ビットコイン、年末までに20万ドル到達か──トランプ関税の影響と2つの想定シナリオ【bitbank長谷川氏緊急インタビュー】

2024年、ビットコイン(BTC)は半減期と米国での現物ETF(上場投資信託)承認、FRB(連邦準備制度理事会)による利下げなど複数の強材料に支えられ、12月には10万ドルを突破した。2025年も、トランプ大統領の再就任に伴う規制緩和への期待から楽観的なムードに包まれたが、ふたを開けてみると、その期待にはやや陰りが見え始めている。
3月には金や銅といったコモディティが過去最高値を更新する一方で、ビットコインはこれに追随できず、相互関税政策の影響も重なって株式・暗号資産(仮想通貨)市場ともに下落基調となっている。
現在の市場動向をどう捉えるべきか。CoinDesk JAPANは4月10日、ビットバンク(bitbank)マーケット・アナリストの長谷川友哉氏に話を聞いた。
長谷川友哉/bitbankマーケット・アナリスト
ビットバンク(bitbank)マーケット・アナリスト──英大学院修了後、金融機関出身者からなるベンチャーでFinTech業界と仮想通貨市場のアナリストとして従事。2019年よりビットバンク株式会社にてマーケット・アナリスト。国内主要金融メディアへのコメント提供、海外メディアへの寄稿実績多数。

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初めに、危険球を投げてくるトランプ氏
──トランプ氏の相互関税政策が市場に与える影響をどう見ているか。
長谷川氏:トランプ氏は、貿易相手国を交渉テーブルにつかせるため、最初に危険球とも言えるようなハイボールを投げてくる。対中国には真っ向勝負を挑むだろうが、3月4日にカナダやメキシコに課した追加関税などは、典型的な「ハイボール」の手法だろう。

危険球を投げたかと思うと、90日間の関税停止を突如発表したりする。
今回のことで、市場もトランプ氏の手法に慣れてくるのではないだろうか。今後、同様の発言があっても、これほどまでには過剰に反応しなくなるかもしれない。
期待先行の高値更新、その後の反落
──再選直後、市場は大きな期待感に包まれていたが、現時点での評価は。
長谷川氏:市場の期待は大きく、就任日の1月20日にはビットコインが10万9000ドルを突破。過去最高値をつけたが、その後の「期待外れ感」は否めず、下落に転じている。目立った政策実行はなく、規制緩和についても具体的な進展は乏しい。
米国では現在、大統領令に基づく暗号資産のワーキンググループが設置されており、7月頃までに新たなガイドラインが提示される見通しだ。トランプ氏が言及していた暗号資産の全マイニングを米国で行うという発言や国家の戦略的備蓄構想に関しても、期待先行の段階にとどまっている。
2025年末に20万ドル到達の可能性
──今後のビットコイン価格の見通しは。
長谷川氏:ベストなシナリオでは、2025年末までに20万ドル到達が視野に入る。
過去の半減期後の値動きを見ると、2012年は約90倍、2016年は約30倍、2020年は約9倍、そして今回は約3倍の上昇が見込まれている。成長幅はおおむね3分の1ずつ縮小しており、このサイクルが維持されるなら、2024年10月に6.5万ドルを突破したことから、3倍の20万ドル到達は妥当な水準と言える。

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想定通り、FRBが年内に利下げを再開すれば、これまでのような上昇相場が戻ると見ている。
──今は危ういけれども、長期的にみると年内20万ドルの可能性はあるということか。
長谷川氏:第2四半期(4-6月期)に底を打つ、あるいはすでに底打ちしていると見ている。現時点ではFRBの利下げ待ちであり、夏以降に動きが出てくるだろう。
相互関税の影響で株式市場とともにビットコインも下落傾向にあるが、逆に言うとビットコインはよく耐えているとも言える。
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金・銅との乖離、「デジタルゴールド」定着の壁
──3月中旬には金価格が過去最高値を更新した。安全資産への志向が高まった結果と見る向きもあるが、ビットコインは追随しなかった。
長谷川氏:確かに金(ゴールド)の上昇に比べ、ビットコインの動きは鈍かった。

金は地政学リスクやインフレ局面で買われる「安全資産」としての位置づけが確立されているが、ビットコインは「どのような局面で買われる資産」かがまだ確立されていない。
そのため、株式市場が急落しても、金価格が急騰しても、ビットコインはそれらに連動しきらない中途半端な動きをしている。特に機関投資家のポートフォリオに組み込まれるようになった結果、リスクオフ局面では真っ先に売却される傾向が強まっている。
ETFの登場によって資産クラスとしての地位が徐々に確立されつつあることも事実だが、「デジタルゴールド」として定着するには、米ドルの地位低下や国家単位での買いなど、さらなる要因が必要だ。
──銅は景気の先行指標ともされ「ドクター・カッパー」と呼ばれるが、3月に銅価格が過去最高値をつけた際もビットコインは反応しなかった。その背景は。
長谷川氏:かつては、銅とビットコインの間には一定の相関が見られていた。景気が良ければ製造業を中心に銅の需要が増加し、価格が上昇する。投資家にリスクを取る余裕が生まれ、ビットコインにも資金が流れ込むという構図が以前はあったと考えている。

しかし近年、ビットコインは機関投資家のリスク管理対象となり、リスク資産の中でも先に売却される存在となっている。従来のように、景気拡大だからビットコインが高騰するという単純な関係はすでに成立していない。
景気減速か後退か、2つのシナリオ
長谷川氏は、アトランタ連邦準備銀行が発表した2025年第1四半期(1-3月期)の米GDP成長率がマイナス2.4%となる予測を引き合いに、実体経済の悪化が市場に影響を与えていると分析。ビットコイン現物ETF承認により、2024年は約353億ドル(約5兆505億円、1ドル143円換算)の資金が市場に流入したが、2025年2月から3月のわずか1カ月で、その7分の1に相当する52億ドル(約7440億円)が流出したと影響の大きさを解説した。

そのうえで、今後の想定シナリオを2つ示した。
1つ目は、米国が景気減速にとどまり、FRBの利下げ開始が遅れる理想的なシナリオ。市場は安定を取り戻し、ビットコイン価格も再び上昇基調に入ると見通す。
2つ目は予測されている景気後退シナリオ。米国が本格的な景気後退に突入し、株式市場とともにビットコインも一時的なショックで大きく荒れる可能性があると説明。相場が一方向に走りやすい「7万ドル台まで下落する可能性もある」と指摘するが、景気後退により内需が冷え込めば、インフレの沈静化が早まり、FRBが早期に利下げに踏み切る可能性が高いと述べた。その場合、「価格は下がるが、復調も早い」可能性がある。

トランプ政権の政策動向、FRBの金融政策、そして景気の先行き。複数の変数が交錯するなか、年内20万ドル到達という強気シナリオも、景気後退による下押し圧力も現実味を帯びる。
変動する市場のなか、ビットコインがどのような地位を確立するかに今後も注視が必要だ。
|文・インタビュー:橋本祐樹
|画像:bitbank提供、Shutterstock