ブロックチェーンのビジネスコミュニティ「btokyo members」による初のサロンイベント「STOが金融を変える──ブロックチェーンビジネス2020年の市場形成と予測【btokyo lounge】」が2020年2月4日、開催。デロイト トーマツやLayerXなどから識者を迎え、今年予定されている改正金商法の施行で、注目がさらに高まると見られているSTO(セキュリティ・トークン・オファリング)に関する可能性や問題点などについて議論した。
ゲストスピーカーは園部光宏氏(デロイト トーマツ グループ シニアマネジャー)、斎藤創氏(創・佐藤法律事務所 代表弁護士)、川浪創氏(Fintertech Strategy Group)、福島良典氏(LayerX CEO)。モデレーターは久保田大海氏(CoinDesk Japanコンテンツプロデューサー)が務めた。
本イベントは、フィンテック拠点を運営するFINOLAB(東京・大手町)とのコラボ企画として開催された。
海外での盛り上がり、改正金商法の壁
ビットコインを契機に生まれたブロックチェーン技術は、仮想通貨・ICOバブルを経て、金融領域での実用化に向けたレギュレーションが整備されつつある。では2020年以降、どのような市場を形成するか?
イベントは園部氏が「当初、海外ではICO(イニシャル・コイン・オファリング)が資金の直接募集という文脈でとらえられてニーズが高まったが、仮想通貨の流出事件が相次ぎ、市場での信頼がトーンダウン。逆にアセットベースで、開示規制もあるSTOが北米で盛り上がってきた」と海外の動向と期待感に関する情報を共有して始まった。
ただし、特に国内においてST(証券型トークン)の市場が形成されるには、いくつかの課題を超えなければならないという認識は、園部氏を含めた登壇者全員の認識が一致するところだった。
日本STO協会の監事であり弁護士でもある斎藤氏は、課題について「STOにはさまざまな可能性があるが、2020年施行予定の改正金商法を見ると、期待されていることと、実際にできることに乖離(かいり)がある状態だ。もともと第1項有価証券であった株式などがST化により第1項有価証券になるというのならばわかるが、ファンド持分など現行では第2項有価証券であるものも、ST化すると1項の規制対象になってしまう」と指摘。
ブロックチェーンという新たな技術により、もともとは証券市場を活性化するための技術だったはずのものが、現在のところ当局が慎重な姿勢をとっているため、市場形成において不透明な部分が残っているということだ。
STOはシェアリングサービスに向いている
本イベントは、登壇者が会場からリアルタイムで届く質問に答えるなど、双方向での議論が行われたが、「STで調達するのに向いているのはどのようなプロジェクトか?」「ブロックチェーンを活用した共通プラットフォームが既存のシステムに対して優位である点はどこか?」など、期待と疑問が入り混じった質問が多く見られ、市場形成への気運の高まりが感じられた。
前者の質問に対しては、大和証券グループのFintertechに所属する川浪氏が、「(STOは)UberやAirbnbなど、シェアリングサービスに非常に向いていると思う。先日Airbnbが直接上場(新株を発行せず既存の株式だけを上場)の形でIPOを実施するのではないかという予測が米国で話題になった。たとえば、何十万という数のヘビーユーザーに対してストックオプションに近い形でSTを配るなどが実現すれば、『いいものを提供すれば、持っているSTの価値が上がる』というユーザーのモチベーションにつながる」と回答。
また後者の質問に対しては、福島氏が「価値の移動を複数間で整合性をもって行いたい場合などは、ブロックチェーン技術に優位性がある。ただ単に名簿の共有をしたい、メールのようなメッセージのやりとりをしたい場合には使う必要はないが、契約や合意が電子署名というトリガーで走る形をとりたいのであれば、ブロックチェーンなどの仕組みを実装したほうがいい」とコメントした。
続けて川浪氏は金融の立場から「安全なDLT(分散型台帳技術)の上で取引を動かすことができるのなら、コスト削減につながる。加えて、インフラでの勝負ではなくなるので、競争が激化し、よりよいものが生まれるというメリットもある」と語った。
400年ぶりの大チャンス
イベントの締めくくりとして、モデレーターの久保田氏は登壇者に対し、あらためて「STOの可能性」を問いかけた。
園部氏は「SDGsのような商品やグリーンボンド(環境債)的な商品が出てくれば、ポートフォリオに組み込みたいという大手機関投資家のニーズにも合致する。仕組みづくりも必要だが、商品設定のところでの工夫ができれば、市場のボリュームが出て、マーケットが成長していくだろう」とコメント。
斎藤氏は「課題は多いが、(STのように)リスクマネーがベンチャー企業に流れていくことを効率化できれば可能性は大きい。使命感を持って取り組みたい」と述べた。続けて川浪氏は「投資というものの楽しさを知ってほしい。購入型クラウドファンディングのように『面白そうだ』と思って気軽に買えるようなものを、STでも実現したい」と抱負を語った。
そして、最後に福島氏が「現実はそこまで簡単ではないことがわかったうえで、青臭いことを言いたい。STO、ブロックチェーンがやろうとしていることは、投資、資金調達に関する民主化であり、金融変化という意味で、株式会社の祖である東インド会社設立以来、400年ぶりのチャンスだと思っている。金融の大革命の入り口にいる幸運に感謝し、志ある方と一緒に技術と思考を駆使して、この波を泳ぎ切っていきたい」と呼びかけ、閉会となった。
構成:池口祥司
編集:久保田大海
撮影:多田圭佑