伝統文化とNFTの化学反応──盆栽NFTが示した「王道」の価値【ソニーグループのRWAプロジェクト】

日本の伝統文化の代表格ともいえる盆栽と、ブロックチェーンが生んだNFTというデジタル技術の出会いが、思わぬ化学反応を起こしている。一見すると両極に位置する組み合わせは何を生み出すのか。
ソニーグループ傘下のSNFTが1月から始動した、実物アートとNFTを紐づける「SNFTデジタルフィジカルアート」プロジェクト。第一弾では、盆栽の魅力を世界に発信する「BONSAI NFT CLUB」と連携し、盆栽の所有権をNFT化して販売。税込み500万円の盆栽アート2点は、3月31日の販売開始から3日で完売した。
CoinDesk JAPANは4月7日、同CLUBを運営するまじすけ株式会社代表の間地悠輔氏に話を聞き、実物資産をブロックチェーン上でトークン化するRWA(Real World Assets)の取り組みやソニーとの共創の経緯などについて話を聞いた。
盆栽の「預かり」文化と所有権のNFT化
盆栽の所有権をNFTとして販売する試みは、同社が2023年から展開している「BONSAI NFT GALLERY」に端を発する。間地氏によれば、これまでに出品された16作品はいずれも完売したという。
実物の盆栽は埼玉県の成勝園が管理を担い、NFT所有者は育成・維持を園に委託できる。所有権の二次流通も可能だ。今回の「BONSAI NFT GALLERY on SNFT」では、盆栽氏・平尾成志氏による「曲」と「線」の2点が出品された。

盆栽にはもともと、所有者がその管理や育成を専門業者や愛好家に委託する「預かり」という文化が根付いている。間地氏は、こうした文化がNFTによる所有権のトークン化と高い親和性を持つと指摘。さらに、従来は所有者の証明が園主に依存していたが、NFTによりパブリックな所有証明が可能となり、課題の解決につながると考えた。
ブロックチェーンと盆栽の組み合わせは一見異色だが、「10年、100年と成長し続けるアート」である盆栽にとって、所有者や評価の履歴をトークン上に記録できるブロックチェーンは、その価値を可視化するうえで有効な手段となる。
ソニーとの共創が生んだ新たな展開
イーサリアム上で展開していたBONSAI NFT GALLERYの実績が、「ソニーグループのSNFTとのコラボレーションにつながった」と間地氏は述べた。SNFT側もRWAやアート市場のリサーチを進めるなかで、盆栽の管理を含めた所有権のNFT化に可能性を見出し、2025年1月にローンチしたイーサリアムレイヤー2「Soneium(ソニューム)」上での展開が決定した。
この連携により、ユーザー体験も進化した。
ソニーの持つ高精細な3Dスキャン技術の活用により、マーケットプレイス上での鑑賞体験が向上。従来は静止画像のみだったが、今回は立体的でより実物に近い形で作品を閲覧できるようになった。

間地氏は「ソニーの3D技術を活用できたことで恩恵を受けた」と述べ、ソニー側も「盆栽とRWAのコラボレーションに対する驚きと応援の声が多数寄せられた」とコメント。「お互いにウィンウィンの関係を築けた」と間地氏は振り返った。
NFTがもたらすカルチャーイノベーション
盆栽は数千円から取引されるものもあれば、樹齢数百年のものは1億円を超えることもあり、「骨董品のような値段のつけ方になる」と間地氏は言う。
2021年のブームを経て、NFTはデジタルアートから実物資産と紐づくRWAへと活用の幅を広げてきたものの、近年ではトークンのユースケースが小口投資といった文脈で語られることも多い。そうしたなか、500万円という高額NFTが完売した事例は、実物資産に裏打ちされた「非代替性」を強く打ち出し、NFTの王道的なあり方を再提示したと言える。
間地氏は取材中、盆栽や水墨画、茶器などの伝統文化を現代的なアプローチで再構築し、新しいマーケットや価値創出につなげる「カルチャーイノベーション」という概念を繰り返し語った。

3月に開催された「アートバーゼル香港」でもこのテーマについて議論し、世界各地に点在する表現者がブロックチェーン上で連携することで、従来のアートや文化に触れる機会がなかった層にもアプローチできると述べた。
実際、今回の盆栽NFTにはアートに関心の薄かった投資家層も関心を示したといい、こうした試みが広がることで、約10兆円規模の世界のアート市場に変革をもたらす可能性があると指摘。「アート市場に一石を投じたい」とのビジョンも語った。
IPコンテンツがチェーンに乗る未来
一方で、日本のアニメやキャラクターなどのIP(知的財産)コンテンツは、世界的な人気を誇りながらも、流動性の高い国際市場でそのポテンシャルを十分発揮しきれていない。製作委員会方式に代表されるように、著作権や利用権が複数の企業に分散しており、ライセンス調整に時間とコストがかかることが主な要因だ。
こうした課題こそ、ブロックチェーンによる「トークン化」によって解決が図れる領域だ。権利関係を可視化し、スマートコントラクトで一元管理する仕組みを整えれば、日本のIPはより強力なグローバル資産へと進化する可能性を秘めている。
実際、アメリカの金融企業TitleMaxの調査によれば、「ポケモン」や「ハローキティ」など、日本発のIPが世界の収益ランキングトップ10の半数を占めており、その潜在力は明らかだ。これらのIPをブロックチェーン上で展開することができれば、NFTやRWAのユースケースは飛躍的に広がる。
トークン化によって、許諾手続きの迅速化やライセンス管理の効率化が実現し、正規品のトレーサビリティを確保することで、海賊版の抑止や二次流通の透明性向上にもつながる。さらに、日本企業がプラットフォームを介さずにグローバルなファンと直接つながることで、新たな収益モデルの構築も可能となるだろう。
このような基盤が整えば、日本のIPは単なるコンテンツではなく、国境を越えて展開可能なデジタル資産として、より戦略的に活用できるようになるはずだ。
今回の盆栽NFTの事例は、日本の伝統資産を世界に発信する可能性と新しい価値創出の一例を示した。こうした試みがIP領域にも広がれば、日本が誇る資産は、世界市場で真の実力を発揮できるようになる。今後も、間地氏やソニーが仕掛けるプロジェクトの動向に注目したい。
|文:橋本祐樹
|トップ画像:SNFT上で完売した盆栽NFT「曲」と「線」