マスターカードCEO、リブラ協会離脱の理由を語る

マスターカードのCEOは、ビジネスモデルとコンプライアンスに関する懸念が大きくなったため、フェイスブック(Facebook)のリブラ(Libra)プロジェクトから離脱したと述べた。

利他的なアイデアではなくなった?

2009年からマスターカードのCEO兼社長を務めるアジェイ・バンガ(Ajay Banga)氏は、国際的に包括的な通貨になると思われたリブラをフェイスブックの子会社が開発しているデジタルウォレット「カリブラ(calibra)」にリンクする提案をプロジェクトメンバーが受けたことで、同氏のリブラへの考え方は悪化したとフィナンシャル・タイムズ(Financial Times)に語った。

「利他的なリブラのアイデアから、彼ら独自のウォレットへと進んでしまった。『これは正しくない』と感じた」と同氏は述べた。

金融包摂(ファイナンシャル・インクルージョン)とは、政府が国民に特定の通貨で支払いできることを意味する。国民はその通貨の利用方法を理解し、食品のような品物の日常的な取引に利用可能なものでなければならないとバンガ氏は指摘した。

「リブラを受け取ったら、カリブラに入り、お米を買うためにはポンドに戻す。その仕組みが理解できない」

明確なビジネスモデルの欠如

リブラに明確なビジネスモデルが欠如していることは、マスターカードにとって別の大きな懸念にもなった。リブラ協会(Libra Associtation)には採算性を得たり、ユーザーから利益をあげる明確な手段がないとバンガ氏は述べた。

「利益を得る方法が理解できない時は、往々にして好ましくない方法で利益が上がる」

バンガ氏はまた、協会メンバーが顧客確認(KYC)、アンチマネーロンダリング(AML)規制、データ管理規制に強くコミットしないことにも懸念を抱いていた。

マスターカードは、競合のビザ(Visa)とともに2019年10月にリブラプロジェクトから撤退した。マスターカードは当時、その理由を明らかにしなかったが、ビザの広報担当者はプロジェクトが「規制上の期待のすべてを満たす」ことができないことを理由にあげた。

ブロックチェーンに慎重なマスターカード

マスターカードは、当初のリブラ創立メンバーから8番目の離脱となった。直近に離脱したのはイギリスの通信大手ボーダフォン(Vodafone)で、自社のデジタル決済サービスに集中することを理由に2020年1月に離脱した。

マスターカードはブロックチェーン技術にきわめて慎重なアプローチを取ってきた。同社はブロックチェーンを活用した複数の取り組み──最近ではR3と協力したクロスボーダー決済プラットフォーム──を支援してきたが、マスターカードは仮想通貨に懐疑的だった歴史がある。

マスターカードの東南アジア担当社長、マシュー・ドライバー(Matthew Driver)氏は2014年、ビットコインや他の仮想通貨は、目的が明確に定義されておらず、決済手法として信頼できないと述べた。2018年7月、バンガ氏は仮想通貨を「ジャンク」と表現し、交換手段として考慮されるべきではないと主張した。

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:Mastercard CEO Ajay Banga at World Economic Forum 2015. Image courtesy of Mastercard
原文:Mastercard Left Libra Association Over Regulatory and Viability Concerns, Says CEO