ビットコインを夢見る、一匹狼のレジェンド──ジャック・ドーシー【後編】

ツイッターとスクエアを率いるジャック・ドーシ氏はいつの日かビットコインがインターネットのネイティブ通貨となることを願っている。ななぜ彼はビットコインに力を入れるようになったのか、後編ではその歩みを振り返る。

配車コードをプログラミング

ドーシー氏はミズーリ州生まれ。幼い頃は言語障害があり内向的な性格を強めることになった。8歳の時、家庭用コンピューターのIBM PC Juniorで遊んでいるうちに初めてテクノロジーに恋をした。

ティーンエイジャーの頃には、市街図が好きなおかげでオープンソースを使って配車コードをプログラミングしていた。ニューヨーク大学を中退後、スタートアップで働くという夢を叶えるためにサンフランシスコに移り、雇用主から注意された時にも鼻ピアスを外すことを拒んだ(代わりに鼻にバンドエイドを貼ったと彼はのちに書いている)。

些細な権威主義に従うことに苦労する(鼻ピアスをつける権利にこだわる)点は同類の多くのビットコイナーと同じだ。

2000年、ドーシー氏は配車コードのプログラミング経験とブログサービスのライブジャーナル(LiveJournal)の2つから着想を得て、ロケーション情報をアップデートするミニライブブログというアイデアを思いついた。

だが2005年、経験豊富な起業家(のちのツイッターの共同創業者)エバン・ウィリアムズ氏との偶然の出会いが、ドーシー氏を理由なき反逆者からIT業界の一匹狼のレジェンドへと変えた。ウィリアムズ氏のポッドキャスト関連スタートアップ、オデオ(Odeo)は2006年にツイッターへと生まれ変わり、ドーシー氏は陣頭指揮をとった。

CEO就任、追放、スクエア創業

それ以降の10年は、ドーシー氏にとって人間的成長が加速した時代だった。その時点まで、彼のプロフェッショナルとしての成果は都市化への強い興味と何らかの関連があった。

子供の頃、彼の部屋の壁には地図が貼ってあった。棚には近所の車両基地を撮影したビデオテープが並んでいた。配車ソフトウエアに夢中になったことは、自然とツイッターへのつながっていった。

契約業者としてウィリアムズ氏に雇われたドーシー氏は2007年、ツイッターのCEOに就任した。彼は会社を大きくすることに苦労したと伝えられている。

「サーバーは毎日クラッシュしていた」とウィリアムズ氏は語った。2人は経営上の優先事項をめぐって衝突し、2年もしないうちにドーシー氏は追放された。ドーシー氏は、CEOとして会社を追放されたことは「腹にパンチを受けた」ように感じたとヴァニティ・フェアに語った。

失脚したドーシー氏は他の興味を探り始めた。2009年、フィンテックスタートアップのスクエアを創業、決済はコミュニケーションの別の形態というアイデアに触発されたものだ。

「ツイッターはコミュニケーションの未来だと考えている」とドーシー氏は2011年のインタビューで語った。

「そしてスクエアは決済ネットワークになる。我々はビッグになる」

このことは、ドーシー氏の強い願望がテクノロジーのメカニズムから、それらを生み出す広範なネットワークと社会へと劇的にシフトしたことを象徴していた。

ビットコインとの出会い

ドーシー氏は、ユースネット(Usenet)の掲示板を長年フォローし、何十年も前のサイファーパンクたちに心酔していたと語った。彼はビットコインをはじめて手に入れたのはいつだったのか、もらったものか購入したものか正確には覚えていない。だがビットコインが2009年にローンチされた後の「かなり初期」だったと述べた。

(ビットコインとの最初の出会いを思い出せないと語った人をインタビューしたのは初めてだった。彼の人生における激動の時期だったことを反映しているのかもしれない。いずれにせよ、2014年に短期間で終わったスクエア・マーケットでのビットコイン実験まで、彼はビットコインを比較的プライベートなものに留めていた)

2011年、ドーシー氏はツイッターに復帰すると、ツイッターとスクエアに時間を費やし始めた。2つの会社での仕事を両立させることは、私生活に支障を与えたのかもしれない。バレリーナのソフィアン・シルベ氏との交際はツイッターへの復帰から1年もせずに破綻した。

ツイッターが2013年のIPOで上場した時までに、ドーシー氏が所有する同社の株式は15億ドル相当となった。

2015年、ドーシー氏は再びツイッターのCEOに就任し、現在知られているような公の場での人柄を示すようになった。すなわち、シリコンバレーにおけるヴィパッサナー瞑想ブームの口火を切った人物だ。

スクエアの「キャッシュ」アプリは2017年後半、仮想通貨ブームのピーク時にビットコイン購入サービスの提供を始め、ドーシー氏の財産はさらに膨らんだ。

ドーシー氏もその顧客もビットコインを定期的に買い増して、保有している。

1週間に1万ドル相当のビットコインをまだ買っているのかと質問された時、ドーシー氏は「買い増しというトレンドはかなり合理的。私も定期的に可能な限りのビットコインを買っている」と答えた。

