サークルCEOが描く「未来のインターネット金融システム」とは:米サークル記者会見

ドル連動型ステーブルコイン「USDC」を発行する米サークル(Circle)が3月25日、「Circle Meets Japan 〜A Celebration of Innovation」と題した記者会見を実施した。カントリーマネージャーの榊原健太氏がまず同社の概要、SBIとの合弁会社設立などを紹介。続いて、SBIホールディングスの北尾吉孝氏(代表取締役会長兼社長)がUSDCを日本で取り扱う意義について語った。当日の発表内容と北尾氏のプレゼンはすでに伝えたとおり。

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その後、共同創業者兼CEOのジェレミー・アレール(Jeremy Allaire)氏が、翌26日から暗号資産取引所SBI VCトレードにおいて一般向け取引サービスが始まるUSDCの現状、サークルのビジョン、未来の金融市場などについて30分弱のプレゼンテーションを行った。ここでは、その概要をお伝えする。

USDCの概要

  • USDCを使用した取引額は25兆ドル(3750兆円、1ドル150円換算)を超えた。直近の1月だけで2兆ドル以上
  • 現在、時価総額は590億ドル(8兆8500億円)以上
  • 2024年1月以降で130%以上成長、世界で最も急速に成長している主要ステーブルコイン
  • 準備金の90%は、資産運用会社ブラックロック(BlackRock)との提携で設立したサークル・リザーブ・ファンドで保有
  • 準備金は米国短期国債、レポ、現金であり、リスクを負っていない

ステーブルコイン・ネットワークを提供

  • サークルはUSDCを発行するだけではなく、世界最大の規制済みのステーブルコイン・ネットワークを運営
  • さらに開発者向けツールも提供。USDCとWeb3テクノロジーの統合(インテグレーション)を可能に
  • 世界中の何千もの企業が、サークルのプラットフォームを自社製品に統合しており、これが強力なネットワーク効果を生み出している
  • 現在、6億人以上がUSDCにアクセス。今後数年で、数十億に広がると確信している

規制と金融市場の進展

  • ほぼすべての主要国・主要市場でステーブルコインの法整備が進行
  • ステーブルコインは金融システムに統合され、新たなインターネット金融システムを構築しつつある
  • 例えば、大手資産運用会社はUSDCを決済手段としたトークン化ファンドを発売。24時間365日稼働するシステムは、24時間365日取引可能なデジタルドルを必要とし、USDCがそれを提供。こうした動きは、伝統的な資本市場に拡大していく
  • 規制の明確化により、グローバルな金融市場、資本市場の改善が促進される

サークルのビジョン

  • 新しいインターネット金融システム」を構築する
  • そのためにまず、お金そのものをオンチェーン化する
  • ステーブルコインは「インターネット上のお金」のベースレイヤーとなる
  • 金融システム全体がオンチェーンに構築される世界を想定
  • 多くのお金がオンチェーン化する。すでにUSDC、EURC(ユーロ連動ステーブルコイン)は存在している。円連動型ステーブルコインもまもなく登場するだろう

サークルが描く「未来の金融システム」

  • 企業は財務管理をすべてオンチェーンで実行できるようになる。企業財務の複雑なワークフローや資金移動が不要になる
  • 企業がオンチェーン・マネーを活用すれば、オンチェーン信用市場が生まれる
  • これまで銀行が担っていた「信用創造」がオンチェーンで可能になる
  • さらにAIエージェントの活用が進む。そのためには信頼性が高く、監査可能で、効率的かつグローバルなオンチェーン資金移動システムが不可欠
  • USDCのほかに、AIの活用をサポート可能な資金移動システムは存在しない
  • 今後10年で、企業の基本的な要素、オーナーシップ、ガバナンス、財務管理などは、すべて検証可能な形でオンチェーン化していく
  • これこそが「未来のインターネット金融システム」となる

プレゼンテーションのあとは、Q&Aセッションと簡単な個別取材も行われた。

先進国でのユースケースは?

