2つの「S」が未来を切り開く──ステーブルコイン×セキュリティ・トークンで世界規模の「RWAトークン化」競争を勝ち抜く【コラム】

2025年度がスタートした。暗号資産(仮想通貨)市場は、トランプ関税の影響で落ち着かない動きを見せている。昨年11月のトランプ氏当選を受けて、ビットコイン(BTC)は12月に一時10万ドルに乗せた。2025年は「さらに強力な追い風」が期待されたが、現在のところ、期待は叶えられていない。むしろ期待外れ感が強い。

だが一方、国内に目を転じると、2023年6月1日の改正資金決済法の施行から1年10カ月近くを経て、ようやく3月26日に国内初のステーブルコイン(SC、電子決済手段)として「USDC」の一般ユーザー向けの取り扱いをSBI VCトレードが開始した。

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新年度スタートとなる4月1日には、日本を代表するメガバンクの三井住友ファイナンシャルグループ(FG)がステーブルコインを共同開発すると日経が報じ、2日には公式発表があった。また同じ2日には、三菱UFJ信託銀行が円連動ステーブルコインの開発を完了し、電子決済手段として初の発行となる見通しと読売新聞が窪田博新社長のインタビューで伝えた。

さらに翌週の4月10日、金融庁は非公開で続けてきた勉強会での検証結果を「暗号資産に関連する制度のあり方等の検証(ディスカッション・ペーパー)」として公表。暗号資産を「2分類」に分けて規制する可能性を明らかにした。

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市場は右往左往している感があるが、暗号資産を取り巻く環境は新年度に入って、大きく前進している。特に2025年度、注目の1つがステーブルコインであることは間違いないだろう。USDCに続いて、どこから、どんなステーブルコインが登場するのか期待は高まる。

ステーブルコイン、期待されるユースケースは?

ステーブルコインは当面、暗号資産取引での利用が想定されている。いわゆる「待機資金」としての用途だ。グローバルで見たときには、取引所でビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)といった暗号資産(仮想通貨)との取引ペアとして使われている。

だが日本ではネットバンキングなど銀行サービスが充実しており、暗号資産取引の際も銀行口座からの振り込みでも大きな不便はない。

だからこそ、USDCを取り扱うSBI VCトレードを傘下に持つSBIホールディングスの北尾吉孝氏(代表取締役会長兼社長)も、USDC取り扱いの第一の目的として「ドル預金を上回る収益を顧客に提供」し、「6兆円規模の外貨預金市場」を狙うと述べているのだろう。決済手段ではなく、利回りを提供する新しい金融商品としてのステーブルコインだ。

〈SBIホールディングス代表取締役会長兼社長の北尾吉孝氏:CoinDesk JAPAN〉

現状、ステーブルコインのユースケースの「本命」と見られているのは、企業間決済やクロスボーダー決済など、B2B市場での活用だ。例えば、ステーブルコインなどのデジタル資産発行基盤を手がけるProgmat(プログマ)は、SWIFT(スイフト:国際銀行間通信協会)の既存APIフレームワークを活用したステーブルコインでの国際送金プロジェクト「Project Pax」を開始している。

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さらに、現状の決済手段の改善、あるいはリプレースの先の大きな可能性として期待されるのが、さまざまな金融商品がオンチェーン化したときの決済手段としての役割だ。

日本国内で初めて流通するステーブルコインとなったUSDCを発行する米サークルは3月末に都内で記者会見を開催。プレゼンテーションを行った共同創業者兼CEOのジェレミー・アレール氏も、その後、CoinDesk JAPANが単独インタビューを行った最高事業責任者(CBO)のカシュ・ラザギ(Kash Razzaghi)氏も「金融がオンチェーン化した未来」と、そこでのステーブルコインの役割を強調した。

〈サークルCEOのジェレミー・アレール氏:CoinDesk JAPAN〉

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すでに米国ではMMF(マネーマーケットファンド)がオンチェーン化され、トークン化MMFとして機関投資家の人気を集めている。機関投資家は、手元の余剰資金をトークン化MMFに替えて利回りを稼ぎ、決済が必要なときには即座にステーブルコインに戻して使っているという。

もちろん、金融サービスはすでに高度にデジタル化されている。ブロックチェーンを使わなくても、前述のようなことは可能。だが、ブロックチェーンという1つの基盤上に、トークン化MMFとステーブルコインが存在することで、金融サービス(利用者から見れば、資産運用)はよりスムーズ、より効率的なものになっている。

ステーブルコインは、オンチェーン化した金融サービスの「インフラ」的な役割を担うというわけだ。

ステーブルコイン×セキュリティ・トークンの可能性

日本が金融商品のオンチェーン化=金融のトークン化でグローバルで見ても先行している領域がある。不動産や社債などを裏付け資産として発行されるセキュリティ・トークン(ST)だ。「デジタル証券」とも呼ばれる。

国内のセキュリティ・トークン市場は、Progmatの「デジタル証券(ST)マーケットアウトルック2025」によると、2021年に案件数4件、発行累計額32億円でスタートして以来、4年目の2024年には案件累計数51件、発行累計額1486億円まで成長。2025年は94案件、3411億円まで拡大するという。同じくST基盤をコンソーシアム形式で運営するBOOSTRYの「国内セキュリティ・トークンマーケット総括レポート(2024年度)」も、2025年度の発行規模は1800億円程度と予測している。

