Web3版note、フルオンチェーンブログシステム「CHRONOTH」始動──開発者が語る、データ永続性への挑戦

京都から誕生する新たなWeb3イノベーション。「note」のような使いやすさと、ブロックチェーンによる完全なデータの永続性を兼ね備えたブログプラットフォーム「CHRONOTH(クロノス)」が2月25日、リリースされた。

開発の背景とSymbol(シンボル)ブロックチェーン採用の理由について、株式会社NFTDrive(本社・京都)代表の中島理男氏に話を聞いた。

「ネムログ」閉鎖から見えた課題

ブロックチェーン技術を活用したブログプラットフォーム「CHRONOTH(クロノス)」の開発は、あるコミュニティの経験から始まった。2023年9月、Symbol/NEMブロックチェーンのコミュニティで運営されていたブログサービス「ネムログ」が、突如終了したのだ。

「色々な記事があったんですけど、コミュニティのみんなが書いたデータが、サービス終了によって見れなくなってしまう。それは問題だし、Web3の本質にそぐわないと感じました」と、クロノスを開発する中島氏(写真下)は語る。

この経験から、データの永続的な保存の重要性を痛感した中島氏は、完全なフルオンチェーンブログの開発に着手。従来のブログプラットフォームが抱える中央集権的な構造による改ざんやサービス終了、サイバー攻撃などによるデータ消失のリスクを解決することを目指した。

クロノスの特徴は、記事データに関連する全てのデータをブロックチェーン上に直接保存する点にある。従来のWebデータベースを一切使用せず、改ざん不可能かつ自律分散型の永続的なデータ保存を実現。

さらに、投稿データ量やインプレッションに応じて「CHRONOTHトークン」をユーザーに付与することで、人類の知識保存への貢献度を数値化する仕組みも備えている。

[クロノス貢献証明書のサンプル画像]

一般ユーザーに向けたインターフェースは、noteと同様のシンプルさを追求。「Web3やブロックチェーンの知識を全く必要とせず閲覧できる」(中島氏)という使いやすさを実現した。記事の執筆者のみがウォレットを必要とする設計により、読者は通常のブログサービスと同じように記事を楽しむことができる。

クロノスを支えるシンボルチェーン

クロノスの技術基盤として採用されたのは、シンボルブロックチェーンだ。この選択理由について中島氏は「ブロックチェーンの中でもシンボルはセキュリティが非常に高く、何より容量が大きい」と説明する。

ブログ記事のような文章データをブロックチェーンに保存するためには、十分な容量が必要となる。

シンボルブロックチェーンは1回の書き込み(トランザクション)あたり最大100キロバイト(アグリゲートトランザクションを利用した場合)のデータを扱うことができ、イーサリアム(Ethereum)の24キロバイトと比較して約4倍の容量を誇る。

日本語で約500文字、英語なら約1000文字を一度に保存できる計算だ。

また、イーサリアムのようなスマートコントラクトの登録機能を持たないシンプルな設計を採用することで、プログラムの脆弱性を突かれるリスクを排除。「スマートコントラクトのリスクを全部除去できる唯一のチェーン」(中島氏)として、高いセキュリティを実現している。

データの保存方法として使用されるのがNFTドライブ(NFTDrive)。そのNFTドライブの特許出願中の技術として注目されるのが、秘密鍵破棄による改ざん防止機能だ。

[秘密鍵破棄のフロー]

ブロックチェーンでは通常、秘密鍵を持つ人物がデータを操作できる権限を持つ。しかしNFTドライブでは、データ保存後に秘密鍵を破棄することで、誰もデータを改変できない仕組みを実装している。

独自開発のウォレット「NFTドライブEX」には、GoogleドキュメントのようなUI(ユーザーインターフェース)を持つ文書作成ツールが組み込まれている。

作成したコンテンツは自動的に分割され、NFTドライブを通してブロックチェーンに保存される。また、記事をNFT化(NFTは「VISION」と呼ばれる)して他のユーザーと取引することも可能だ。

[クロノスのエディター画面]

プラットフォームの信頼性を担保するため、シンボルブロックチェーンは約500-600台のフルノードによる分散化を実現。各ノードはAPIエンドポイントを持ち、誰でもアクセス可能な設計となっている。これにより、特定のノードへのアクセスが集中しても、他のノードへ接続を切り替えることで、サービスの継続性を確保している。

NFTDriveが採用するシンボルブロックチェーンは、エンタープライズ分野でも活用が進んでいる。例えば、関西テレビソフトウェアは放送波を用いたデータの信憑性システムにシンボルブロックチェーンを活用している。

中島氏は「従来型のクラウドストレージは、大規模災害によるサーバーダウンで重要なデータが失われるリスクがある」と指摘し、シンボルブロックチェーンの優位性として、データの分散化による高い災害耐性を強調する。

既存のWeb3型ブログとの違い

既存のWeb3型ブログプラットフォームとの技術的な差別化も明確だ。例えば「Mirror」はデータ保存にArweave(分散型ストレージ)を使用し、NFTは別チェーンで発行するため、データとNFTの一意な関連性が保証されない。

「HiÐΞ(ハイド)」はIPFS(InterPlanetary File System:分散型ファイル共有システム)を使用したバックアップ機能を備えるが、データの永続性は謳っていない。一方、クロノスではデータを含むアドレスがNFTを発行することで、ブロックチェーンネイティブの強固な紐付けを実現している。

データの完全複製という観点でも優位性がある。Arweaveや一般的なIPFSの活用では、ノードスペックの制約から大きなデータは完全同期されない仕様となっているが、シンボルブロックチェーンでは全ノードでデータの完全複製が同期されるという。

これにより、クロノスはデータの永続性をより確実に担保している。NFTが存在する限り、そのデータも必ず存在する仕組みとなっているのだ。

[クロノスのNFTデザイン。ブログはこの画像データを持つNFTに紐づく]

100名のブロガーが待機

中島氏はトラック運転手としてリネン配達業務に従事していたが、勤務先の理解と協力を得て、現在はWeb3事業の開発に取り組んでいる。

きっかけは一つのツイートだった。中島氏はフルHD動画のブロックチェーン保存に成功したことを報告するツイート(写真下)を投稿し、それが大きな反響を呼んだ。その後、クラウドファンディングでの資金調達を経て、NFTドライブの開発に着手。会社設立へとつながった。

クロノスは、デジタルアーカイブとしての実用性をすでに学術分野で実証している。2023年、中島氏自身が執筆した2編の論文をブロックチェーンに保存し所属するデジタルアーカイブ学会で発表、プロフェッショナルな評価を得た。

こうした功績が認められ、日本ブロックチェーン協会から「BlockchainAward05 Person of the Year」を受賞。さらに、アジア太平洋地域のビジネスWebメディアAPAC Insiderからは、「Best Blockchain Digital Archive Solutions Provider 2024」を授与された。

クロノスは当面、シンボルブロックチェーンコミュニティに所属する約100名のブロガーによる記事投稿を見込んでいる。投稿にはブロックチェーンの基礎知識が必要となるが、閲覧は通常のブログと同様だ。

「クロノスは、人類の知識を改ざん不可能な形で保存し、未来へと繋げるためのプラットフォームです」

noteは1月、Googleとの資本業務提携を発表した。それに続くように、京都発のスタートアップが独自の取り組みを公開。ブロックチェーン技術による完全なデータ保存という選択肢を、デジタルアーカイブの世界に提示する。

|文:栃山直樹
|画像:NFTDrive提供