法人暗号資産の「含み益課税」、回避できる? 原価法適用の条件とは【国内保有企業リスト付】

ビットコイン価格が再び上昇基調を見せ、市場の関心が高まっている。
こうした市場の活況は、既にメタプラネットやリミックスポイントなど暗号資産を保有する企業の財務に影響を与えるだけでなく、これから参入を検討する企業にとっても重要な局面と言える。
しかし、法人が暗号資産を保有する上で大きな課題となるのが、価格上昇に伴う「含み益」への課税(期末時価評価課税)である。
売却せずとも期末の評価益に税金がかかるこの原則は、企業のキャッシュフローを圧迫しかねない。だが、近年の税制改正により、一定条件下ではこの時価評価を避け「原価法」で評価する道も開かれた。
本記事は、まず暗号資産保有の国内企業リストを示し、次にこの税制度の基本と、原価法適用のポイントについて専門家の解説と共に整理するものである。
<ビットコインを購入(または購入を発表)した国内企業リスト>
1. メタプラネット
- ・事業:ホテル運営、ビットコイン投資
- ・購入総額:621億6500万円
- ・保有量: 4855BTC
- ・概要: 「ビットコインオンリー」戦略を掲げ、株式と社債の発行を通じて購入資金を調達。世界のビットコイン保有企業ランキング10位。
2. ネクソン
- ・事業:ゲーム開発
- ・購入総額:111億円
- ・保有量:1717BTC
- ・概要:2021年4月に購入。平均購入価格は1BTC当たり5万8226ドル。
3. リミックスポイント
- ・事業: エネルギー、メディカル
- ・購入総額:総額100億円の購入を決議(アルトコイン含む)
- ・保有量: 615.99821175BTC
- ・概要:イーサリアム(ETH)、ソラナ(SOL)、エックス・アール・ピー(XRP)などのアルトコインも保有。
4. gumi
- ・事業: モバイルゲーム開発
- ・購入総額:10億円相当のBTC購入を2025年2月に発表。
- ・概要: 株主向けに総額1600万円相当のビットコイン優待を実施するなど、暗号資産への取り組みを拡大中。
5. SBCメディカルグループホールディングス
- ・事業: 美容、医療
- ・購入総額:6000万円
- ・保有量: 5BTC
- ・概要:湘南美容クリニックがルーツ。10億円規模のビットコイン購入を発表。
6. AIフュージョンキャピタルグループ
- ・事業: 証券、商品先物取引
- ・購入総額:3億円
- ・保有量:24.63449278BTC
- ・概要:2025年3月11日、5億円相当のビットコイン購入を決議。
7.GFA Capital
- ・事業: 投資/ファンド運用
- ・購入総額:3億円を上限に購入を発表
- ・概要:ショートポジション決済で利益を確定する動きも。
8.バリュークリエーション
- ・事業: マーケティング、不動産DX
- ・購入総額:2億円
- ・概要:2025年8月までに1億円の追加購入を決議済み。
9.ANAPホールディングス
- ・事業: アパレル小売
- ・購入総額: 2億円
- ・保有量:16.6591BTC
- ・概要: 2025年2月に連結子会社としてANAPライトニングキャピタルを設立し、投資事業を開始。
10.enish
- ・事業: モバイルゲーム開発
- ・購入総額: 1億円
- ・概要: ブロックチェーンゲーム「De:Lithe Last Memories」を提供。
11.エス・サイエンス
- ・事業: 金属加工
- ・購入総額: 2025年7月から投資事業開始予定
- ・概要: ニッケル製品の販売や不動産事業を展開する1946年設立の老舗企業。
【注釈】
- ・本リストはCoinDesk JAPAN調べに基づき、企業による公式発表があったものをまとめたものです(2025年4月23日時点)。
- ・このため、未発表の事例等、全てのビットコイン購入企業・事例を網羅するものではありません。
- ・記載の数値は、発表当時の情報や為替レート等に基づく参考値を含みます。
原価法適用の要件とは
日本国内において企業が暗号資産を保有する動きが加速する中、多くの企業が直面する課題の一つが、法人税法における期末の評価方法である。
国税庁が公表している資料(下図参照)にも示されている通り、原則として、法人が保有する暗号資産(活発な市場が存在するもの)は、期末時点で「時価評価」され、その評価損益が課税所得に算入される(法人税法61条)。

