ビットコイン、金商法での位置づけはどうなる──増田弁護士、尾登弁護士が解説【ブロックチェーン推進協会がセミナー開催】

ブロックチェーン推進協会(BCCC)は4月3日、“自民党web3WGによる「暗号資産を新たなアセットクラスに〜暗号資産に関する制度改正案」&金融庁提出の「資金決済に関する法律の一部を改正する法律案」について緊急解説” と題した説明会を森・濱田松本法律事務所で開催した。

2つのテーマのうち、後者(資金決済法の改正案)はすでに今年の3月に国会に提出され、来年(2026年)の施行が見込まれている。前者(web3WGが提言する制度改正案=金商法への移行)は、金融庁での検証が6月末を目処に行われ、最短で2026年の国会で審議・成立が期待されている。

この時系列に合わせて、まず、資金決済法の改正について、森・濱田松本法律事務所シニア・アソシエイト弁護士の尾登亮介氏が、続いて、制度改正案=金商法への移行について、同法律事務所パートナー弁護士でBCCCアドバイザーの増田雅史氏がそれぞれ解説した。ここでは、両弁護士の解説をベースに、資金決済法の改正案と制度改正案=金商法への移行について、改めて整理する。

資金決済法は4回目の改正、来年は抜本的制度改正へ

尾登弁護士は改正の背景を振り返りつつ、「暗号資産関連法制に関しては、仮想通貨交換業登録制度導入から数えて4回目の資金決済法の改正が今年行われるが、来年はさらに進んで、より抜本的な改正が行われる可能性がある」と述べ、今回の改正でのポイントとして、以下の3点を説明した。

  • 暗号資産交換業者等に対する資産の国内保有命令の導入
  • 信託型ステーブルコイン(特定信託受益権)の裏付資産の管理・運用の柔軟化
  • 暗号資産等取引に係る仲介業の創設

暗号資産交換業者等に対する資産の国内保有命令の導入

2022年11月、大手暗号資産取引所FTXが破綻した際、その後の破綻処理などによって日本国内の利用者の資産が海外に流出してしまう恐れが浮上した。このとき、財務省関東財務局はFTX Japanに対して業務改善命令などと併せて、資産の国内保有命令を発した。

こうした規制当局の動きは、暗号資産に関する日本の規制整備、特にユーザー保護の考え方をグローバルにアピールする機会となり、さらに日本のWeb3に対する規制の明確性・先進性・予測可能性などに注目が集まった。

だがこの際のFTX Japanに対する資産の国内保有命令は、暗号資産の現物を規制する資金決済法によるものではなく、FTX Japanが暗号資産デリバティブ取引を提供しており、金融商品取引法(金商法)の規制下にあったことによるものだった。仮にFTX Japanが暗号資産の現物のみの取扱いであれば、資産は国外に流出してしまった可能性がある。

今回の改正案では、暗号資産の現物のみを取り扱う暗号資産交換業者・電子決済手段等取引業者が破綻した場合にも、資産の国内保有命令を出せるようにしている。

信託型ステーブルコイン(特定信託受益権)の裏付資産の管理・運用の柔軟化

〈資金決済法の改正案について解説する尾登弁護士(左)〉

ステーブルコインについては、令和4年(2022年)の資金決済法改正で、発行者として「銀行・資金移動業者」に加えて新たに「特定信託会社」が、仲介者として「電子決済手段等取引業者」が整備された。

2024年3月、米サークルが発行するステーブルコイン「USDC」の取扱いをSBI VCトレードが開始し、国内で初めてステーブルコインが登場。これは同社が国内第1号の電子決済手段等取引業者として登録されたことによるものだ。ただし、USDCなどの外国のステーブルコインには1回の取引あたり100万円の上限が設けられている。

そうした上限のないステーブルコインとして期待されているのが、前回の改正で実現可能になった「信託型」(特定信託受益権を利用して発行)ステーブルコインだ。だが、現状は発行と引き換えに受け取った金銭(裏付け資産)の全額を円建ての要求払い預金(すぐ引き出せる預金=普通預金、当座預金など)で管理しなければならないと定められている。

現状、国内の普通預金の金利はほぼゼロであり、ステーブルコイン発行者は収益をあげることが難しい状況にある(USDCを発行するサークルは、裏付け資産を運用することで収益を上げている)。

改正案では、発行額の50%を上限に、満期・残存期間3カ月以内の国債(外貨建てステーブルコインについては米国債)と途中解約が認められる定期預金による裏付け資産の管理・運用を認めるとしている(ただし、いずれも元本を毀損しないことが前提)。

