2020年は仮想通貨取引所の「廃業もありうる」──JCBA廣末紀之会長

2020年には仮想通貨交換業にとって“苦しい”内容の改正金商法が施行される。仮想通貨ビジネス協会(JCBA)会長の廣末紀之氏(仮想通貨交換業ビットバンク社長)は「一部の仮想通貨取引所は廃業もありうる」と述べる。今年の仮想通貨業界が再浮上するきっかけとは何か。

仮想通貨交換業は“真っ赤”、2020年は業者の廃業もあり得る

──仮想通貨交換業の現状と2020年の見通しはいかがでしょうか?

現状、仮想通貨交換業全体のPL(損益計算書)は真っ赤な状態です。向こう半年では、交換業の廃業や合従連衡が起きる可能性もあります。相場の格言「山高ければ谷深し」で言えば、2017年の高い山に対し、2020年は深い谷底に当たると思います。

2017年9月に第一陣で登録した交換業者のうちの半分程度はやっていけるでしょうが、それ以外は大赤字で厳しい。お客様を獲得できておらず、事業基盤がありません。JVCEA(日本仮想通貨交換業協会)の公式統計では、2019年通して、登録事業者21社の合計顧客獲得数は、わずか35万人程度です(重複を含む) 。相場の下落もあり、新たなお客様の獲得が業界全体で進んでいない状況です。

日本における取引は、大きく現物取引とデリバティブ取引に分かれます。出来高でいうと、現物取引1に対してデリバティブは7-8くらいあります。デリバティブの市場が大きいので、デリバティブの基盤を持っているところはやれているという状況です。

ちなみにビットバンクは現物だけを扱っていますが、なんとか黒字で運営しています。その理由は顧客基盤や預かり資産が一定数あるからです。現物の市場だけで利益を出すには、ビットバンクと同程度以上の顧客数や預かり資産をもっていなければ難しい。現物だけで利益を出しているのは、ビットバンクを含め数社しかないはずです。

──なぜそれほど厳しい状況になったのでしょうか。

2018年1月にコインチェックから仮想通貨が流出してから、金融庁から業務改善命令が各社に出て、内部管理体制の強化が迫られました。コンプライアンスコストが肌感で3倍に増えました。コストが上がるなかで、2018年は取引量が減少し、2019年にはさらに対前年で半分くらいに減っています。コンプライアンスコストが上がって、取引量=収益が下がっているので、結果として業界全体のPLが赤字になっているのです。

交換業者としては、当局が求める内部管理体制は維持しなければならない。現在、収益をあげるためにまずできることは取扱銘柄を増やすこと。ただし仮想通貨市場のドミナンス(市場における時価総額の割合)は、上位10銘柄ほどで90%くらいを占めます。仮想通貨の取扱銘柄を増やしたとしても、出来高全体に与える影響は少ないです。つまり、収益は大きく改善しない。

仮想通貨ビジネス協会(JCBA)会長とビットバンク社長を務める廣末紀之氏
JCBA会長・廣末紀之氏

さらに現在、仮想通貨のレバレッジ取引に関して、金融庁から証拠金倍率を半分にするよう要請が出ています。2020年の遅くとも6月までには実施されなければならないという要請です。現在レバレッジの倍率は自主規制で4倍ですので、1/2の2倍になるとどうなるか。

出来高に与える影響はルート1/2くらいになるので、およそ30-40%の取引量の低下につながります。したがってデリバティブの市場は、現在は現物1に比べて7-8あると言いましたが、これが大体5くらいに落ちます。業界全体のPLは更に悪化します。すさまじくきつい状況にあると思います。

デリバティブのもう一つ論点は、「オーダーブック(板取引)を許可するかしないか」ですね。デリバティブが金商法の規制下に置かれたとすると、(オーダーブックは)市場開設行為という事実上の禁止事項に該当してしまうので、板取引ができなくなる可能性が高くなります。

板取引を禁止にすると、機関投資家による取引がなくなる。デリバティブ市場の出来高は、およそ7−8割が機関投資家による取引でできているので、彼らが取引をしないとなると、さらに出来高は減少する可能性があります。

──非常に厳しい状況の中で、業界はどうなっていくのでしょうか。

業界全体のPLが大幅に悪化しているので、2020年には合従連衡が必然的に起こるでしょう。事業基盤がないところ同士がくっついても仕方ないので、事業基盤がある企業を中心に、合従連衡は起こるかもしれないです。それ以外は廃業もありえます。ほかには、外国事業者が日本で仮想通貨交換業を開始するために、買収するシナリオはあるかもしれない。

その影響は各所に波及してきます。仮想通貨交換業の自主規制団体であるJVCEAは業界の健全化に向けて多大な努力をしているものの、合従連衡などで事業者の数そのものが減った場合、その運営コストをどう維持するかは問題になるでしょう。また、今回の法改正の内容では、金商業者が仮想通貨のデリバティブ取引にこぞって参入することもないでしょう。エントリーも少なくなるので、仮想通貨業界が活発になるかは不透明な状況だと思います。

2020年は業界の統廃合や合従連衡で、PLを合わせる(編注:ここでは赤字を消すという意味)ことが第一歩になると思います。ある程度強みがある会社は、合併などによって生き残れるとは思います。

ただ一方で、われわれのJCBAは会員企業数が増加し続けているのを見ると (2019年12月に120社を超えた)、潜在的な仮想通貨そのもののビジネスの魅力は依然として高いと思います。

ステーキング、セキュリティ・トークン、ICOの見通し

――厳しい事業環境のなかで、JCBAの2019年を振り返っていただけますか?

