている。

レイヤー2ネットワークは、処理を行ったデータ(計算結果)をイーサリアムに戻すが、レイヤー2同士は互いに直接通信することが難しいことが多く、ネットワーク間で資産やデータをやり取りするにはコストがかかり、面倒な作業となる。また、シーケンサー(レイヤー2上で処理を行うノード)の中央集権化リスクもある。つまり、レイヤー2を使用することは、レイヤー2を運用する企業が管理するブラックボックスに依存することになる。

レイヤー2チェーンが増加し続けるなか、一部のイーサリアム開発者は、セキュリティと相互運用性に対して新しいアプローチを取るロールアップ技術、「Based Rollups(ベースド・ロールアップ)」を推進している。

Based Rollups(ベースド・ロールアップ)

ベースド・ロールアップは、既存のほとんどのロールアップとは異なり、トランザクション処理などのエグゼキューション処理を、別のレイヤー2ネットワークで処理するのではなく、イーサリアムのレイヤー1で行おうとするものだ。

レイヤー2ロールアップでは、トランザクションは「シーケンサー」と呼ばれるコンポーネントで処理される。シーケンサーは複数のトランザクションをまとめて、決済のためにイーサリアムに送る。現在、ほとんどのロールアップでは、このシーケンサーは中央集権型、つまり単一のエンティティ(通常はロールアップを開発した企業)がトランザクションの集約と最適化(並び替え)とイーサリアムへの送信を管理している。

中央集権型シーケンサーは今、イーサリアムコミュニティで議論の的となっている。シーケンサーは、取引を戦略的に並び替えることでロールアップ運営者に効率性と収益をもたらす一方で、単一障害点となり得る。トラブル、あるいは悪意あるシーケンサーはトランザクションを遅延させたり、操作することが可能であり、検閲や信頼性に関する懸念となる。

ベースド・ロールアップでは、単一の中央集権型シーケンサーではなく、イーサリアムそのものに組み込まれたシーケンサーを使用することで、この脆弱性を回避する。

レイヤー2ロードマップの進化

2022年、イーサリアムの共同創設者ヴィタリック・ブテリン氏は、ロールアップ中心のロードマップについてのビジョンを提示した。この計画では、イーサリアムの高額な手数料と遅い取引速度の解決策としてレイヤー2ロールアップを使用することが提案された。

コストを抑え、速度を向上させるために、各ロールアップはさまざまな戦略を採用しているが、いずれも分散化とセキュリティを維持するように設計されている。つまり、(理論上)ネットワークは中央集権的に運営されることはなく、イーサリアムに送られるトランザクションは改ざんされることはない。

Optimism(オプティミズム)、Arbitrum(アービトラム)、Base(ベース)、zkSync(zkシンク)、Blast(ブラスト)などのレイヤー2は、イーサリアム本体よりもはるかに大きなトランザクション量を扱うまでに、急速に成長した。L2Beatによると、現在稼働中のレイヤー2ネットワークは約140あり、ネットワーク間でアセットやデータなどをやり取りすることは難しい。イーサリアムが拡大し、レイヤー2ネットワークが不可欠な存在になるにつれ、レイヤー2間のコミュニケーションを改善すること、つまり「コンポーザビリティ(構成可能性)」の向上がこれまで以上に重要になっている。

ベースド・ロールアップは、レイヤー1チェーンのシーケンサー(レイヤー1の「プロポーザー」とも呼ばれる)を共有しているため、他のベースド・ロールアップ上のスマートコントラクトを数秒以内に呼び出すことができ、レイヤー2間のデータへのアクセスや交換が容易になる。

「シーケンサーを互いに、そしてまたレイヤー1とも効率的に共有している。これによりシーケンサーは異なるベースド・ロールアップ間でやり取りされるメッセージを調整できる。通常、メッセージのやり取りは非同期で行われる」とEspresso Systems(エスプレッソ・システムズ)のCEO、ベン・フィッシュ(Ben Fisch)氏は述べた。

ベースド・ロールアップはすべてイーサリアムに組み込まれたシーケンサーを使用しているため、ブロックチェーン用語で言えば、同じイーサリアムブロック内で即時にやりとりできる。

「イーサリアムの1ブロックの間に、ベースド・ロールアップが資産を引き出し、レイヤー1で何かを行い、資産を再び預け入れ、レイヤー2で何かを行い、再び資産を引き出すことも可能だ」(フィッシュ氏)

いくつかの欠点

ベースド技術の使用を検討しているプロジェクトはあるが、現在稼働しているのはTaiko(タイコ)のみだ。つまり、明確なメリットは存在するが、より広く採用されるためには、いくつかの技術的ハードルを克服する必要がある。

大きな問題の1つは、プルーフ生成だ。ベースド・ロールアップがトランザクションデータをイーサリアムに送信する際には、イーサリアムのブロック時間にあわせて12秒ごとにプルーフを生成し、公開する必要がある。現在、レイヤー2ロールアップでは、数分で完了するゼロ知識(ZK)プルーフと、不正行為の可能性を突き止めるまでに最大7日かかるオプティミスティックプルーフという2種類のプルーフシステムが使われている。

ベースド・ロールアップを効率的に機能させるには、プルーフの生成速度をイーサリアムのブロック時間と一致させる必要があり、これは技術的に大きな飛躍となる。しかし、フィッシュ氏はこの飛躍は「まもなく」と述べている。

もう1つの問題は、イーサリアムのブロックプロデューサー、つまり「レイヤー1プロポーザー」だ。ベースド・ロールアップでは、プロポーザーがトランザクションの並び替えを行う。しかし、その主なモチベーションは必ずしも公平性ではなく、利益だ。

「レイヤー1プロポーザーは、レイヤー2の利益のために活動するという信頼できる存在ではなく、(自らが)できるだけ多くの利益を得ようとする経済的モチベーションを持つ」とフィッシュ氏は述べた。

「そのため、プロポーザーはあるエンドユーザーのトランザクションを確認し、MEVの可能性を見出すと、まったく異なる結果を生み出すことがある」

MEV(最大抽出可能価値:Maximal Extractable Value)とは、トランザクションを再編成して利益を最大化する手法を指し、通常は一般ユーザーが不利益を被る。プロポーザーがトランザクションを操作すると、ベースド・ロールアップが不安定になる可能性がある。

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これに対処するために開発者は、ベースド・プレ-コンファメーション(事前承認)などのソリューションに取り組んでいる。これは、プロポーザーがロールアップの利益のために行動するような経済的インセンティブを追加するものだ。

つまり、ベースド・ロールアップはレイヤー2間の断片化を削減する有望な手法かもしれないが、魔法のような解決策ではない。

「個人的な意見としては、ベースド・ロールアップは解決策の一部であり、唯一の解決策ではない。そして、すべてのレイヤー2がベースドになる必要はなく、なるわけでもない」とフィッシュ氏は述べた。

|翻訳・編集:CoinDesk JAPAN編集部
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|原文:Could ‘Based Rollups’ Solve Ethereum’s Layer-2 Problem?