これにより、ステーブルコイン発行者の収益機会は広がり、発行の動きが進むと期待されている。

暗号資産等取引に係る仲介業の創設

暗号資産を活用したWeb3ビジネスは拡大・多様化しているが、現状では暗号資産に関連したサービスは「暗号資産交換業」に該当すると見なされる可能性(業該当性)があり、Web3ビジネス普及・発展のハードルとなっている。

例えば、ゲームアプリ内でユーザーの利便性のために、暗号資産交換所での取引を推奨し、リンクを設定して誘導すると、暗号資産の売買や交換の「媒介」に該当する可能性がある。その場合、現行法上は暗号資産交換業の登録が必要となり、利用者保護やAML/CFT規制を含む厳格な規制を受けることになる。

改正案は、こうした行為について、暗号資産交換業登録なく行うことを可能にする「仲介業」の登録制度を設けるとしている。既存の金融業には、銀行代理業、金融商品仲介業などがあり、多くの国民がより便利に・簡単に金融サービスを受けられるようになっており、同様の仕組みをWeb3にも導入しようというものだ。

改正案は、現在開催されている第217回国会(常会)で審議・可決され、公布の日から1年以内に施行される見通しだ。

銀行ステーブルコインは時期尚早

改正案は、2024年9月〜12月にかけて行われた「資金決済制度等に関するワーキンググループ(WG)」での議論がもとになっている。同WGでは、改正案に盛り込まれたもの以外に「預金取扱機関による1号電子決済手段の発行」、つまり「銀行ステーブルコインの発行」の可否も議論された。

足元では、銀行はKYC未了の利用者間で流通しうるパーミッションレス型のステーブルコイン(1号電子決済手段)の発行ができないとされているところ、その発行の解禁が議論されたが、現時点では、銀行の健全性への影響、預金保険制度との関係、マネーロンダリング対策など、多くの論点があり、「時期尚早」となった。

そのため、現時点では銀行はKYC済みの利用者間でのみ流通できるパーミッション型の預金債権型デジタルマネーのみ発行できるが、銀行によるステーブルコイン発行は、2025年4月2日に三井住友フィナンシャルグループ(FG)、三井住友銀行、TIS、Ava Labs(アバラボ)、Fireblocks(ファイアブロックス)が事業化を視野に入れた共同検討を発表し注目を集めており、今後の議論の進展が期待される。

関連記事:「トークンビジネスの普及」「金融機能の効率化や高度化」──三井住友FGなどがステーブルコインの共同検討を公式に発表

抜本的制度改正となる自民党web3WG「暗号資産に関する制度改正案」

〈自民党web3WGのメンバーでもある増田弁護士〉

短い休憩の後、増田弁護士にバトンタッチ。増田弁護士は、まず「自民党を起点とした、これまでのweb3政策の振り返り」として、2022年の自民党NFT政策検討プロジェクトチーム(PT)から始まる流れを解説した。

外部の弁護士がPTにワーキンググループとして加わり、論点を整理して、政策提言まで作るという取り組みは「自民党では初の試みであったらしい」と増田弁護士。PTの取り組みに対して、各省庁には当初、様子見的なところもあったが、2022年4月に「NFTホワイトペーパー」を発表した後、6月に出された、いわゆる「骨太の方針2022」にWeb3推進が盛り込まれたことで、各省庁のWeb3に対するスタンスが前向きなものに変ったと述べた。

その後、PT名が「web3PT」と改められてから、2023年4月には「web3ホワイトペーパー」、2024年1月には「DAOルールメイクに関する提言」、同年4月には「web3ホワイトペーパー2024」を公表するなど、積極的な取り組みが進められた。現在はweb3ワーキンググループ(WG)と再度名称が変更されているが、弁護士チームは従前同様のメンバーのままWGアドバイザーとして助言を続け、2024年12月19日には「暗号資産を国民経済に資する資産とするための緊急提言」が公表されている。

この提言の重要な点は、「暗号資産取引による損益を申告分離課税の対象とすること」「暗号資産の一部を金融商品取引法の規制対象とすること」が提案されたこと。そしてこれらの点は、その翌日である12月20日に与党(自民党・公明党)が公表した「令和7年度税制改正大綱」に盛り込まれた。

関連記事:「暗号資産を国民経済に資する資産とするための緊急提言」自民党デジタル社会推進本部・金融調査会

与党税制改正大綱は、各省庁の要望を受けて与党が取りまとめたものであり、政府の税制改正大綱の原型となる。その後、国税は財務省が、地方税は総務省が改正法案を作成し、通常国会で審議されて成立する。

