「成長しなければ、終わり」マネックス・松本氏がナスダック上場の次に描く戦略【GFTN 2025】

3月3日から7日まで都内で開催された「GFTNフォーラム・ジャパン2025」内で5日、マネックスグループ取締役会議長兼代表執行役会長の松本大氏とN.Avenue/CoinDesk JAPAN代表取締役CEOの神本侑季が対談。コインチェックのナスダック上場やその後のM&A戦略、日本市場やステーブルコインの見通しなどが話題となり、暗号資産関連企業としては世界で2番目の上場企業となったコインチェックを率いる松本氏の発言に海外からの来場者も含め、注目が集まった(対談は英語で行われたため、翻訳・編集されている)。
「すべてが本当に変わった」
──最近の市場の状況について聞きたい。2025年は忙しく、エキサイティングなスタートとなった。特にトランプ大統領就任後の米国の動向が大きい。グローバルな暗号資産市場について、見解をぜひお聞きしたい。
松本氏:昨年の前政権、前SEC体制と比較すると、暗号資産(仮想通貨)関連業界には多くの支援者がいる。今、状況は本当に変わった。ただし、単にバイデン前大統領とトランプ現大統領の影響だけとは言えないだろう。米国の社会、リーダーたちが暗号資産に対する姿勢や行動を大きく変えた。
トランプ大統領や政権関係者は、世界最大のハッシュパワーを確保したいと述べている。米国の戦略的準備金にビットコインを加えるという話も出ている。これについてはおそらく、多くの議論や論争が起こるだろうが、少なくとも彼らはそう考えている。2024年から見ると、すべてが本当に変わった。目の前には、本当にエキサイティングな時代が訪れている。
──米国の暗号資産業界は、明らかに競争が激しくなっている。
松本氏:我々はSPAC(特別買収目的会社)上場を行い、コインチェックグループ(Coincheck Group)をナスダック上場会社にした。これには2年半か、3年近くかかった。だが今、暗号資産、Web3、ブロックチェーンなど、さまざまな企業がIPOを目指し、JPモルガンのような巨大投資銀行と取引していると聞く。
2024年にはほとんど誰も、暗号資産関連企業がIPOできると考えていなかった。できると思っていたのはおそらく、著名投資家のマイク・ノボグラッツ氏と私ぐらいだったかもしれない。多くの企業が参入し、競争が激しくなっているが、非常に良いことだと思う。
ナスダック上場の狙いは「買収通貨」

──CoinDesk JAPANのインタビューで、ナスダック上場の最大の目的は「買収通貨」を手に入れることと語っていた。その点を詳しく聞きたい。また、どの買収を狙っている領域はどこか?
松本氏:現状、残念ながら暗号資産関連の事業会社は一般的に銀行からお金を借りることはできない。社債も発行できない。
一方で、コインチェックが成長するためには、日本国内だけに留まっていることはあまり意味がない。暗号資産/ブロックチェーンはグローバルビジネスだ。だから、世界にどんどん展開していきたい。
それを実現するためには、M&Aはきわめて重要な手段だ。しかし、そのためには、コインチェックが多くの利益をあげるか、親会社のマネックスグループが資本を投下する必要がある。それが唯一の方法になる。そして、M&Aのスピードや規模については、当然ながら非常に厳しい上限が設けられることになる。
つまり、M&Aで積極的に活動するための唯一の方法は、買収能力を持つこと。つまり上場して株式を交換し、企業を買収できるようにすること。あるいは株式を公開市場で発行し、資金を調達できるようにすることだ。そのためには、自社で独自の買収通貨、アクイジション・カレンシー(Acquisition Currency)を持つことが非常に重要となる。だから、我々はコインチェックを何としても上場させる必要があった。
そして、この業界で考えたとき、米ナスダックの株式はベスト、かつ世界共通の買収通貨になる。東京証券取引所の株式と比較しても、米ナスダックの株式の方がはるかに優れている。
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垂直・水平でのM&Aを検討
──今後、どのような買収戦略を展開するのか。つまり、どの地域や事業をターゲットにしているのか?
松本氏:今まさに、具体的な買収交渉を進めているところだ。コインチェックは1月31日にステーキングサービスの提供を開始した。以前は、SECとの摩擦を避けるために、ステーキングサービスの提供は避けていたが、もはやハードルはなくなった。なので、ステーキングサービスの提供をサポートできる企業の買収を進めている。リスク管理や収益性からも大きなメリットがある。
つまり、我々は自社のビジネスを強化できる企業の買収に関心を持っている。国内、海外は問わない。コインチェックと同様のビジネス、つまり取引所の買収にも関心がある。
伝統的な金融ビジネスでは、ブローカーディーラー(証券会社)の業務は日米で異なる。例えば、東証とナスダックでは、カストディアンや流動性プロバイダーは異なり、シナジーやコスト削減効果は非常に限定的になる。
しかし、暗号資産の世界では、カストディアンも流動性プロバイダーもグローバルで共通している。関連ビジネス、セキュリティなど、すべてが同じだ。最後のワンマイル、つまりP2C(対消費者)の部分だけが規制の関係で国ごとに異なることになるだろう。
つまり、日本国内であれ、海外であれ、そうした企業を買収すれば大きなシナジーが期待できる。これはつまり、垂直的な買収だ。もちろん、サイバーセキュリティやオンランプ/オフランプなど、水平的な買収もある。事業拡大に向けて関心を持っている分野は数多くある。
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税制改正と機関投資家向けビジネスに期待

