地域通貨、ST、万博ウォレット──注目企業のWeb3活用事例を一挙紹介【N.Avenue club Summit企業発表会 Part1】

CoinDesk JAPANを運営するN.Avenueが2023年7月に開始した「N.Avenue club」は、Web3をリサーチ・推進する企業リーダーを中心とした、国内最大の法人会員制Web3ビジネスコミュニティである。

本記事では、2月27日に開催した年に一度の「N.Avenue club Summit」で自社の取り組みや事業内容を発表した法人会員企業19社(一部掲載不可)の様子をPart1としてお届けする。

同日行われた自民党デジタル社会推進本部web3担当の塩崎彰久議員による特別セッションなどは既報のとおり。

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①株式会社北國銀行

デジタル部の北浜勇希氏が、ブロックチェーン技術を活用したデジタル通貨アプリ「トチツーカ」の取り組みについて発表した。

トチツーカは、地域経済の活性化とキャッシュレス決済の普及を目的に開発され、石川県内の加盟店で利用できる。同行が発行する日本初の預金型ステーブルコイン「トチカ」と、自治体が発行するポイント「トチポ」の2種類の地域通貨を利用可能だ。

トチツーカの導入背景には、日本国内のキャッシュレス化の遅れや、現金管理のコストがある。日本のキャッシュレス比率は約39%で、アジア主要国(約83~93%)と比べて低水準だ。また、ATMや店舗運営にかかる現金の取扱いコストは年間約2.8兆円にのぼり、環境負荷も大きいという。北浜氏は、こうした課題を解決すべく、ブロックチェーン技術を活用したデジタル通貨の仕組みを着想したと説明した。

トチツーカの特徴としては、マルチアセット機能、開発費や運営費を自治体と分担していること、県内の信用金庫などとの連携を挙げた。

また、同行の口座を持たない人でも「ステーブルコインを使って地域で決済できる仕組み」を構築していると述べ、現在はリテール決済が中心だが、将来的には企業間決済や国際送金へのユースケースも視野に入れていると話した。

②トヨタファイナンシャルサービス株式会社

ブロックチェーンラボの岸本隆平氏が、セキュリティトークン社債の発行やモビリティ価値のトークナイゼーションなど同社のWeb3を活用した同社の取り組みを紹介した。

同社のブロックチェーングループは、トヨタグループの金融統括会社として、ローンやリースなどの金融サービスを提供する一方、新規事業の創出にも注力している。近年ではパブリックブロックチェーンの活用を進め、より多くの企業や世界市場への展開を進めており、トヨタファイナンシャルサービス単体での取り組み、トヨタ自動車全体としてのプロジェクト、さらにコミュニティを巻き込んだ活動の3つの側面から事業を展開していると話した。

岸本氏は直近の事例として、2025年2月10日にセキュリティトークンを活用した社債を10億円発行したことを紹介。大和証券や関係各社と連携しながら実施され、市場からも好評を得ているとし、ブロックチェーン技術を活用することで、効率的で透明性の高い資金調達手段を確立することを目指していると述べた。

また、車両の資産価値や利用データを活用した新たなファイナンスモデルの構築にも取り組んでおり、将来的には車自体が「街の一部」として機能する可能性を探っているという。イーサリアムコミュニティとも連携し、2024年7月には関連するホワイトペーパーを発表するなど、業界全体の発展に寄与する活動も展開していると述べた。

BIPROGY株式会社

プロダクトマネジメント部の勝山氏が、ブロックチェーン技術を活用したデータ分析プロジェクトや新たなマーケティング手法の開発について説明した。

同社は現在、複数の企業や団体と連携し、オープンデータの活用を模索している。勝山氏はその一例として、そごう・西武などと連携し、NFT販売に関わるWeb3プロジェクトを推進していることを紹介。トークングラフの分析を通して「個人の嗜好・特性」や「利用者から見たプロジェクトの位置づけ」を把握し、新たなマーケティング手法の開発に取り組んでいると述べた。

また、NFTを通してスポーツ選手とファンがつながるコミュニティー形成の実証実験も進めており、2024年はフェンシング選手と連携したプロジェクトを実施したことも明らかにした。

④株式会社HashPort

Web3ウォレットプロダクト部の籔祐人氏は、4月に開幕する大阪・関西万博に提供されるウォレットアプリ「EXPO2025デジタルウォレット」の開発や企業と連携したWeb3プロジェクトについて説明した。

同社は、Web3ウォレット及びSBT(ソウルバウンドトークン)を活用したデジタル証明の実装や各企業向けWeb3ウォレットの構築を進めている。籔氏は、大阪・関西万博には国内外から2,820万人の来場者が見込まれており、「Web3を活用した大規模な実証実験の場となる」との期待を示した。

また、同社は2025年4月から開始される大阪・関西万博で協賛しているWeb3ウォレット及びSBTを活用したマーケティング施策にも積極的に取り組んでおり、既に60以上の企業、行政・自治体のプロジェクトと連携し、600種類以上のSBTを用いたキャンペーンを展開していると説明。さらに、EXPO2025デジタルウォレットの技術基盤を軸に、エンタープライズ領域への組み込みプロジェクトも推進していると述べた。

加えて、海外のブロックチェーンプロジェクトや分散型金融(DeFi)関連企業とも連携し、自社サービスのグローバル展開を目指していると話した。

⑤株式会社野村総合研究所

DX基盤事業本部の南剛志氏が、セキュリティトークン(ST)、クロスチェーン決済、Web3対応のCRM(顧客関係管理)などの取り組みについて説明した。

南氏はまず、2019年に野村ホールディングスとの共同出資で設立されたBOOSTRYに言及。STの発行や取引を可能とするプラットフォームの開発や運営を行っており、信託銀行や証券会社と連携したSTの流通・管理の仕組みを構築していると説明した。

また、Web3向けのデジタルウォレット開発キットを提供し、企業や開発者が分散型アプリケーション(Dapps)やNFTなどを簡単に構築できるよう支援していると説明。クロスチェーン決済やWeb3に特化したCRMソリューションの開発にも取り組んでおり、異なるブロックチェーン間でのスムーズな取引や顧客管理の効率化を目指していると述べた。

加えて、Web3の普及に伴うセキュリティ対策の重要性を踏まえ、グループ会社を中心に企画から運用まで一貫したセキュリティ支援サービスを提供していると説明した。

企業発表会は、Part2に続く。

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|文・編集:CoinDesk JAPAN編集部
|撮影:多田圭佑