分散型金融(DeFi)市場の価値が7億ドルを下回ったのは、つい先日の2019年12月だった。だが2月7日朝、10億ドルに達した。この数字は最も強硬なブロックチェーン懐疑論者でさえ、無意味なものとして退けることは難しい。
一足早い誕生日プレゼント
10億ドルという数字は、イーサリアムのスマートコントラクトを使って融資、ヘッジ、スワップなどを行うプロジェクトで保有されている仮想通貨の額を表している。DeFiパルス(DeFi Pulse)の集計によると、協定世界時(UTC)2月7日8時に合計額は10億ドルに達した。
明確にしておくと、10億ドルは人々がDeFiで生み出している金額ではなく、人々がDeFiに委ねている金額を表す。DeFiに「ロックイン」されたイーサリアムは担保として、シンプルなローンから複雑なデリバティブまで、さまざまなプロトコルで使用されている。
本記事執筆時点、数字は9億9330万ドルに減少した。だが10億ドルというマイルストーンを業界の大半の人はさらに大きな成功のサインと考えている。
「これは世界中の人々がより効率的で先入観の少ないお金を求めていることを証明した」とDeFi大手、メーカーダオ(MakerDAO)のルーン・クリステンセン(Rune Christensen)CEOは広報担当者を介してCoinDeskに語った。
メーカーダオはDeFiパルスの集計において、一貫してトップを維持し、担保となっているイーサリアムの大半、約60%を占めている。
「10億ドルはDeFiにとって、祝福すべき重要なマイルストーン。また2019年2月にローンチしたDeFiパルスにとっては一足早い誕生日プレゼントのようだ」とDeFiパルスはブログに記した。DeFiパルスは新しいDeFi業界で、ある種の標準となっている。
強気なのはDeFiパルスだけではなかった。DTCキャピタル(DTC Capital)の投資家、スペンサー・ヌーン(Spencer Noon)氏も似たようなコメントをメールでCoinDeskに送った。
「開発者のマインド、ツール、インフラといった点において、DeFiがいま達成している地点に並ぶスマートコントラクト・プラットフォームは存在しない。そしておそらく最も驚くべきことは、我々がついにイーサリアムの信頼できる事例を目にしていること。イーサリアムはDeFiにおける唯一のトラストレスな担保となり、長期的な金銭的プレミアムを生み出している」
ボラティリティの影響
DeFiパルスは1時間ごとにDeFiプロトコルにロックされているイーサリアムとERC-20トークンを合計し、トップページに掲載されているグラフに「Total Value Locked(TVL)」として記録する。
もちろん、数字の大半はイーサリアムでいま全体の70%を占めている。そのため、数字は少し誤解を招く可能性がある。なぜならボラティリティのリスクに晒されているからだ。つまり、イーサリアムの価格が急上昇すれば、他に誰かがイーサリアムを預け入れしなくてもTVLは上昇する。
事実、ロックアップされたイーサリアムに注目すると、過去7日間、グラフは上昇ではなく、下降している。
「もちろん10億ドルというDeFiのマイルストーンの一部はイーサリアムの上昇によるもの。だが、それとは別に我々は2018年と2019年の弱気市場からの転換点を越え、2020年の強気市場に備えている」とコインファンド(CoinFund)のジェーク・ブルフマン(Jake Brukhman)氏はメールで述べた。
ツイッター(Twitter)でイーサリアムに対して強気の発言を行う仮想通貨投資家のライアン・ショーン・アダムズ(Ryan Sean Adams)氏はこのニュースについて「ソフトウエアはお金を食い尽くす。ソフトウエアは銀行を食い尽くす。次の10年は激しいものになるだろう」とツイートした。
しかし、ビットコインの信奉者がこの件を揶揄する以外、大したことは起きていない。例えば、元ビットコイン開発者のピーター・トッド(Peter Todd)氏は「分散型のスマートコントラクトは人々に負債の責任を負わせることはできない。そのためには銃が必要だ」とツイートした。
10億ドルはまだ少額
いずれにせよ、10億ドルはまだ少額だ。アメリカの商業融資だけを見ても、データ企業のIBISWorldによると、市場規模は8000億ドルにのぼる。DeFiには長い道のりが待っている。
そして急成長が常に続くとは限らない。例えば、クラウドファンディングサイト大手のキックスターター(Kickstarter)は2009年にローンチし、2014年に10億ドルの資金を集めた。だが6年後の現在、まだ50億ドルに届いていない。
だが、DeFiははるかに早く10億ドルに達した。そしてクラウドファンディングよりもはるかに複雑だ。
「この歴史的なマイルストーンは、多くの要因が融合したことによるところが大きい」と投資の自動化をめざすセット・プロトコル(Set Protocol)のフェリックス・フェン(Felix Feng)氏はCoinDeskにメールで述べた。同氏はセキュリティなどの改善によって、より多くのユーザー獲得が可能になると考えている。
DeFi大手のコンパウンド(Compound)の創業者ロバート・レシュナー(Robert Leshner)氏は、このマイルストーンはユーザーが取引所への依存を小さくし、仮想通貨をよりトラストレスに使う方法を見つけたことを示したと述べた。
「サトシはとても誇らしく思うだろう」
翻訳:新井朝子
編集:増田隆幸
写真:Shutterstock
原文:Why DeFi’s Billion-Dollar Milestone Matters