──日本の話題に移りたいと思う。日本市場の現状をどう見ているか。
松本氏:ご存知のように、日本の規制当局や政治家は暗号資産に対して非常にフレンドリーだ。少なくとも11月までは、日本政府は暗号資産に対して、世界で最もフレンドリーだった。今はたぶん、米国の方がフレンドリーかもしれない。だが日本にはきわめて大きな問題が1つある。税制だ。暗号資産取引などでの利益は、総合課税となっている。
だが、日本政府はビットコインETFを導入することに前向きに取り組んでおり、そのためには、ビットコイン現物の取引に対する税制も変更する必要がある。異なる税率になることは、論理的ではないからだ。2年後には、日本の暗号資産税制は、総合課税から分離課税に変更されると考えている。
これは素晴らしいことだ。現状の総合課税でも暗号資産取引は行われている。だが、分離課税になれば、今よりもきわめて活発になるはずだ。日本人はビットコインに最も早くから参入している。税制が変われば、我々のビジネスにとって非常に大きな転機となるだろう。
──税制改正については我々も期待している。日本市場にはまだ課題がある一方で、日本で暗号資産ビジネスを展開するうえでの好材料は何か。
松本氏:日本で今、デメリットになっているところにチャンスがある。税制もそうだが、もう1つは機関投資家向けビジネスだ。
現状、日本の機関投資家は暗号資産投資を行っていない。私は約40年、資本市場にかかわってきた。日本の機関投資家は常に参入は遅いが、一度参入すると大きく成長する。暗号資産でも同じことが起こるはずだ。日本の機関投資家は暗号資産投資に参入するだろう。我々にとって非常に興味深く、重要な機会となる。
「成長しなければ、終わり」

──他のインタビューで、グローバルマネーが再び日本市場に集まっていると述べていた。グローバルな資本を惹きつけ、ビジネスを加速させるために、日本企業は何をすべきだろうか。
松本氏:私は日米の資本市場で仕事をしてきた。そして今は銀行家ではなく、経営者として米ナスダックとかかわっており、成長に対する強いプレッシャーをひしひしと感じている。米国で求められるのは、成長だ。成長しなければ、終わり。日本ではまだ、そうした考え方は強くない。日本企業がグローバルな投資家の注目や資本を引きつけるためには、成長により一層力を入れる必要がある。
──今、ビットコインETFとステーブルコインが大きな注目を集めている。今後、この2つのような新たなユースケースとして期待できるものは何だろうか。
松本氏:ステーブルコインは、私には非常に複雑だ。私はビジネスマンであり、ビジネスでいかに利益をあげるかを考えている。さらに税務当局や中央銀行、国がステーブルコインをどう捉え、どう対応するのか。日本ではトークン化預金も議論されている。他にも多くの議論がある。もちろんビジネスチャンスがあれば参入するが、ステーブルコインはきわめて慎重に捉えている。
ETFも同様だ。ETFビジネスは非常に厳しいビジネスだ。この領域は大手企業、大手銀行に任せたい。我々はいくつかのチャンスを捉えようとしている。この分野は本当にエキサイティングだが、どこで利益をあげるか、どこで成長できるかを見極めるためにきわめて賢明でありたいと考えている。
|文・撮影:増田隆幸