ドルのオンチェーン化が世界を変える──サークルCBOが語るUSDC普及の鍵

米ドル連動型ステーブルコイン「USDC」を発行する米サークル社は3月25日、「Circle Meets Japan」と題した記者会見を都内で開き、日本市場での事業戦略を発表した。

同社CEOのジェレミー・アレール氏とSBIホールディングス(HD)代表取締役会長兼社長の北尾吉孝氏が登壇した記者会見の様子は既報のとおり。SBI VCトレードは、日本初となる電子決済手段等取引業の認可を取得し、一般向けにUSDCの取り扱いを開始した。これは、国内市場でのステーブルコイン商用化に向けた重要な一歩といえる。

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CoinDesk JAPANは記者会見後、サークル社の最高事業責任者(CBO)カシュ・ラザギ(Kash Razzaghi)氏に単独インタビューを実施。USDCの日本市場での可能性や販売所での売買や出庫時の上限100万円の規制、「トークン化預金」との違いについて話を聞いた。

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上限100万円規制の影響と日本市場への期待

──SBI VCトレードがUSDCの取り扱いを開始した。グローバルな暗号資産市場から見ると、日本市場は規模や影響力は小さいのではないか。

日本市場には非常に期待している。日本は世界第4位の経済大国であり、金融経済のハブだ。資金の流入・流出の経路としても重要で、暗号資産(仮想通貨)取引にも非常に早い段階から取り組んでいた。

USDCの価値保存機能や安価な資金移動という利便性を考えれば、日本市場は適した環境だ。現在の規模だけでなく、決済速度の向上に伴い今後の成長に期待している。

──今回、1回の取引あたり100万円の上限が設定されたが、この規制をどう見ているか

まず、日本がステーブルコイン規制の分野でリーダーシップを発揮している点を評価している。しかし、100万円の上限は、今後の取引拡大を考えると制約となる可能性がある。企業やユーザーの取引量が増えるにつれ、より柔軟な対応が求められるだろう。他国ではこの水準の上限はない。

時間が経てば、規制当局もこの点を見直し、撤廃する可能性が高い。まずは普及に向けた第一歩として受け入れるが、長期的には不十分だと言えるだろう。

ドルへのアクセスと「オンチェーン経済」の到来

〈記者会見で語るジェレミー・アレールCEO:CoinDesk JAPAN〉

──新興国では、ステーブルコインは日常的な決済手段として使われている。日本のような先進国でも、こうしたユースケースは広がると思うか。

ステーブルコインの可能性は「資金のオンチェーン化」にある。オンチェーンでの資金移動が進めば、他の通貨もオンチェーン化し、オンチェーン経済が形成されるだろう。

我々のCEOが先ほどの記者会見で話していたように、当社はドルやユーロ、日本円がオンチェーンでシームレスに交換される未来を見据えている。そうなると、先進国もこの流れに乗らなければ、取り残される可能性が出てくる。

すべての資金移動、通貨交換、価値交換がオンチェーンで行われる世界の到来には、時間を要するかもしれない。しかし、技術の進化と各国の関与拡大により、間違いなく訪れる。グローバルな貿易もオンチェーンで行われるようになるのは、そう遠い未来ではないと思う。

──USDCの普及は多くの日本人にとって、初めてドルと直接接する機会になるかもしれない。金融市場や日本人にどのような影響をもたらすだろうか。

米ドルは世界の基軸通貨だ。例えば、当社は世界最大のデジタル銀行といわれるブラジルのNubank(ヌーバンク)と連携し、同国市民に米ドルへのアクセスを提供した。

日本でも同様のことが起こる可能性がある。企業や個人が、第二通貨として米ドルを保有することで、国際的な経済活動への参加機会が広がるだろう。また、自国通貨がインフレや価値下落の影響を受けることを懸念する人々にとって、安定した米ドルを持てることは大きな魅力となる。

既存アプリとの連携、トークン化預金との違い

──日本ではPayPayなどの決済アプリが普及している。既存プレーヤーとは、競合関係になるのか。

日本での決済アプリの普及はもちろん理解しているが、競争というよりも、むしろ協力する形になると考えている。

国内の資金移動はすでに便利だが、問題は国際送金にある。PayPayのようなアプリがデジタル通貨をサポートすれば、国際送金の利便性が向上する。例えば、日本を離れた日本人が母国へ送金する場合、USDCを利用すれば、円と簡単に交換できる。こうしたユースケースこそがUSDCの強みだ。