常に野心的なドーシー氏は、ビットコインが「真にグローバルな通貨」になることをサポートする決意を固めており、通貨という点に重点を置いている。

仮想通貨投資家

2019年、ドーシー氏は3つ目の会社となるスクエア・クリプトを創業し、また仮想通貨企業への主要投資家としてのポジションも固めた。

ドーシー氏は、2018年にビットコインのスケーリング・ソリューションに特化したライトニング・ラボに最初に投資したうちの1人だった。ライトニング・ラボの主な事業はオープンソースであり、スクエア・クリプトが支持する精神と同じものを重視していた。ドーシー氏はキャッシュ・アプリのチームがライトニングネットワークを活用する方法を模索していると公に述べた。

そして2019年10月には、コインリスト(CoinList)に投資することによって「ビットコイン・マキシマリスト」としてのステレオタイプの限界に挑戦した。コインリストはトークンセールスに特化したスタートアップ、2017年8月以降、企業が約8億ドル相当の仮想通貨を調達することをサポートした。コインリストの共同創業者、アンディ・ブロンバーグ氏は、ドーシー氏を積極的なアプローチを備えた「途方もなく頼りになる」投資家と表現した。

ドーシー氏は、自身の会社は利用可能な最高のテクノロジーを使うと述べた。現在、彼はビットコインを一番の候補と考えている。しかし、独断的になることは避けている。

「この分野ではたった1つのソリューションにこだわりたくない」とドーシー氏は述べた。

「我々は、最高の、最も回復力のある、最もスケーラブルな、最も成功する(通貨)を最終的に求めていることを明確にしたい」

同じ志を持つ技術者チームを見つけることは、ドーシー氏の企業を超えた戦略にビットコインを組み込むことにおいて最も大きな課題だった。

ドーシー氏は、ツイッターとスクエアで初期に犯した最も大きな間違いは、協力的なチームを築くことの重要性を過小評価したことと語った(スクエア・クリプトは現在、グーグル出身で長年のビットコイナー、そしてリフトとピンタレストのエンジェル投資家でもあるスティーブ・リー氏が指揮している)。

「仮に誰かがスーパースターだとしても、(中略)私はチームの個人に焦点を当てすぎないようにしており、メンバー間のダイナミクスにより焦点をあてている」とドーシー氏は語った。

急がず、柔軟に

ザッカーバーグ氏やマスク氏との比較は別として、仮想通貨業界の一部の人は、ドーシー氏と、イーサリアムの共同創業者でコンセンシスのリーダーであるビリオネアの起業家、ジョー・ルービン氏との間に重要な類似点と明確な違いを見出すかもしれない。

ルービン氏もドーシー氏もお気に入りの仮想通貨の国際的な普及を進めることに専念している。2人とも仮想通貨企業に投資し、莫大なデジタル資産を蓄積し、仮想通貨の普及に尽力している。

しかし2019年、ルービン氏の「ブロックチェーンスタジオ」であるコンセンシスでは部門閉鎖が相次いだ。一方、ドーシー氏の会社は外部のグループが生み出した公共財であるビットコインを、より広く、従来的なものに近いビジネスモデルに組み込むことに重点を置いた。

キャッシュ・アプリのエンジニア、マイルス・スーター氏は次のようにツイートした。

「ビットコインをサポートし、強化する企業は今、他に選択肢がない場合に自らのビジネスモデルを最適化する方法を知っている」

自身が関わった複数の企業やカルチャーを通して、ドーシー氏のリーダーとしての経験は彼に、すべてを試し、どれが残るかを見るのではなく、ユーザーの習慣やフィードバックを組み込むことでイノベーションを起こすことを教えた。

これがドーシー氏が単に影響力のあるビットコイナーにとどまらない理由だ。2019年はドーシー氏が築くであろう帝国の前触れに過ぎない。彼はビットコインが成長するなか、その構築と学習を急いではいない。

ツイッターのトップとしてのドーシー氏の成長期の苦しみは、事例を通じて率いることの大切さを彼に教えた。ドーシー氏は最近、ツイッターはオープンソース標準とリソースをソーシャルメディア向けに開発するチームのスポンサーになると発表した。

彼はまたよく知られたことだが、ツイッターでの役職に対して給与を受け取っておらず、ブロックチェーン技術がすべての法定通貨や制度プロセスを上回るという夢を促進しないように意図的に慎重になっている。彼は自身の会社を通して、ムーブメントを独占することなく、リードする方法を示している。

「(キャッシュ・アプリの中に)伝統的な銀行に行く理由を置き換えるようないくつものサービスが誕生していく」とドーシー氏は述べた。

「しかしそれは、我々がバックエンドで伝統的な銀行を利用しないという意味ではない。常に柔軟性を保つべきだ」

ドーシー氏はさらに次のように付け加えた。

「私はインターネットがネイティブ通貨が備えるのを見たい。生きているうちに実現して欲しい」

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:CoinDesk archives
原文:Jack Dorsey Is Stacking Sats