今回、暗号資産取引の申告分離課税については、「与党」の税制改正大綱に「検討事項」として以下のように記載された。

暗号資産取引に係る課税については、一定の暗号資産を広く国民の資産形成に資する金融商品として業法の中で位置づけ、上場株式等をはじめとした課税の特例が設けられている他の金融商品と同等の投資家保護のための説明義務や適合性等の規制などの必要な法整備をするとともに、取引業者等による取引内容の税務当局への報告義務の整備等をすることを前提に、その見直しを検討する。

こうした流れを受けて2025年3月5日、「FIN/SUM」のパネルディスカッションで自民党web3WGを主導する塩崎彰久衆議院議員が提言の内容を一部紹介、6日に「暗号資産を新たなアセットクラスに〜暗号資産に関する制度改正案の概要〜」が公表された。この制度改正案は、塩崎議員のnoteからダウンロード可能だ。

暗号資産を金商法に位置付ける新制度案

提言(制度改正案)の内容については、FIN/SUMの記事、あるいは塩崎議員のイベント登壇記事などでお伝えしている。

〈提言について説明する塩崎議員〉

関連記事:有価証券とは別に「暗号資産」として金商法に位置づける:塩崎議員が新しいホワイトペーパーの内容を予告【FIN/SUM 2025】

関連記事:自民党web3WGの新提言、公の場で初めて説明──「世界でも最先端の規制モデルに」塩崎議員【JFW 2025】

重要な点は、与党税制改正大綱が「一定の暗号資産を広く国民の資産形成に資する金融商品として業法の中で位置づけ」としたことを受けて、「暗号資産は有価証券とは大きく異なる特性を有する為、有価証券とは別に「暗号資産」として金商法に位置づける」としていることだ。

そして、この流れに符合するように、3月30日、日経新聞は「金融庁、仮想通貨にインサイダー規制 金商法改正へ」と報じた。

関連記事:金融庁、暗号資産にインサイダー取引規制を導入へ──報道

「国民の資産形成に資する金融商品」と位置づけられれば、業界関係者が長く求めてきた20%の分離課税(株取引と同様の課税)が実現することになる。あわせて、米国で導入され、人気を集めているビットコインETF(上場投資信託)などの組成も道が開ける。

もちろん、金商法の規制下となることで、日経が伝えたインサイダー取引規制など、新たな規制が加わることになると見込まれる。例えば、web3WGの制度改正案では、発行体に対して、公募(IEOなど)の際には開示義務を課すことを提案している。またサービス提供者(交換業など)については、最低資本金の増額(現状の1000万円から5000万円)、自己資本規制比率の適用(現状は自主規制)などが提案されている。

ビットコインはどうなる?

だが改正案に、まだ書かれていないこともある。暗号資産の「新規発行」については、考え方が示されているものの、既存の暗号資産、象徴的に言えば「ビットコインをどう扱うのか?」については、改正案には直接示されていない。

増田弁護士は「これまでの議論の流れからして、今回の制度改正提案が主に目指しているのは税制上の取り扱いの変更であり、ビットコインやイーサの取引は、対象として当然に意識されている」と述べた。暗号資産ETFの実現にも密接に関わってくることであり、既存の暗号資産を金商法の中に具体的にどう位置づけるかは、まだ難しい課題として残っているようだ。

わかりやすく言えば、「もし既発行の暗号資産の代表格であるビットコインについて発行者に対する開示義務を課すことを考えた場合、義務を負うのは誰か?」といった問題だ。ビットコインの生みの親、サトシ・ナカモトの正体は誰にもわからない。そして、ビットコインを管理・運営している組織はない。

インサイダー取引規制についても、暗号資産の場合、どういう情報がインサイダー情報となるのか、有価証券とは別の考え方が必要になる。このように論点は尽きないが、制度の全容は、いま金融庁内で行われている議論や、今後の審議会などにおける議論に委ねられていくこととなる。

6月を目処に進められている金融庁での検証、そして、その後に年末の税制改正大綱に向けて行われる議論──。2025年は米国でのトランプ政権の成立、日本での抜本的な制度改正と、暗号資産の未来を左右する転換期となることは間違いない。

|文:増田隆幸
|トップ写真:手前が増田弁護士、奥が尾登弁護士(CoinDesk JAPAN編集部)
※編集部より:本文を一部修正して、更新しました。4月9日17時22分