上海市、38億円調達のブロックチェーン企業に数億円の支援——貿易戦争と仮想通貨規制の中で
  • 上海市政府当局がブロックチェーンスタートアップであるコンフラックス(Conflux)の研究所およびインキュベーションセンターの開設に対して数百万ドルの支援をすることに合意したと、同社の共同創業者が明かした。
  • 北京を拠点とする同社は2018年12月、セコイア・チャイナ(Sequoia China)やフォビ(Huobi)など複数の有力な支援者からプライベートトークンセールで3500万ドルを調達している。
  • 同社の研究所は早ければ年内に開設される一方、インキュベーションセンターは2020年6月になるとも見込まれている。
  • これは、上海市が仮想通貨事業を取り締まる中で生じたものである。

1万平方フィート(約929平方メートル)の敷地、大規模な資金、そしてオープニングセレモニーに上海市政府当局者の姿。これはまさに中国政府の後ろ盾がついているということだ。

上海市政府は早ければ今月末にもブロックチェーンスタートアップ、コンフラックスと研究所を開設することで合意し、また2020年6月のインキュベーションセンターの開設を検討していると、同社の共同創業者、ファン・ロン(Fan Long)氏がCoinDeskに語った。

ロン氏は、コンフラックスが上海市政府から受け取る予定の正確な金額を明らかにすることは拒否したものの、数百万ドルになると述べた。

上海市政府機関である上海市科学技術委員会はCoinDeskに対し、10月29日(現地時間)にコンフラックスと会談を行い、研究所やインキュベーションセンターに対する政府支援について協議したことを認めた。委員会のテクノロジーインキュベーション事務所の職員は、スケジュールやプロジェクトの資金調達を協議することはできなかった。

中国の習近平国家主席がブロックチェーンを称賛するスピーチを行った後、急速に広がった仮想通貨企業の取り締まりを中国政府が続ける中で、この動きは生じている。中国の中央銀行の上海支局は、「早いうちに仮想通貨ビジネスの芽を摘み取る」とまで述べている。中国政府はイノベーションを推し進めているものの、管理できると考えられるものだけが対象となっている。

それにもかかわらずコンフラックスのインキュベーションセンターは、同社が開発した非許可型のパブリックブロックチェーンで分散型アプリケーション(Dapps)を構築するために開発者や起業家を招くことを目指している。パブリックブロックチェーンであるビットコインやイーサリアム(ethereum)のように誰でも参加することが可能で、台帳の状態について合意に達しネットワークを守るために、同様のプルーフオブワーク(PoW)メカニズムを使用している。

「当社Daapsのインフラはイーサリアムとは異なり、独自のエコシステムを持つことになる」と同社のグローバル・マーケティング・マネージャー、クリスチャン・エルテル(Christian Oertel)は述べ、コンフラックスは主にネットワークの拡張性の改善に重点を置くと語った。

スタートアップのためにベンチャーキャピタルを探すという使命に加え、同インキュベーションセンターは上海市政府のためにDaapsの開発も行う。

「当社はDappsを、上海市政府が資金や文書を追跡することで課題を解決する上で役立てることができる」とエルテル氏は述べる。

エルテル氏によると上海市政府は、上海西部の最も活発なビジネス街のひとつである虹橋のオフィスビルに加え、数百万ドルの資金を提供し、研究所とインキュベーションセンターの支援に補助金を配分することになる。

エルテル氏は、今回の提携を誰が切り出したか明らかにすることは拒否したものの、コンフラックスは7月から上海市政府と交渉してきたと述べる。

セコイアやフォビから潤沢な資金

この新興企業は2018年に設立され、プライベートエクイティのセコイア・チャイナやフォビグループ、シュンウェイ・キャピタル(Shunwei Capital)、Rong360など、多くの著名な中国投資家から3500万ドルを調達している。

