政府・日銀が本音で討論!お金の正体とデジタル化の行方【FIN/SUM 2025】

3月4日から7日まで都内で開催された「FIN/SUM 2025」内で6日、「政府・日銀本音トーク〜新時代のマネーとフィンテック」と題したパネルディスカッションが開かれた。日本銀行決済機構局FinTech副センター長 デジタル通貨検証グループ長の鳩貝淳一郎氏、財務省理財局国庫課課長兼デジタル通貨企画官の津田夏樹氏、金融庁総合政策局フィンテック参事官室チーフフィンテックオフィサーの牛田遼介氏、デジタル庁デジタル社会共通機能グループ統括官の楠正憲氏が登壇し、ステーブルコインやCBDC(中央銀行デジタル通貨)、現金の未来について意見を交わした。

「FIN/SUM中のビッグニュース」

牛田氏は、民間が発行するトークンの監督などを行っていると金融庁の立場を説明した後、井藤英樹金融庁長官が、国内初のステーブルコイン取引業者を認可すると発表したことに言及。「FIN/SUM中のビッグニュース」だったとしたうえで、現在流通しているマネーとステーブルコインはほぼ同じように利用できる可能性があると述べ、ユースケースの登場に期待を寄せた。

関連記事:SBI VCトレード、ステーブルコイン「USDC」のサービスを3月12日に開始──電子決済手段等取引業者、第1号認可を取得

一方、財務省の津田氏は、旧フェイスブックが構想していたリブラをきっかけに暗号資産(仮想通貨)に関心を持つようになったと振り返る。その後、IMF(国際通貨基金)でCBDCのブームを目の当たりにしたとし、法定通貨でありながら電子的な形態で提供されるCBDCの特徴を説明した。

経済成長とCBDCの未来

日本銀行の鳩貝氏は、民間事業者と連携した日本銀行の取り組み「CBDCフォーラム」について紹介。現金のハンドリングコストは想像以上に大きいと指摘し、選択肢の一つとして国がCBDC発行に関する研究を行うことは重要だとの見解を示した。

また、決済や支払いの仕組みが経済成長の妨げになってはならないと強調。現金を「経済活動における黒子」と表現し、良い役者(事業者)が参入しやすくなるためにも、黒子の仕組み自体を時代に合わせてアップデートする必要があると述べた。これに対し津田氏は、CBDCのようなデジタル通貨は、データをまとわせることで新たな可能性を持つのではないかと応じた。

「一様性」「匿名性」という現金の特性

ディスカッションは現金や紙幣の特性にまで及び、「マネーとは何か」という根源的な議論へと発展した。

〈左から、楠氏、牛田氏、津田氏、鳩貝氏〉

牛田氏は「マネーには一様性がある」と説明。職業や年齢、性別、国籍に関わらず、誰がどこで使っても一万円は一万円であり、その価値は変わらない。しかし、犯罪者などの利用をどう防ぐかという問題もあり、「デジタル通貨にも、この一様性を求めるべきか」の答えはまだ出ていないと述べた。

津田氏は現金の特殊性について「究極のオフラインかつ匿名の決済手段」と表現。デジタル通貨の設計で、どこまで現金の特性を維持するかが大きな論点になると指摘した。

デジタル通貨に何を求めるか

鳩貝氏は、例えば公的給付金を酒やギャンブルに使えなくするなどの「用途制限付きマネー(Purpose Bound Money)」について言及。「お金に色を付ける」という表現を使い、公的給付金の用途制限のような仕組みがCDBCなどのデジタル通貨でも実現できる可能性があると述べた。ただし、技術的に可能であっても、それを導入すべきかは倫理的な問題でもあり、国民的な議論が必要だと強調した。

楠氏は、技術の進歩が利便性の向上だけでなく、新たな規制や管理の課題を生む点に言及。ブロックチェーンが注目された際に話題となったトレーサビリティ(追跡可能性)は、実は日本銀行券でも発行番号を追跡することで実現可能であり、例えば「盗難金を受け取らないレジ」も技術的には実装できると指摘した。

さらに、現金を「セミファンジブルなトークン」と捉える視点を示し、CBDCに匿名性を持たせることも、逆に現金にトレーサビリティを持たせることも技術的には可能だと論じた。そのうえで、技術の可能性をどう受け止め、どのように制御するかは民主主義のプロセスで決めるべきだと強調した。

|文・写真:橋本祐樹