協会の活動では、法改正に対する対応が一番大きなウエートを占めました。2019年5月にいわゆる改正資金決済法、改正金商法や改正金販法が成立しましたが、まだ解釈にあいまいな部分があり、これから内閣府令やガイドラインで具体化されるのですが、ガイドラインレベルや自主規制レベルで「こういう風にしてほしい」という提言をしました。

具体的には4つの提言書・要望書を提出しました。デリバティブに対する提言書、セキュリティ・トークンに関する提言書、カストディ(保管)に関する提言書を作成しました。さらに、税制に関しては昨年に続き要望書を取りまとめています。これは10月に自民党に、2020年度の仮想通貨の税制改正要望という形で提出しました。この4つの提言・要望は、どれも非常に重要な内容です。

特にデリバティブに関しては、2017年度から金融庁が主催している有識者研究会で「デリバティブを規制すべき」との論調になり、そこから2019年、デリバティブ規制が盛り込まれた「改正金商法」の流れにつながっています。基本的に仮想通貨は本源的価値が不透明、また既存の金融商品に比してボラティリティが大きい(編注:変動が激しいという意)などの理由から、今回の規制に至ったようです。

それを受けてJVCEAでは、今年の5月からレバレッジ自主規制を4倍にして、要請に応えるべく対応をしました。ただ現在はさらに厳しく2倍にするよう求められています

ビットバンクは、ビットコイン先物のサービスを最大25倍の倍率で提供していましたが、金商法対応が重くなりそうなので2019年3月末でやめました(編注:コインチェックも2020年3月にレバレッジ取引を終了すると発表)。

――仮想通貨のデリバティブ以外の論点は?

新しい論点としては、クリプト(暗号資産)に対する収益基盤のひとつとしてステーキングがあります。これは、暗号資産を保有してブロックチェーンのセキュリティに貢献し、そのリターンとして当該暗号資産を得る行為です。

交換業でなくてもステーキング・ビジネスはできるので、業界を広げる意味はあるでしょう。2019年にはJCBAで初めてのステーキング部会を立ち上げまして、最初の部会に合計30社、50人ほどが参加しました。交換業者でなくてもクリプトに参入できるという視点で、関心があるということだと思います。

あと忘れてはいけないのがセキュリティ・トークンです。金商法が改正されて、電子記録移転権利という名称で、発行できるようになりました。もともとクリプトの技術は金融への応用可能性が高く、なかでも証券業には非常に応用可能性が高い。既存の証券と同じような振る舞いができるデジタルのプログラム可能なアセットができたということで、証券業に広く活用することはできますね。

セキュリティ・トークンの主な論点は2つあって、1つ目は情報開示の問題ですね。電子記録移転権利は一項有価証券に該当しますが、その権利の内容自体は二項有価証券と変わらないことから、二項有価証券に準じた情報開示とするべき、との要請を出しています。

2つ目は、セカンダリー市場が立ち上がるかどうかです、結論からいえば、今のところ目処が立っていません。セキュリティ・トークンを発行しても、株式投資型クラウドファンディングと一緒で、投資家は容易に売却できない、ということになりかねません。市場が活性化するためには、使い勝手の良いセカンダリー市場がないのは致命的です。

現在のままでは、「デジタル証券になってコストダウンします、情報開示規制もある程度低減されます」といっても、「売れないのに誰が買いますか」という話になる。

セカンダリー市場ができないと、イグジットができたりだとか、リテールへの商品化ができたりというメリットが生まれない。プライマリー市場だけなら、既存の証券化に勝るほどの効用はおそらく出せないでしょうから、市場がすぐに離陸することは想定していないです。

――ICOのガイドラインの対応は?

ICOに関しては、ガイドラインが出て、発行できるようにはなりました。しかし監査の点で大きな問題があります。信頼性の高いビッグ4と呼ばれる大手監査法人では、独自に発行したトークンを監査可能資産として見なしません。つまり監査の適正意見が出ないのです。

仮想通貨交換業の登録の要件に「財務諸表監査、分別管理監査を受けること」があるのですが、監査法人との契約上、それを満たせないということです。基本的にICOの発行や取り扱いは難しいでしょうね。一方でアグレッシブな中小監査法人もあるので、やろうと思えば不可能ではないですが、すでに事業基盤のある会社は、ビッグ4系の監査法人が多いと思うので、やりにくいはずです。

金融以外の領域にも視野を広げ仮想通貨業者のビジネスを作りたい

――「谷」にある仮想通貨業界が、次の「山」に登るために、JCBAがすることは?

仮想通貨の技術をどう社会に生かすのかという観点から、強い規制のかからない金融以外の領域に関心を持っています。金融面では、仮想通貨には投機のイメージしかありません。われわれの業界は、まだ社会における有用な活用事例を提示しきれていないのです。必要なことは、トレード以外のきっちりしたユースケースを社会に提示して、仮想通貨の有用性を認めてもらうことです。

仮想通貨ビジネス協会(JCBA)会長とビットバンク社長を務める廣末紀之氏
JCBA廣末会長

少し芽が出ているのが、エンターテイメント業界です。マイクリプトヒーローズなどのブロックチェーンゲームが、日本から出てきました。しかし産業の規模が小さい。ブロックチェーン上で固有性のあるノンファンジブル・トークン(NFT)を使えば、間違いなく新しいゲーム体験ができます。中くらいでもいいのでヒットが出て、ゲームに参入社が増え、ゲームのクオリティが良くなり、市場が拡大するというケースを作れると、流れが変わってくると思います。

2020年にはJCBAでも、広く勉強会や分科会などをしながら、アウトプットを続ける活動を通じて、事業者が新たなビジネスを作ることが急務だと思っています。

取材・構成:小西雄志
編集・撮影:濱田 優
(編集部より:一部の段落の順序に誤りがあったため、訂正して更新いたしました)