「コンフラックスはリサーチプロジェクトとして始まった。我々は当初、ブロックチェーンをより迅速で、より安全なものにすることができる方法を探していただけだった」とロン氏は述べる。「投資家が関心を示した時、この技術を実験室から持ち出すのは良い考えかもしれないと感じた」

資金調達ラウンドはプライベートトークンセールを通じて行われた。コンフラックスは2020年第1四半期に実際に使用されるブロックチェーンであるメインネットをローンチする予定で、開発者はネイティブトークンCFXをマイニングすることが可能になると、エルテルは述べる。

コンフラックスがインタビューの中で繰り返し強調したのは、イニシャル・コイン・オファリング(ICO)を開始することも、いかなる形の中央集権型トークンセールスに関与することもないということだ。コンフラックスのネットワーク以外で、バイナンス(Binance)などの取引所での取引を望むかどうか判断するのはトークンホルダーだと、エルテル氏は述べる。

チームは24名で構成され、6名は創業メンバー、12名はエンジニア、6名はグローバルチームと、世界中から集まっている。

同社は中国の教育と国際的な教育の両方を受けた人材を求めているという。同社のホームページによると、現従業員の大半は、中国における一流のエンジニアリング教育を受け、大学院の学位の取得を目的とした留学経験がある。

「当社の北京オフィスは清華大学に近い。優れた人材を募集するのに都合がいい」と、同社の広報は述べる。

コンフラックスの18名の開発チームのうち、創業者のファン・ロー氏やディビット・チョー(David Chow)氏を含む少なくとも10名は、清華大学の学士または大学院の学位を取得している。リサーチサイエンティストのウェイ・シュ(Wei Xu)氏やチーフサイエンティストでチューリング賞を受賞したチーチー・ヤオ(Chi-Chih Yao)氏は、清華大学の教職員である。

「中国政府はパブリックブロックチェーンが重要だと認識している」とロン氏は述べる。「(政府は)中国と関係性を持つチームがあるなら、それを素晴らしいと思うし、より親近感を覚えるので、エコシステムの構築を支援する可能性がある」

非中央集権型のパブリックブロックチェーン

「中国では多くの人がパブリックブロックチェーンは違法で何か悪いものだと考えている」とロン氏は述べる。「ブロックチェーンの開発における次の段階は、その取り組みに人々を引き込むことだ。法律に違反しているかどうかがわからないものに関わりたいとは誰も思わない」

しかしながらロン氏によると、パブリックブロックチェーンやブロックチェーンアライアンスの利用を妨げるのは困難だと、政府は気付いている。

「ブロックチェーンは常に認証された情報と関連しており、認証された貴重な情報は、パブリックブロックチェーンであれブロックチェーンアライアンスであれ、デジタル資産となり得る」とロン氏は述べる。「デジタル資産を持っていれば、それらは取引され得る。政府はこのことに気付いている」

分散型台帳技術とコンソーシアム型ブロックチェーンを全面的に採用しながら、中国は中央集権型取引所で使用可能になって以来、非常に慎重に、非許可型の非中央集権型ネットワークにアプローチしている。

中国政府は10月、国有銀行、テクノロジー企業、政府機関が開始した、500社以上が参加するブロックチェーンプロジェクトを明らかにした。一方、政府のお墨付きを得られた非中央集権型ブロックチェーンはほとんどなかった。

杭州ブロックチェーン技術研究所の責任者であるイーフォン・チャン(Yifeng Zhang)氏は10月に行われた2019年デジタルエコノミー・イノベーション・サミットで、許可型のパブリックブロックチェーンは業界にとってこの技術を商品化する最高のチャンスだと述べた。

国有企業と緊密に協力して取り組んでいる数少ない非許可型のパブリックブロックチェーンの一つとして、ネルボス(Nervos)のアプリケーションサイドチェーンの付いた2層ネットワークが挙げられる。同社は7200万トークンの販売を完了しており、11月にメインネットをローンチした。

