ジェイソン・ウー氏は新型コロナウイルスのために、中国の顧客との10件を超えるミーティングをキャンセルせざるを得なかった。
旧正月とのダブルパンチ
「中国の潜在顧客と話をするために10都市をまわる計画だった」と仮想通貨レンディング企業DeFinerの創業者兼CEO、ジェイソン・ウー(Jason Wu)氏は語った。
「ウイルスのせいで、仮想通貨関連のカンファレンスやミーティングに参加したいと思う人は1人もいない。すべて手配し直さなければならない」
2019年12月8日(現地時間)に中国湖北省の省都・武漢で最初の患者が確認されて以来、当記事執筆時点までにウイルスによって81人が亡くなった。中国の感染者は約2700人、中国以外でも約60人の感染者が確認された。
仮想通貨投資の中心地となっている中国の現状──リサーチ企業チェイナリシス(Chainalysis)によると、世界のトップ50の仮想通貨取引所の40%が存在するアジア太平洋地域の中でも、中国には最も多くの取引所がある──を考えるとウー氏をはじめとする専門家は、程度の差はあれ、新型コロナウイルスがもたらす事業の混乱や価格への影響を懸念している。
中国のアンダーグランドな仮想通貨投資企業が資金を調達したり、仮想通貨に投資するにはマーケティングイベントは不可欠であり、ウイルスが原因でビジネスが減速する可能性は高いとウー氏は述べた。
「仮想通貨へのこれまでのような資金の流入が止まれば、市場は大きな打撃を受けるかもしれない」
ウー氏は仮想通貨市場に流入した中国の投資資金を推計することはできなかったが、最大級の非合法な仮想通貨企業プラストークン(PlusToken)を例にあげた。
プラストークンは詐欺の一種であるポンジ・スキームを通じて30億ドル(約3300億円)以上を調達して、中国の仮想通貨保有者の間で悪名をとどろかせた。プラストークンは、78万9000イーサリアム(ETH)、2600万イオス(EOS)、そして発行済みの供給量の1%にあたる20万ビットコイン(BTC)を集め、2019年6月、中国政府によって閉鎖された。
ウー氏によると、仮想通貨市場はウイルスの流行のほかに、中国の旧正月にも影響を受けた可能性がある。多くの中国人個人投資家は長期休暇となる旧正月の直前に仮想通貨を現金化し、新年に再投資する傾向がある。
2020年、中国の旧正月は1月25日だった。
「ウイルスの流行がちょうど重なった。休暇の後、いつ、どれくらいのお金が市場に戻ってくるのかわからない」
不透明な市場
中国の仮想通貨投資家は市場にかなりの影響を及ぼすが、ウイルスの流行と仮想通貨市場の間に相関関係を見つけることは統計的に難しいとサンフランシスコに拠点を置く仮想通貨ヘッジファンド、トレーディング・ターミナル(Trading Terminal)のCTO(最高技術責任者)、リンシア・ヤン(Lingxia Yang)氏は述べた。
「仮想通貨の取引高や市場価格に影響を与える原因を1つあげることは非常に難しい。そもそもデータが常に入手可能で透明性を備えているとは限らない」
さらに、仮想通貨の時価総額は株式市場に比べると小さい。これはつまり、多くの要因が市場に影響を与える可能性があることを意味する。
しかしヤン氏は、新型コロナウイルスが市場に大きな影響を及ぼす重要な要因となり得るアジアの仮想通貨投資家の特徴をいくつか指摘した。
アジアの仮想通貨投資家のほとんどは個人投資家で、歴史的に彼らは旧正月のような主要な休日付近により活発な動きを示してきたとヤン氏は述べた。
「市場価格を予測することはできない。だが過去の経験に基づくと、そうした時期には価格変動がより大きくなる傾向があった」とヤン氏。
「ウイルスの流行が個人投資家による仮想通貨取引を増加させる可能性があることは理解できる。なぜなら家にとどまり、市場をチェックする時間が増えるから」
そして、ビットコインのようなデジタル資産はユニークな利益の原動力を持つため、市場価格を予測することは難しいとCLSインベストメント(CSL Investments)のシニア・ポートフォリオ・マネージャー、コイスタ・エタス(Koysta Etus)氏は述べた。
「ビットコインは、ゴールドや現金のような安全資産とは必ずしも見なされておらず、株式のようなリスクオン資産ともあまり共通点はない」とエタス氏は述べた。
「ほとんどの資産はリスクオンもしくはリスクオフの環境に特化しており、特定の出来事に対する価格の反応を予測できるが、ビットコインはそうした資産ではない」
流動的な状況
シカゴに拠点を置くSVRNアセット・マネジメント(SVRN Asset Management)のファイナンシャルアドバイザー、サミュエル・リー(Samuel Lee)氏によると、仮想通貨は非常に投機的なため、新型コロナウイルスはもしかすると国際市場に大きな影響を与えるかもしれない。
「仮想通貨市場はウイルスの流行に過剰反応するかもしれない。なぜなら、伝統的な金融市場に比べて不合理な動きをする傾向があるから」
その一方で、リー氏はウイルスの流行は限られた影響にとどまる可能性の方が高いと述べた。
「ビットコインはイランとアメリカの間に戦争の可能性が浮上した時に価格が上昇した。だが新型コロナウイルスの地政学的影響はそれほど大きくないだろう」
当記事執筆時点、世界保健機関(WHO)は今回のウイルスの流行を国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態と宣言するかどうか、まだ議論している。
「中国国民は、中国から脱出したいと思うほど怖れていない」とリー氏は述べた。
WHOが新型コロナウイルスの流行への対処方法を検討するために緊急会議を招集した後でさえも、S&P500指標は上昇した。だが香港の株式指標である香港ハンセン株価指数と上海A株指数は最近、かなりの下落を記録した。
「SARS(重症急性呼吸器症候群)を除いて、ほとんどの過去の地域的なウイルスの流行は、株式市場に対してきわめて限られた影響しか及ぼさなかったようだ」とブティック投資銀行Bardi Co.のシニア・アドバイザー、ウィルフレッド・ダエ(Wilfred Daye)氏は述べた。
「流行が長引いて市場を動かす要因となった場合、仮想通貨市場はより激しく反応するだろう」と以前はオーケーコイン(OKCoin)の金融市場責任者でもあったダエ氏は語った。
翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:To varying degrees, crypto professionals are worried about a potential disruption of business and impact on prices from coronavirus. (Image via Shutterstock)
原文:How Coronavirus Outbreak in China Could Weigh on Crypto Prices