日銀など中央銀行6行がデジタル通貨で連携した背景──米中“以外”が手を組む

中央銀行6行は、国際決済銀行(BIS)とともにワーキンググループを新設。各行が中央銀行デジタル通貨(CBDC)の潜在的なユースケースを探るなか、その研究結果を共有することを狙う。

日英欧州などの中央銀行が参加

ワーキンググループは日本、スウェーデン、カナダ、スイス、イギリスの中央銀行と欧州中央銀行(European Central Bank)、さらに国際決済銀行(BIS)が構成メンバー。1月21日、7行すべてから揃って発表された。7行は中央銀行デジタル通貨(CBDC)の「国境を超えた相互運用性を含めて、経済的、機能的、技術的な設計の選択肢」の評価を続け、その結果を共有する。

各行はまた、決済と清算に関する国際的な標準機関であるBIS決済・市場インフラ委員会(Committee on Payments and Market Infrastructures:CPMI)および国際金融システムの勧告機関で、ステーブルコインについての潜在的リスクについて警告したこともある金融安定理事会(Financial Stability Board:FSB)とも密接に連携する。

ワーキンググループの議長は、BISのイノベーション・ハブ(Innovation Hub)のトップに新しく任命されたブノワ・クーレ(Benoît Cœuré)氏と、イングランド銀行の副総裁でCPMI委員長のジョン・カンリフ(Jon Cunliffe)氏が共同で務める。他の参加行の高官もワーキンググループに加わる。

クーレ氏がイノベーション・ハブのトップに就任した理由の一部は、BISによる中央銀行デジタル通貨(CBDC)の研究をリードすることにあった。クーレ氏は2019年11月、自身がECB(欧州中央銀行)の理事会メンバーだったときに、ECBはCBDCの将来的な役割を検討していると報道陣に語った。クーレ氏はまた、ステーブルコインの国際的影響を調査する主要7カ国(G7)のワーキンググループのトップも務めた。

クーレ氏は、この分野における民間企業の取り組みを広く支持しているものの、2018年11月、ビットコインを「金融危機から生まれた悪魔」と呼んだことで知られている。

リブラ、デジタル人民元が契機に

2018年11月、当時、IMF(国際通貨基金)の専務理事を務めていたクリスティーヌ・ラガルド(Christine Lagarde)氏は初めて中央銀行に対して、デジタル通貨を真剣に検討するよう呼びかけた。だが、CBDCへの関心が本当に高まったのは、2019年6月にリブラ(Libra)が発表された後だった。それ以来、民間企業によるデジタル通貨構想の可能性が中央銀行によるデジタル通貨の研究・開発を加速させた。

2019年5月、タイの中央銀行は独自のデジタル通貨プロジェクトを推進していると発表した。イングランド銀行のマーク・カーニー(Mark Carney)総裁は、デジタル通貨はグローバルな準備金通貨としての米ドルに取って代わる可能性を示唆した。リブラに先立って「デジタル人民元」のローンチを目論む中国は、プロジェクトを全速力で進めていると報じられている

この7行からなる新しいワーキンググループは、中央銀行が分散型台帳技術(DLT)、すなわちブロックチェーンについて協働する初のケースではない。2016年以降、日本銀行と欧州中央銀行は、グローバルな金融インフラにDLTをどのように組み込むことができるかについて調査する共同研究レポートの発表に共同して取り組んでいる。

またイングランド銀行も以前、さまざまな仮想通貨構想を検討してきた。だがこれは、ブロックチェーン技術の進展により「今はもう一度トライするには適切な時期かもしれない」ことを意味している可能性があると法律事務所アシャースト(Ashurst)のシニア・アソシエイトのブラッドリー・ライス(Bradley Rice)氏は述べた。

国際的な激しい競争、米ドルの衰退(の可能性)、リブラのような民間企業による代替通貨によって、イングランド銀行のような中央銀行が「存在の危機」に陥る前に、デジタル通貨の研究に、より積極的になることは「完全に理にかなっている」とライス氏は指摘した。

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:Shutterstock
原文:6 Central Banks Form Digital Currency Use Case Working Group