イーサリアム「巻き戻し」提案に批判──起こり得ない理由とは

- 暗号資産(仮想通貨)デリバティブ取引所BitMEXの共同創業者で、イーサリアム(ETH)のクジラ(大口保有者)とされるアーサー・ヘイズ(Arthur Hayes)氏は、イーサリアム共同創設者のヴィタリック・ブテリン(Vitalik Buterin)氏に対して「@Bybit_Officialを支援するためにチェーンの巻き戻し(ロールバック)を提唱するか」とXに投稿した。
- この投稿は、イーサリアムコミュニティから即座に激しい反応を引き起こした。コミュニティは、巻き戻しはないと確信していた。
- イーサリアム関係者、特にコア開発者チームはネットワークの「巻き戻し」に強く反対している。なぜなら、巻き戻しは分散化の根幹を覆すからだ。
- イーサリアムはアカウントがユーザーのETHを保有するアカウントモデルをベースにしており、技術的にはネットワークを「巻き戻し」できない。
2月21日、暗号通貨取引所Bybit(バイビット)が北朝鮮のラザルスグループ(Lazarus Group)によってハッキングされたと伝えられ、14億ドル近いイーサリアム(ETH)が流出した。
ハッキング後、BitMEXの共同創業者で、イーサリアムのクジラ(大口保有者)とされるアーサー・ヘイズ氏は、イーサリアム共同創設者のヴィタリック・ブテリン氏に対して「@Bybit_Officialを支援するためにチェーンの巻き戻しを提唱するか」とXに投稿した。
一方、Bybitのベン・チョウ(Ben Zhou)CEOは、Xのスペースで、同社チームもイーサリアム財団に連絡を取り、巻き戻しが検討される可能性があるかを確認したことを明らかにした。また、そうした決定はコミュニティが何を望んでいるかによって決められるべきだと指摘した。
ヘイズ氏の投稿は、イーサリアムコミュニティから即座に激しい反応を引き起こした。コミュニティは、巻き戻しはないと確信していた。なかには、ヘイズ氏はジョークを言っているのではないかと考えた者もいた。
イーサリアム関係者、特にコア開発者チームはネットワークの「巻き戻し」に強く反対している。巻き戻しは、分散化の根幹を覆すからだ。万一、ブテリン氏が単独で巻き戻しを決定すれば、その行為はブロックチェーンの健全性や状態に関して、さまざまな開発者チームやコミュニティメンバーが深く関与しているイーサリアムの理念の終焉と見なされるだろう。
「チェーンの巻き戻しは、ETHの存在意義を失わせてしまう。ルールを簡単に変更できるなら、何の意味があるのか」とユーザーの@the_wesoはXに投稿している。
2016年のThe DAOハッキング事件
イーサリアムコミュニティの外からは、2016年に6000万ドル相当のETHが盗まれたThe DAOハッキング事件に触れる者もいる。イーサリアムは被害を回復する(=なかったことにする)ためにハードフォークを進めた。巻き戻しによって、いわば再スタートしたチェーンはイーサリアムとして継続した。
しかし、このときのハードフォークは「巻き戻し」ではなく、「イレギュラーな状態遷移」として知られている。イーサリアムはアカウントがユーザーのETHを保有するアカウントモデルをベースにしており、技術的にはネットワークを「巻き戻し」できない。
DAO事件では、ハッキングの時点で開発者はノードを新しいクライアントソフトウェアにアップグレードした。ノードをアップグレードしなかった人たち(巻き戻しに反対した人たち)は、引き続き、元のチェーンを支持し、これはイーサリアムクラシック(ETC)として知られるようになった。
|翻訳・編集:CoinDesk JAPAN編集部
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|原文:Ethereum ‘Roll Back’ Suggestion Has Sparked Criticism. Here’s Why It Won’t Happen