日本銀行が「中央銀行デジタル通貨に関する法律問題研究会」の報告書の概要を公開し、中央銀行によるデジタル通貨(CBDC)の法的論点を整理した。
まずCBDCを発行形態により口座型とトークン型に、供給形態で直接型と間接型に分類。2×2で4種類のあり方があるとしたうえで、日銀によるCBDCの発行については「銀行券の解釈として、電子的なもの、すなわちCBDCを含むことは困難」と改めて否定した。
研究会は日本銀行金融研究所が事務局を務めている。報告書自体は9月に公表されていた。
CBDCの形態「口座型orトークン型」×「直接型or間接型」
まずCBDCの発行形態として、「口座型」と「トークン型」を想定。さらに流通形態により利用者に直接供給する「直接型」と仲介機関を介して、間接的に供給する「間接型」があるとして、計4種のあり方を提示した。
「口座型」については、日銀の取引先(口座の開設先)を金融機関に限定するのではなく、個人や企業といった一般利用者に広く認めるものと定義。「トークン型」は“銀行券の電子化”と位置付けられるとして、銀行券のような紙媒体でなく電子的なデータになるとした(分類は下図参照)。
CBDCをめぐる8つの論点
日本銀行はCBDCを発行できるのか
そのうえで、「日銀がCBDCを発行できるか」という点については、銀行券が有体物であることを前提としており、「銀行券の解釈として、電子的なもの、すなわちCBDCを含むことは困難と考えられる」と否定した。
CBDCは通貨たりえるのか
また「現行法のもとでは、法貨は、銀行券および貨幣に限定されている」として、CBDCが法的に有効な通貨として認められるには法改正が必要との認識を示した。
CBDCの取引を制限できるのか
これについては「日本銀行の目的達成や、効率的な業務運営の観点から、一般利用者や仲介機関の範囲を制限することは、是認されうる」として、制限できるとの考えを示した。
マネーロンダリング、テロ資金供与をどう防ぐのか
マネロン対策についても言及。犯罪収益移転防止法では、例えば民間銀行が預金契約を結ぶ場合、本人確認、取引記録の作成や疑わしい取引の届出義務を定めているが、間接型のCBDCについても、こうした規制を仮に想定した場合、本人確認等の実務は仲介機関が担うと指摘した。
個人情報保護をどう考えるのか
CBDCを発行することになれば、日銀は「様々な個別取引情報を取得する可能性がある」としたが、一方で間接型のCBDCの場合は、「日本銀行と仲介機関との間の役割分担次第では、日本銀行はこうした情報を取得しない可能性もある」と述べるにとどまった。
CBDCが偽造・複製されたり、消滅したりしたら、どうなるのか
この点については、「偽造・複製されたデータを用いた決済は、口座型、トークン型いずれにおいても私法上無効となる」と明言。データの消滅については、「口座型のCBDCに関するデータが仮に消滅しても、CBDCである預金債権は消滅しないため、私法上、利用者は払戻しを請求しうると考えられる」との考えを示した。
ただし、トークン型の場合は、「原則として、データ消滅によって金銭的価値も消滅し、再発行請求はできないことになる」と違いを明確にした。
CBDCを差押えることはできるのか
「口座型」のCBDCは日銀に対する“預金債権”であるため、差押えは、既に民間預金の差押え制度が存在しているので「基本的にそれと同様に行うことができる」と述べた。
「トークン型」の場合は、データそのものを差し押さえることが考えられるが、「データの差押えの制度自体が未整備であるという問題」があると指摘、そうした点に関する検討も必要となるとの考えを示した。
通貨偽造をどう罰するのか
CBDCを現行刑法の通貨偽造罪の対象とすることはできないと整理した。その理由としては、同罪が「通用する貨幣、紙幣又は銀行券」と定められているからだ。
支払用カード電磁的記録に関する罪などをCBDCの偽造に対して認める余地があるとしながらも、「これらの法定刑は通貨偽造罪に比べ軽い」と指摘。そのうえで、「短期間で大量の偽造・複製が容易である等のデジタル通貨の特徴や、民間デジタル通貨に通貨偽造罪が成立しないこととの関係も踏まえ、検討する必要がある」と述べた。
さらに、通貨偽造罪の対象になるには、「客強制通用力を有すること(法貨であること)が要件」とし、「立法措置によりCBDCに法貨性を認めるかどうかも検討する必要があると考えられる」と付言した。
文・編集:濱田 優
写真:slyellow / Shutterstock.com