JPモルガン（JPMorgan）は、カーディーラー向け融資の対象となる車の在庫を追跡し、同じ車を別の融資の担保にしてしまうことを防ぐことにブロックチェーンは役に立つと考えている。
JPモルガンのカーディーラー融資部門は、フロアプラン融資のブロックチェーン版について記載した特許申請書を提出した。プロアプラン融資とは、カーディーラーが在庫を担保にして融資を受けられる金融商品だ。
アメリカで販売された自動車にはすべて、固有の車両識別番号（VIN）が付いている。JPモルガンは、VINをブロックチェーンに結びつけ、テレマティックス（移動体通信サービス）および地理位置情報センサーなどでサポートすることで、フロアプラン融資用のディーラー在庫の監査にまつわる非効率な手作業をなくすことができると考えている。
「フロアプラン融資のプロセスには、ディーラーの在庫をすべて、定期的に実際に検査し監査することが含まれる」とチェース・オート（Chase Auto）の研究開発責任者ケヴィン・ポイント（Kevin Point）氏は述べた。
「つまり、万一、ローンがディーラーと銀行の会計システムの双方で未払いの場合には、人間が実際にディーラーに出向き、車両を確認し、在庫と照合することになる」
ここ数年、ブロックチェーン・システムのテストと開発に熱心に取り組んできたJPモルガンのような銀行は今、ブロックチェーン技術を使って収益を改善するための現実のチャンスを虎視眈々と狙っている。
アメリカでは毎年、約1700万台の新車が販売されており、中古車を加えると、フロアプラン融資の対象は数百万台にのぼるとポイント氏は述べた。
そうした車をブロックチェーンで追跡することは「長期的にコストカットを実現し、業界全体で見ると、極めて大きな額になると考えている」。
今回の動きは、JPモルガンが開発したイーサリアムのプライベート・バージョンであるクォーラム（Quorum）とは少し異なっている。
クォーラムはこれまで、債券の発行やコルレス銀行などの決済ネットワークの接続といった「抽象的な」金融業務のみに使われてきた。対照的に今回のチェース・ネットワーク・オブ・アセット（Chase Network of Assets）は「物理的な」モノを検証する作業を伴う。
JPモルガンのブロックチェーン責任者クリスティーヌ・モイ（Christine Moy）氏は、実際のディーラー・パートナーでテスト中だが、まだ製品版ではないという意味で実験的な取り組みだと述べた。モイ氏はまた、ネットワーク・オブ・アセットはより広範に応用できるとも述べた。そして同社は自動車メーカーと交渉中と付け加えたが、現時点ではメーカー名を公表することは避けた。
「JPモルガンとチェース・オートは自らが抱える問題の解決を探るだけでなく、基本的に自動車および関連業界全体に利益をもたらすことになる」とモイ氏は述べた。
「ネットワーク・オブ・アセットはこの専用のアプリケーションとユースケースの基盤。だが自動車メーカー、銀行、金融企業、ディーラー、テレマティックス・コネクティビティ・デバイス関連企業に対して付加価値を与えることができる多くのアプリケーションやサービスの基盤にもなり得る」
リアルタイム・リスクマネジメントの観点で多くのことを可能にするだけではなく、ブロックチェーン技術を活用したネットワーク・オブ・アセットは、いわゆる「ダブル・フロアリング」と呼ばれる事態を防ぐ目的で設計された。
「ダブル・フロアリングとは、ディーラーが誤って（または意図的に）ある車両を銀行とのフロアプラン融資契約の担保としながらも、同じ車を別の銀行のフロアプラン融資の担保にもしてしまうこと」とモイ氏は説明した。
JPモルガンのアイデアはまったく新しいものではない。例えば、インドの多国籍グループに属するタタ・コンサルタンシー・サービス（Tata Consultancy Services）もフロアプラン融資のためのブロックチェーンを検討している。
しかし、JPモルガンのクォーラムは、ブロックチェーン技術に関するさらなる可能性をうまく取り込んでいる。次世代ブロックチェーンの世界でまだ初期段階にある同行のJPMコイン（JPMCoin）などのトークン化された決済システムとの相互運用性を実現する可能性もある。
いまのところ、カーディーラー向け融資での活用は堅実なスタートとポイント氏は述べた。
「固有のIDやテレマティックスが存在するため、自動車業界やその関連業界は迅速な普及を図るために最適で、これは融資の他の分野でも効率性を促進することにつながる」
翻訳：山口晶子
編集：増田隆幸
写真：Shutterstock
原文：JPMorgan Tests Private Blockchain to Track Auto Dealer Inventory
