アイドルへの推し活や人事評価にも──注目企業のWeb3活用事例を一挙紹介【N.Avenue club Summit企業発表会 Part2】

CoinDesk JAPANを運営するN.Avenueが2023年7月に開始した「N.Avenue club」は、Web3をリサーチ・推進する企業リーダーを中心とした、国内最大の法人会員制Web3ビジネスコミュニティである。
本記事では、2月27日に開催した年に一度の「N.Avenue club Summit」で自社の取り組みや事業内容を発表した法人会員企業19社(一部掲載不可)の様子をPart2としてお届けする。
同日行われた自民党デジタル社会推進本部web3担当の塩崎彰久議員による特別セッションなどは既報のとおり。
関連記事:ステーブルコイン、ST──トランプ政権下で日本がとるべき戦略は【N.Avenue club Summit企業発表会】
⑥株式会社シーエーシー
ブロックチェーン推進グループ長の薮下智弘氏は、Web3技術を活用した研究開発や実証実験、プロダクト開発を積極的に進めていると述べ、セキュリティトークン(ST)発行プラットフォームの開発やSBIトレーサビリティと連携した証明書管理システム、自社企画開発で2017年から社内でも導入している従業員同士がトークンを活用して日頃の感謝やスキルに対する賞賛を送り合ってピアボーナスが得られる従業員エンゲージメントトークンプラットフォーム「KOUKA」について説明した。

「つながりを可視化する」というKOUKAについて、薮下氏は「閉じた世界」になりがちな人事評価に対し、ブロックチェーン・Web3技術を活用して社内外を含めた360度評価によりエンゲージメントを高めるアプローチを採っていると述べた。

さらに、内閣府の実証事業として採択された1m以内の誤差で高精度な位置測位が可能な「みちびき」とブロックチェーンを組み合わせた配達員向けの保険システムの事業開発も進めていると紹介。配達員のスコア化された運転記録をプラットフォーム上で共有し、交通ルールを遵守しているかをブロックチェーン上で証明する仕組みだと述べた。
業界全体でデータを共有することで、事故のリスクを可視化し、適正な保険料設定や配達員の安全対策につなげることを目指していると話した。
⑦東急不動産ホールディングス株式会社
グループCX・イノベーション推進部の鳥巣弘行氏は、NFTを活用したスキーリゾートやホテル事業での取り組み、さらにWeb3を活用した地方創生の取り組みについて紹介した。

鳥巣氏は一例として、北海道ニセコのスキー場での実証実験を挙げた。NFT購入を購入することで一般客よりも早くゲレンデに入れる権利や、ハイシーズンに予約困難なホテルの宿泊権などが得られる仕組みを導入。「海外からの観光客も多く訪れるエリア」で特別な体験を提供できたと振り返り、リゾート施設の新たな収益モデルの可能性を探っていると話した。
また、ホテル事業では、宿泊予約の変更時に発生するキャンセル料の課題に対処するため、NFTを活用した予約のリセールを可能にする実証実験を実施。都市型ホテルやゴルフリゾートなどで導入し、実用性を検証している。

さらに、地方創生事業にも注力している同社では、DAO(分散型自律組織)によって「地元の熱量パーソン」を巻き込み、地域課題の解決を図るとともに活動の可視化を進めていると語った。
⑧スカパーJSAT株式会社
新領域事業部の上垣健吾氏は、「クリエイターエコノミーへの参入」と「新しい権利ビジネスの創出」を狙いとする同社のWeb3事業について説明した。

上垣氏は、2023年12月からスカパー!投票というサービスをトライアル運用していると紹介。このサービスでは、アイドルやゴルフ、韓流タレントなどさまざまなジャンルでファンが投票を行い、エンタメ体験を楽しめる仕組みを提供。NFTやブロックチェーンを活用することで、投票権の付与やデジタルアイテムの取引を可能にし、「新たなファン参加型の仕組みを構築している」と述べた。

例えば、アイドルイベントでは、ファンがデジタルチェキを購入すると投票権が付与され、イベント当日の髪型やライブで最も活躍したMVPを決定できる仕組みを導入。リアルとデジタルを融合した新たなエンタメ体験を創出していると述べ、実際に開催したイベントでは、参加者400人規模ながら1人あたりの平均課金額が1万円を超えるなど、高い経済効果を示したと明かした。
このほか、秋元康氏がプロデュースしたWeb3.0アイドル「WHITE SCORPION」の運営者と連携した企画も進めるなど、「Web3ならではのエンタメ体験の構築に取り組んでいる」と述べた。
⑨アクセンチュア株式会社
ストラテジーグループの伴野友香氏は、同社が注力アジェンダとして位置付けているWeb3技術を活用した「ユーザー主権のデータモデル」構想を紹介。運転免許証やデジタル通貨の保有状況など各々がウォレットを保有することで、情報共有の迅速化とコスト削減を実現する仕組みだと説明した。

伴野氏は既存のデータモデルの課題として、各企業やプラットフォームが情報を囲い込んでしまうことにより、ユーザーが何度も個人情報を登録し直す手間があることや企業のデータ取得の難易度とコストが増大している点を挙げた。
そのうえで、ユーザーがウォレットに情報を保管し、企業との情報共有を迅速化する仕組みを提案。ユーザーはワンタップで情報を開示でき、企業は必要な情報を適宜取得できると説明した。

想定されるユースケースとして旅行を挙げ、食の好みや旅先での疲れ具合などをウォレット経由で開示することで、ホテルがレストランやスパの提案を最適化し、プロモーションや特別オファーを提供できる可能性を示した。
⑩一般社団法人社会実装推進センター(JISSUI)
代表理事の中間康介氏が、Web3の社会実装に向けた取り組みと経済産業省の実証事業について語った。同法人は、新技術やサービスを社会に定着させる「社会実装」に特化した団体であり、実証事業の設計や運営を支援している。中間氏は企業や自治体と連携しながら、「得られたノウハウを発信、展開する役割を担っている」と説明した。

また、経済産業省の「ブロックチェーンを活用したデジタル公共財等構築実証事業」では、事務局としてプロジェクトを統括。複数の事業者を選定し、Web3を活用したさまざまな実証実験を取りまとめている。スポーツ業界や地方創生など多様な分野で、「Web3をツールとしてどう使えるか」という観点で実証事業を進めたと説明。成果報告書は3月中に公開予定であり、成功例だけでなく課題も含めて「赤裸々に記載することを意識した」と中間氏は述べた。

加えて、ワークショップを通じて専門家の意見を取り入れながら、各実証事業をブラッシュアップしてきたことを強調。特に、DAOを活用した関係人口の創出に関するガイドライン策定では、島根県の調査実証を支援し、来年度以降も継続的に関与する予定だと話した。
Web3の発展には、実証結果の共有と業界全体での知見の蓄積が重要と話し、ガイドラインの策定やフリートークの場を設けることで、Web3の社会実装を加速させたいと述べた。
企業発表会は、Part3に続く。
関連記事:不動産STの発展、NFT×ウェルネス──注目企業のWeb3活用事例を一挙紹介【N.Avenue club Summit企業発表会 Part3】
|文・編集:CoinDesk JAPAN編集部
|撮影:多田圭佑