「取引所トークン」は明らかに株式ではない。だが、仮想通貨のベスト・ユースケースの先駆けになり得るだろうか?──おそらく、ならない。
高収益をあげる仮想通貨取引所
数多のスタートアップ、トークン、コイン、ブロックチェーン、オープンソースプロジェクトの中で、仮想通貨取引所は今、収益性の高さで際立っている。
コインベース(Coinbase)は2018年のアメリカ以外での収益は1億7300万ドル(約190億円)と伝えられ、ロイターは同社のグローバルでの収益を5億ドル(約550億円)以上と推定した。
仮に仮想通貨の存在意義を1つのユースケースで証明するなら、仮想通貨は投機を求める投資家のためのボラティリティの高い資産だ。仮想通貨取引所の収益についての我々の推計は、これが真実であることを示している。
そうなると、取引所自身が発行した仮想通貨トークンは最も有用なデジタル資産かもしれない。いわゆる「取引所トークン」は取引手数料の割引などの特典を提供する。
取引所トークンは成功していない
取引所トークンは、どのような買い戻しメカニズムが採用されていたとしても、複数のアナリストが指摘しているように、取引所の収益に対する株式請求のようなものではない。2017年から2018年にかけてのICO(イニシャルコインオファリング)ブームの中で発行された「ユーティリティトークン」のようなもの──もしくはマイルのようなものだ。そして、こうしたトークンへの投資家の一部はこのストーリーを受け入れている。
マイルと違い、取引所トークンはさまざまな場所で自由に取引される。だから、取引所が成功しているにもかかわらず、トークン自体は投資として成功していないことは驚きだ。
下記の表はバイナンスのBNB(バイナンスコイン)、フォビのHT(フォビトークン)、ビットフィネックスのLEO(レオ)、オーケーエックスのOKBの1カ月、3カ月、6カ月、9カ月、12カ月の1月28日時点のリターンを示したもの(データはNomicsより)。この4つの取引所トークンはデリバティブ取引所FTXが提供する取引所トークン指標を構成している。
しかしトレーダーのメリットは大きいこともある。バイナンスの手数料一覧によると、BNBトークン保有者のトップ層となるには、記事執筆時点で17万6000ドル(約1900万円)相当のトークンを保有し、ひと月あたり約120万ドル(約1300万円)の取引を行う必要がある。
このボリュームで取引するユーザーには手数料割引が提供され、通常の取引手数料と比べると毎月約72万ドル(約7800万円)節約できる──バイナンストークンを使えば、さらに節約できる。また取引所の新しい資金調達手法であるイニシャル・エクスチェンジ・オファリング(IEO)にもアクセスできる。
取引所トークの存在意義とは?
つまり、BNBや他の取引所トークンはIEOの相対的な成功指標として機能することが期待されることがある。マイルのオープン市場が存在すれば、ある航空会社のマイルを他社のマイルとプレミアム価格で取引できるかもしれないということだ。
かつて、それは取引所トークンにも当てはまった。だが、この1年でますます違ってきている。ほとんどの取引所トークンで、価格と公称取引高の相関関係は時間とともに小さくなっている(ただし、上記の表の取引所とは異なり、取引所トークンの公称取引高のすべてが信頼されているわけではない)。
投機としての仮想通貨に対する幅広い需要指標を提供する、より一般的な指標としても取引所トークンは弱いシグナルに過ぎない。あるいは少なくとも、ビットコイン価格に勝るものではない。取引所トークンの価格が公称取引高から乖離すると同時に、取引所トークンの日次リターンはビットコインのリターンにより近くなった。
ビットコインがスタートしてから11年、あらゆる資産カテゴリーにおいて投機はユーザーにとって最も実績のあるストーリーとなっている。実際、リアルなユースケースだが、世界中のすべての人がボラティリティの高い資産にアクセスするわけではない(そしておそらく、一部の人には十分にボラティリティの高い資産は存在しない)。
今のところ、取引所トークンはボラティリティの一種に過ぎないようだ。その価格動向は、取引所トークンは使用あるいは所有において有意義なイノベーションであるという考え方をまだサポートしていない。
翻訳:下和田 里咲
編集:増田隆幸
写真:Line graph showing exchange token and bitcoin returns’ correlation vs time
原文:Exchange Tokens: Neither a Great Investment Nor a Great Market Indicator