──ブロックチェーンを活用した他の手段として、日本では「トークン化預金」も注目されている。USDCとは、競合関係になるのではないか。

ステーブルコインとトークン化預金は目的が異なる。ステーブルコインは価値を安定的に保持する手段であり、国民や企業が資産価値を維持したい場合に役立つ。また、もう一つの用途は安価な資金移動が可能になること。

一方、トークン化預金やトークン化マネーマーケットファンド(MMF)は、利回りの提供などが目的となり、ステーブルコインとは性質が異なる。また、トークン化預金は銀行顧客向けの閉鎖的なシステムになりがちだ。

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まとめると、①ステーブルコイン、②トークン化預金、③トークン化MMFという3つのカテゴリーがあり、それぞれ共存可能だ。しかし、ステーブルコインはオープンで相互運用性があり、国境や銀行の垣根を超えて利用できる。

──日本人のほとんどは、銀行口座を持っている。口座を持たない人が多い新興市場でステーブルコインが有用なことは間違いないだろう。しかし、日本市場でステーブルコインは広がるのだろうか。

日本には銀行がいくつあるだろうか? すべての日本人が、同じ銀行で取引しているわけではない。銀行は預金を保持したいから、互いに競合している。

これに対し、ステーブルコインのポイントはオープンであること。世界全体がオンチェーンで動く時代を想像してみてほしい。日本の人々も、単に国内でお金を送るだけでなく、他国に送金する機会が増えるだろう。そこにこそ、USDCの価値が発揮されるだろう。

この変化は短期間では実現しないかもしれないが、徐々に進んでいく。多くの国や経済がオンチェーン化するにつれて、日本市場にも変化が訪れるだろう。

マスアダプションへの3ステップ

── 日本の規制は、特に厳しいものではないだろうか。

規制の厳しさは課題だが、段階的に解決されると考えている。まずはUSDCが合法的に利用可能になることが第一歩。次に、SBIなどのパートナーと連携し、エンドユーザーへの普及を進める。最終的には利用者が増え、規制も緩和されるだろう。規制は段階的に整備され、解決されるものなので、私は非常に楽観的に見ている。

──日本でサークルが目指している市場規模はどのくらいか。

それは難しい質問だ。私たちは、特定の数値目標を掲げて日本市場に参入したわけではない。たとえば、20億ドルや50億ドルといったUSDCの発行規模を最初から設定しているわけではない。

我々の視点は、もっと大局的だ。繰り返しになるが、日本は世界第4位の経済大国。金融とグローバル経済のハブとしてアジアでも重要な位置を占める。USDCを今導入すれば、今後5年、10年、20年と日本経済とともに成長していくだろう。

日本がグローバル経済において果たす役割を十分に理解しているからこそ、私たちはライセンス取得を進め、早期にこの市場へ参入する決断を下した。市場のポテンシャルを考えれば、非常に大規模な成長が見込まれると考えている。

金融機関との連携と今後の展開

──オンチェーン経済を構築するため、伝統的な金融機関への働きかけは積極的に行っていくのか?

もちろん。我々は日本でより多くのリソースを投入する予定であり、最近、カントリーマネージャーとして健太(編集部注:同社の日本カントリーマネージャーを務める榊原健太氏のこと)を迎えたばかりだ。

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我々がUSDCを普及させる際の戦略は、その国の主流の金融機関と協力すること。これが、サークルのグローバル戦略の中核だ。SBIとの提携はその第一歩に過ぎない。今後、ライセンスを取得している国内の主要取引所やUSDCを活用できるさまざまなアプリケーションとも連携していく。

私はサークルのCBOとして5年間この事業に携わっている。我々のチームは約150人おり、金融機関をはじめとするパートナーシップを通じたUSDCの普及について毎日考えている。

我々は2019年から日本市場を注視しており、ステーブルコイン市場の動向や規制の進展を継続的に追跡してきた。日本市場でのUSDC導入は、極めて大きな意義を持つだろう。

|インタビュー・文:橋本祐樹
|撮影:今村拓馬