JCBA(日本暗号資産ビジネス協会)税制部会 副部会長の竹ヶ原氏は、この原則的な扱いについて次のように説明する。
「改正前の税法では、暗号資産は『仮想通貨』として、どちらかといえば通貨的な性質として見られていた。ドルやユーロといった外国通貨が期末のレートで評価され、含み益が課税対象となるのと同様の整理が、暗号資産にも適用されていたのである。つまり、期末時点で保有するビットコインなどの価値が購入時より上昇していれば、その差額は法人税法上の利益としてカウントされる、これが『時価評価課税』の基本的な考え方だ」。
この時価評価課税は、価格が下落した場合には評価損を計上できる側面もあるものの、特に暗号資産を長期的な戦略に基づいて保有する企業にとっては、キャッシュフローを伴わない未実現の利益に対して納税が必要になるという課題があった。
竹ヶ原氏は、「時価評価課税が必ずしも悪いわけではない。価格が下がる局面では損失を計上できるし、最終的に売却すれば、どちらの評価方法でもトータルの税負担は理論上同じになる。しかし、長期保有を前提とする場合、価格が上昇し続ける局面では、売却していないにも関わらず納税負担が生じ続けることになる」と述べる。
こうした背景から、令和5年度及び令和6年度の税制改正により、一定の要件を満たす場合には期末時価評価の対象外となり、「原価法」(取得時の価格で評価する方法)を適用できる道が開かれた。これは、全ての暗号資産に適用されるわけではなく、特定の条件下にある暗号資産に限られる。
まず、「活発な市場がない暗号資産」、すなわち取引所などに上場しておらず、客観的な市場価格が存在しないものについては、従来通り原価法が適用される。
重要な改正点として、活発な市場が存在する暗号資産であっても、以下のケースでは、一定の要件を満たせば期末評価について原価法を選択することが可能となった。
・特定自己発行暗号資産:発行体企業が自ら発行した暗号資産のうち、発行時から継続して保有しており、かつ一定期間譲渡制限(ロックアップなど)がかけられている等の要件を満たす場合。
竹ヶ原氏によると、「これは特に、自社トークンを発行するプロジェクトが直面していた課題に対応するもの。発行したトークンに市場価格がついたとしても、発行体が保有する分をすぐに全て売却できるわけではない。にもかかわらず時価評価課税されるのは事業継続上問題がある、という議論が改正の背景にあった」とのことである。これは令和5年度税制改正で手当てされた。
・特定譲渡制限付暗号資産:第三者から取得した暗号資産(ビットコインなど)であっても、一定期間(JVCEAの自主規制規則では原則1年以上)譲渡できないように「技術的措置」またはそれに準ずる措置が講じられ、その旨が確認・公表されている場合。この場合、法人は時価法または原価法のいずれかを選択して評価できる(法人税法61条②二)。
この「技術的措置」について、竹ヶ原氏は具体的な方法として、「保有者自身がロックアップコード等を用いて移転できないようにする措置のほか、暗号資産交換業者に対して移転制限を要請する方法(コインチェックの『アセットロック』サービスなどが該当)、信託の活用、あるいはマルチシグで鍵の一部を外部に預けて移転できないようにする方法などが考えられる」と解説する。

企業がこの原価法評価の適用を受けるためには、単に「売らない」と主張するだけでは不十分であり、客観的に譲渡が制限されている状態を作り出し、それを証明する必要がある。
竹ヶ原氏は、「税務当局から見ても客観的に判断できるよう、技術的措置が講じられていること、あるいは交換業者への移転制限要請などが行われていることを、JVCEA等を通じて確認・公表するプロセスが設けられている」と付け加える。これは令和6年度税制改正で手当てされた。
したがって、現在、法人が活発な市場のある暗号資産を保有する場合、期末評価については以下の整理となる。
・原則:時価評価課税。期末の時価で評価し、評価損益を計上(上記図【改正後】①)。
・例外(原価法適用が可能):
・特定自己発行暗号資産(要件あり、上記図【改正後】③)。
・特定譲渡制限付暗号資産(要件あり。1年以上の譲渡制限措置等が一般的。時価法または原価法を選択可能、上記図【改正後】②)。
企業は、自社の暗号資産保有戦略(短期的なトレーディング目的なのか、長期的な資産保有目的なのか)やキャッシュフローの状況を踏まえ、これらの税制を理解し、必要であれば原価法適用のための手続き(譲渡制限措置の実施と税務署への届出、JVCEAへの通知など)を検討することが重要である。
竹ヶ原氏は「企業は自社の状況に合わせて、最適な税務上の取り扱いを選択していくことが求められる」と指摘した。
|文:栃山直樹
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