金融のトークン化で変わる日本企業の財務戦略──JPモルガン『Kinexys』幹部が生出演【N.Avenue club 2期9回ラウンドテーブル・レポート】

デジタル資産の進化が金融のあり方を大きく変えようとしており、その波は日本にも押し寄せている。

米銀最大手のJPモルガン・チェースは次世代デジタル資産プラットフォーム 「Kinexys」 を開発、資産のトークン化を活用し、新たな金融取引の可能性を拓いている。日本でもトークン化金融商品は急速に普及しつつあり、特にマンションやホテルなどの不動産や企業が発行する社債を裏付けとしたセキュリティ・トークン(デジタル証券)市場が拡大している。

トークン化が金融における新たな流れとなっているなか、Web3をリサーチ・推進する企業リーダーを中心とした、法人会員制の国内最大Web3ビジネスコミュニティであるN.Avenue clubは、3月13日に2期9回ラウンドテーブルを開催、このテーマについて議論した。

「金融のトークン化で変わる日本企業の戦略」と題して行われたラウンドテーブルでは、JPモルガンのKinexy幹部をはじめ、世界最大級のセキュリティトークンプラットフォーム・Securitizeの日本代表、セキュリティトークンを活用した資金調達など数多くの証券発行案件に関わる国内大手法律事務所の弁護士、メガバンクのデジタル戦略担当者がプレゼン。参加者によるグループディスカッションも行われた。

N.Avenue clubのラウンドテーブルは、会員のみに向けたクローズドなイベントのため、ここではその一部をレポートする。

金融のトークン化で変わる日本企業の財務戦略

冒頭、オンライン登壇したのは、JPモルガンでKinexys Digital PaymentsのEMEAヘッドを務めるバシャーク・トプラック氏。トプラック氏はJPモルガンにおけるブロックチェーン事業の歴史を振り返った上で、Kinexysの機能と特徴を解説した。

Kinexysには4つの機能があり、その一つが24時間週7日、ほぼリアルタイムで送金できる送金ソリューションのKinexys Digital Payments。既に稼働開始から4年以上経ち、トランザクションは累積1.5兆ドル。JPモルガン以外の金融機関への送金、事前にトリガーとして条件を設定しておき、自動的に送金を行うプログラマブルペイメントなどの機能を持つという。

国際送金の世界では主にSWIFTが使われているが、トプラック氏は「ブロックチェーンを活用した決済・送金の浸透には時間がかかるので、それまでは(SWIFTのような)既存のインフラとのインターオペラビリティが欠かせないが、(この分野における)ブロックチェーンの活用の割合は徐々に高まっていくだろう」などと述べた。

日本でも増えるセキュリティトークンの発行事例 企業が考えるべきことは?

メインセッションは、Securitize Japanのカントリーヘッド、小林英至氏のプレゼンからスタートした。Securitizeは2017年に創業したの世界最大級のセキュリティトークンのプラットフォームで、BlackRockのトークン化ファンド「BUIDL」などで知られる。小林氏はSecuritizeのグローバルでの動きとともに、丸井グループやフィリップ証券などの、日本でも増えてきているトークン発行事例を紹介した。

セキュリティトークンの発行に取り組む企業が増えていることについて小林氏は、「単にファイナンスだけでなくロイヤルティマーケティングにも使えるというメリットがある」と指摘。これに対して会場からは、「企業側では、資金調達の担当者だけではなく、マーケティング担当者も巻き込む必要があるが、実態はどうなのか」などといった質問も寄せられていた。

会場からはこのほかにも、パブリックチェーンの活用を進める上での、日本の発行体側における問題点や、BUIDLの世界観を日本で実現する上での課題などについても質問があり、それぞれに答えた。

RWAトークンにかかる法規制以外に重要な観点とは

次にアンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 パートナー弁護士の梅津公美氏が登壇。梅津氏は、国内外の資本市場における証券発行案件に多数関与した経験を持つるほか、不動産ファイナンス、プロジェクトファイナンスを含む金融取引、セキュリティトークンを活用した資金調達など、企業法務全般を幅広く手掛けている。

梅津氏はRWAトークンの定義や暗号資産との関係性、RWAトークンが適用されうる規制などについて順を追って説明。ビジネス上のメリットや実際のユースケースについても報告した。代表的なユースケースの一つである、動産(酒類)引渡し請求権を表章するNFTについては、お酒の販売には酒類販売免許が必要だが、動産引き渡しなので、個人間でも免許がなくても販売が可能であることをメリットとして紹介した。

法規制の観点とは別に、RWAトークンがブロックチェーン上で移転するとはどういうことかを考える必要があると説く梅津氏に、会場から、「NFTの移転に伴って所有権、請求権も移転していることが第三者に抗弁できるのか?その場合、酒類免許は必要か?」といった質問が寄せられた。

これに対し梅津氏は、「債権として構成している限りにおいては、酒類販売免許は要らない」とした上で、「ブロックチェーン上でトークンが移転したことで債権の移転が実現できるのかは論点だが、現状で法的にはできていない」などと解説していた。

さらに、三井住友銀行/三井住友フィナンシャルグループのデジタル戦略部部長代理で、デジタルビジネスエキスパートの中井沙織氏が、デジタル戦略部のグループにおける役割や、グループのこれまでの取り組みを紹介した。

企業のアセットを活用したトークンによる資金調達プランは?トークン活用のメリット・課題は?

ラウンドテーブル・レポートの後半は、参加者全員が6つのテーブルに分かれてディスカッション。掲げられた2つのテーマである「① 日本企業のアセットを使ったトークンの資金調達プランを考案」「② 企業がトークンを活用するにあたってのメリット・課題」のいずれかから選んで、議論を交わした。

N.Avenue clubは、国内外のゲスト講師を招いた月1回の「ラウンドテーブル(研究会)」を軸に、会員企業と関連スタートアップや有識者との交流を促す「ギャザリング」などを通して、日本のWeb3ビジネスを加速させる一助となることを目指す会員制のコミュニティ。事務局は、Web3ビジネスに携わっている、または関心のある企業関係者、ビジネスパーソンへの参加を呼び掛けている。

|文:瑞澤 圭
|編集:CoinDesk JAPAN編集部
|写真:多田圭佑