〈質疑応答で記者からの質問に応えるアレールCEO:CoinDesk JAPAN〉

──直近の他メディアでのインタビューでは、新興市場や途上国でのユースケースが拡大していると述べていた。先進国でも同様の拡大が可能だろうか。

先進国市場に大きな可能性を見出している。日本でも、グローバルに取引を行う企業が、より効率的なクロスボーダー決済システムから恩恵を受けるだろう。資本が移動中に滞留する時間がゼロになり、資金の移動にかかるコストが削減される。

また、時間はかかるだろうが、商取引における決済を改善するテクノロジーにもなると信じている。ステーブルコインがあれば、企業はデジタルウォレットを持ち、ユーザーのウォレットからの送金を直接、1秒未満で受け取ることが可能になる。決済コストは1円未満だ。

もちろん、こうしたテクノロジーをサポートするウォレットの普及が前提となるが、他の地域ではすでに実現している。ブラジルでは1億人のユーザーを抱えるフィンテック大手「ヌーバンク(NuBank)」が、フィリピンでは最も人気の高いデジタルウォレット「GCash」がUSDCをサポートした。バイナンス(Binance)ウォレットのユーザー数は2億6000万人を超えている。

短期的には、暗号資産市場が重要だ。USDCは、DeFi(分散型金融)やWeb3における主要通貨であり、日本の暗号資産取引所の競争力とサービスの改善につながる。将来的には資本市場での利用を想定している。あらゆる資産がトークン化され、取引や担保などに使われるようになるだろう。

つまり、個人投資家からクロスボーダー、企業、Web3、伝統的な資本市場まで、すべてにおいて、すでに先進国でUSDCは活用されている。今後数年のうちに、日本でも活用されることを期待している。

「上限100万円」は変更を目指す

──USDCの日本での普及を考えたときに、大きなハードルとなるのはなにか。

最初の課題は、認可を取得し、流通パートナーを確保し、システムへの接続を実現することだった。それはクリアした。

次は、より多くの企業と協力し、流通を拡大しなければならない。だがこれは世界中で私たちが行ってきたことだ。私たちは、数百の取引所、決済会社、決済サービスプロバイダー、ウォレット企業、金融機関、銀行と連携している。やるべきことは多い。

もう1つの重要なこととして、今回、1回あたりの取引に100万円の上限が設けられたことがある。世界中の他の地域では、こうした上限は存在しない。3億ドルを送金する人もいれば、5セントを送金する人もいる。日本の政治家や規制当局が注意深く見守っていることは承知しており、大切なことだ。

だが、このテクノロジーの普及を望み、このテクノロジーのメリットを享受したいのであれば、変える必要がある。できるだけ早く変更が実現することを願っている。

トークン化MMFの提供、IPOの予定は

──サークルはトークン化米国債を手がけるハッシュノート(Hashnote)を買収した。日本でも、トークン化MMFのような商品を展開する可能性はあるのか。

今、当社のコア事業にインテグレートしているところであり、国際市場で提供していく予定だ。

日本やEUのような大きな市場では、認可が必要になるはずなので、日本市場に提供する時期についてはまだ決定していない。もちろん、当社のテクノロジーやサービスをすべて日本で提供したいと希望している。

──IPOを予定しているが見通しは。

規制プロセスについてはコメントできない。ただ言えることは、上場し、公開企業になることに全力を注いでいるということだ。信頼性、透明性、説明責任、優れたガバナンス、倫理基準を継続的に示すことはきわめて重要だと考えている。公開企業となることで、世界全体をより良くしていくことにもつながると考えている。

──SBIの北尾氏が先程のプレゼンテーションで「USDTを必ず追い越す」と語っていた。いつ頃、実現できそうか。

当社が優れている点は、コンプライアンスに準拠した製品で、現実世界の銀行システムに統合され、優れたテクノロジーを開発し、誰よりも速いペースで成長し、市場シェアを拡大していることだ。

つまり、私たちは今やっていることを続けるだけで良い。この市場の将来における成長は、規制、コンプライアンス、メインストリームへの普及によってもたらされると確信している。私たちは非常に有利なポジションにあると感じている。

〈都内ホテルで開催された記者会見:CoinDesk JAPAN〉

|文・インタビュー・撮影:増田隆幸、橋本祐樹
※編集部より:本文(金額の単位)を修正して、更新しました。3月28日16時38分