ブロックチェーンはその登場以来、暗号資産(仮想通貨)の発行基盤としての利用と並んで、株式、債券、不動産といったさまざまな資産をブロックチェーンに乗せる(=オンチェーン化する)取り組みが進められてきた。その目的は、小口化による利用者拡大、スマートコントラクトによる効率化、あるいは拡大する暗号資産ユーザーの取り込み(暗号資産と伝統的金融の融合)、伝統的金融の効率化など多岐にわたる。新しいテクノロジーへのチャレンジがモチベーションになっているケースもあるだろう。

ただし、日本ではまだ決済のオンチェーン化が実現していなかった。セキュリティ・トークンでは流通市場(二次市場)として大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)の「START(スタート)」が整備され、取り扱いの拡大が期待されている。だが現状、法定通貨(銀行口座からの送金)では、取引から決済まで2営業日が必要になり(いわゆる「T+2」)、カウンターパーティリスクが生まれ、資金の効率的な運用も制限される。送金手数料や事務コストもかかる。

ここにステーブルコインが活用され、Delivery versus Payment(DvP)、つまり即時決済で「T+0」が実現すれば、そうしたリスク、さまざまなコストの低減が可能になる。さらに、リスクやコストの低減という現状のデメリットの解消にとどまらず、新たな金融商品/サービスの登場、資金の効率的な活用による新たなビジネス展開といったポジティブな効果が期待される。

グローバルで拡大する「金融商品のトークン化=トークン化RWA」の市場規模

データサイトのrwa.xyzによると、グローバルのトークン化RWAの価値は4月中旬時点で、約200億ドル(約2兆9000億円、1ドル145円換算)にのぼる。他の調査では、約500億ドルとの数字もある。

〈rwa.xyxより〉

その成長可能性については、4月7日、リップル(Ripple)とボストンコンサルティンググループ(BCG)が世界のRWAトークン化市場に関するレポート「Approaching the Tokenization Tipping Point」を発表。トークン化RWA市場は、現在6000億ドルから2033年には18兆9000億ドル(約2740兆円)にのぼり、年平均成長率は53%と予測している(2030年では、9兆4000億ドル)。

〈「Approaching the Tokenization Tipping Point」より〉

現在の価値が6000億ドルときわめて大きな数字になっているが、このレポートでは、RWAの中にステーブルコイン(グラフの薄い水色)を含んでいる(ステーブルコインは「法定通貨という現実資産をトークン化したもの」のため)。

ちなみに、rwa.xyzも、ステーブルコインをRWAと捉えて価値を算出しており、ステーブルコインの現在の価値を2270億ドル(約33兆円)としている。

いずれにせよ、トークン化RWA市場は、圧倒的な成長が予想されている。

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違った観点から、その潜在力・可能性を示すレポートもある。

バイナンス・リサーチが2024年9月に発表したリサーチでは、トークン化RWAの価値は120億ドル以上、そのうちオンチェーンのプライベートクレジット市場は90億ドルにのぼるが、2023年に2兆1000億ドル規模だった伝統的なプライベートクレジット市場のわずか0.4%にすぎないとしている。プライベートクレジット市場だけを見ても、トークン化が可能な膨大な市場が存在しているということだ。

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潜在力・可能性の大きな日本市場、だがガラパゴス化しないために

日本のセキュリティ・トークン市場の潜在力・可能性についても同様のことが言える。

ニッセイ基礎研究所と価値総合研究所が2023年7月に発表した調査によると、日本国内の「投資適格不動産(機関投資家が安定した収益を期待できる不動産)は約179.0兆円と推計されている。大和証券グループ本社常務執行役員の板屋篤氏は以前、CoinDesk JAPANのインタビューに「そのなかで証券化されているものは3割にも満たない。つまり、100兆円以上の流動化の余地がある」と語っている。

なお、2024年12月に発表された調査では、投資適格不動産は約194.6兆円に拡大している。

日本でのステーブルコインの利活用は、ようやくスタートしたばかり。現状、USDCのような海外ステーブルコインには、1回の購入や取引あたり100万円の制限が設けられており、こうした制限の緩和や撤廃、さらには制限のない国産ステーブルコインの登場が待ち望まれる。

名目国内総生産(GDP)がドイツに抜かれたとはいえ、日本は世界4位の経済規模を誇る(円安の影響でドル換算の額が減少しただけとの見方もある)。多くの観光客が日本に訪れていることを考えると、日本の潜在力や可能性に気づいていないのは、我々自身かもしれない。

潜在力・可能性を秘めた日本市場の中で、着実な成長が期待されているセキュリティ・トークン(デジタル証券)市場、そしてST市場でのステーブルコイン(SC)の利活用は有望なユースケースになるはずだ。

さらに日本市場にとどまらず、グローバルで大きな成長が予測されるRWAトークン化市場で、国産ステーブルコインや日本由来の新たなオンチェーン金融商品/サービスが存在感を発揮する日を期待したい。

|文:増田隆幸
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