マルチコイン(MultiCoin)、ポリチェーン・キャピタル(Polychain Capital)、および深センを拠点とし、中国政府が一部所有するするチャイナ・マーチャンツ・バンク・インターナショナル(China Merchants Bank International:CMBI)の支援を受け、同社はCMBIと協力して、非中央集権型の金融アプリケーションに注力している。

政府からの資金提供が最も重要なのではないと、ロン氏は述べる。コンフラックスにとって今回の提携を貴重なものたらしめているのは、上海市政府からの正式な支援であることだ。

仮想通貨取引所の取り締まり

ロン氏は最近の上海市による仮想通貨取引所の取り締まりについて、一部の違法な中央集権型取引所を排除するという意味ではよい動きだと述べる。

中央集権型取引所が仮想通貨資産の流動性を提供するのは良いことだが、取引所の一部はブロックチェーン業界全体の評判を傷つけている。「このブロックチェーンの分野で起こっている悪いことの大半は、中央集権型取引所に直接的または間接的に関係している」とロン氏は述べる。

中国政府は緩やかながらも確実に非中央集権型のパブリックブロックチェーンを受け入れながら、引き続き仮想通貨取引所から市場を遮断している。

11月には、大都市である北京、上海、深センは、仮想通貨取引所やこうした事業を促進するマーケティング企業に対する市全域での取り締まりを発表した。

10月に習近平国家主席がブロックチェーンを称賛したことを受け、多くの企業がICOを通じた資金調達を目指してブロックチェーン技術を検討した。北京ブロックチェーン・アプリケーション協会(Beijing Blockchain Application Association)の関係者によると、ブロックチェーン業界全体の28000社のうち25,000ものブロックチェーン企業が、中央集権型トークンセールスを通じた資金調達に挑戦した可能性がある。

この動きを抑制するため、中国政府は新興取引所のビス(BISS)やマッチャ(Matcha)など、国内の大手仮想通貨取引所の一部に対し取り締まりを行った。

中国はこれらの取引所を詐欺または為替規制違反だと訴えているが、大手の市場プレイヤーは中国国内のブロックチェーンサービスに方向転換するか、仮想通貨事業をより規制が柔軟な他の国に移転させている。

フォビグループの中国オフィスは2017年、中国の仮想通貨取引事業から撤退し、韓国や日本、トルコなど他国での事業を拡大した。

国民のためのブロックチェーンと貿易戦争

上海市がブロックチェーン技術の開発を推し進めるのとは別に、中国は国内全域での基本的な公共サービスの提供に十分な規模のブロックチェーンネットワークを推進している。

国家情報センターが主導し、中国の中央計画経済機関のトップである経済国家発展改革委員会、国有の大手テクノロジー企業、チャイナ・モバイル(China Mobile)、チャイナユニオンペイ(China UnionPay)、チャイナテレコム(China Telecom)と共同で、10月にブロックチェーンベース・サービス・ネットワーク(Blockchain-Based Service Network:BSN)の試験計画が発表された。

このネットワークは、スマートシティの管理から電気通信まで、あらゆるものへの使用が想定されている。ネットワークビルダーは、アプリメーカーにおけるアンドロイドやiOSのように、これがブロックチェーンデベロッパーの間で広がることを期待している。

11月、フォビ・チャイナ(Huobi China)を含む14社は、ネットワークの開発と運用を行うコンソーシアムを結成した。BSNは香港やシンガポールなど、約200都市で試験が行われることになっている。

イノベーションを自力で生み出すという精神は、米国と中国の貿易戦争を受けて不信が強まる中で生じたものだ。

ロイター(Reuters)の報道によると、11月、貿易や知的財産権を巡る緊張がテクノロジーセクターに広がる中、シリコンバレーのスタートアップインキュベーター、Yコンビネーター(Y Combinator)が中国部門を閉鎖した。しかし閉鎖は貿易戦争とは関係ないと同社は述べている。

翻訳:Emi Nishida
編集:T.Minamoto
写真:Shanghai image via Shutterstock
原文:Blockchain Startup Conflux to Get Shanghai Government Funding for Research Institute