レオ・ウィース(Leo Weese)氏は香港ビットコイン協会(Bitcoin Association of Hong Kong)の代表。
ビットコインの価値とは
2019年6月から11月、香港は過去50年で最悪の騒乱を経験した。
最大200万人(香港の人口の約4分の1)の参加者による平和的な行進で始まった抗議活動は、デモ参加者、警察、香港の犯罪組織「三合会」を巻き込んで暴力的な衝突へと発展した。これまでに2500人以上が負傷し、少なくとも7000人が逮捕された。
中国系銀行、政府の建物、地下鉄システムや店舗を狙った破壊行為は、犯罪組織や中国政府とつながりがあるようだ。
香港はアジアの重要な金融センター。国際銀行システム、流動性の高い株式市場、そして集積した大規模な富へのアクセスによって、中国のみならず、国際的なビットコインコミュニティにとっても重要な存在となっている。
複数の仮想通貨取引所、トークンファンド、投資顧問企業、仮想通貨イベントが香港を拠点とし、香港の簡易な課税制度と資本規制の欠如から恩恵を受けている。
現金をビットコイン、イーサリアム、テザーに交換できるATMが香港中に少なくとも50台設置されている。サインアップや身元確認は不要だ。
デモ以前、ビットコインがもたらす価値を説明することは難しかった。人々は「検閲抵抗性」のような抽象的なアイデアよりも利便性を優先し、匿名性は犯罪者のみが望むものと見なされていた。
だがデモが活発化するにつれ、ビットコインの独自性と価値はますます明確になっていった。
初の分散型市民運動
2014年の大規模な抗議活動は、大勢の逮捕によって集結した。指導的な人物は刑務所に入れられ、刑期を終えた後も当局から嫌がらせを受け続けた。
2019年、活動のまとめ役やリーダーに進んでなる人はほとんどいなかった。活動は中央集権的なリーダーシップなしに連携することを素早く学んだ。
目標は合意で形成され、戦略は自発的に作られた。メッセージは掲示板やグループチャットで広められた。
香港の抗議活動は初の分散型市民運動であり、その戦術はベイルートからサンティアゴまで、さまざまな場所で模倣された。
当局が日時を定めたデモの承認を保留したり、取り消したりするなか、香港市民は突然、「無認可の集会」や「暴動」に対する長期の懲役刑(暴動の場合は10年)を受けるリスクを冒した。一方で仕事への影響を恐れる人もいた。
抗議活動への支持を表明した人は時に解雇されたり、暴力的な攻撃を受けたりした。人々は顔を隠すために、マスクを着け始めた。
デモの実施場所との行き来をデジタルに記録されることを恐れて、デモ参加者は香港の交通機関で利用できるICカード「オクトパスカード」の利用をやめて、現金を使った。
他の乗客のプライバシーを守るために、地下鉄の発券機の近くに小銭を置いていったりした。
これは良いアイデアだった。警察はデモに参加した人物を特定するために電子決済の記録を利用していたから。
押収された銀行口座、ビットコインでの資金集め
銀行口座を保有する人たちはトラブルを免れることはできなかった。
12月、警察は逮捕されたデモ参加者を弁護する費用をクラウドファンディングで集めた組織の強制捜査を行って900万ドル(約9億7000万円)を押収、マネーロンダリングの疑いで4人を逮捕した。
この組織スパーク・アライアンス(Spark Alliance)が利用していたHSBCは、法律の遵守と破壊行為の標的になるという非常に難しい立場に追い込まれた。HSBCのシンボルであるライオン像「ステファン」と「スティット」は火をつけられた後、木製のケージに入れられた。
一方、抗議活動の最盛期にビットコインを利用していた最も有名な香港のグループはHKマップ・ライブ(HK Map Live)だ。
アップ・ストアでiOSアプリが削除されたHKマップ・ライブは、道路の封鎖、警察の包囲網、放水銃や装甲車両のような特別装備の位置を知るために利用されていた。
データはクラウドに集約され、デモを支持する人、デモを避けたい人の双方から重宝されていたが、大量のトラフィックがグループにとって大きな財政的負担となっていた。
匿名性を守りながら、こうしたコストをカバーするために、まとめ役の人たちは主にビットコイン、ギフトカード、アマゾンのアフィリエイト報酬、プライバシーを重視したブラウザーのブレイブ(Brave)を通じた寄付を利用していた。
香港フリー・プレス(Hong Kong Free Press)は、ビットペイ(Bitpay)から苦戦して資金を引き出した後、オープンソース決済処理業者のBTCペイ(BTCPay)に移行し、わずか数週間で約2ビットコインを調達した。
資金は、最後に残った自由なメディア組織の1つである香港フリー・プレスの運営にすぐに必要ではなかったため、スパーク・アライアンスと同じ境遇となることを避けるために法定通貨には交換されなかった。
翻訳すると「香港魔法学校」という名前になる抗議者用のテレグラム(Telegram)のチャンネルも、3万人のフォローワーにビットコインを使ってアマゾンでマスクを買う方法や、香港でのビットコイン売買の方法を教えながら、ビットコインで資金を調達した。
ビットコインの可能性
今回の危機の間には、香港からの資金流出が広く予想されていた。特に、危機の発端である逃亡犯条例の改正案は同時に、資産を中国本土からの要請で簡単に凍結することを可能にするものでもあったためだ。だが今回、ビットコインが何らかの役割を果たした証拠はない。
資金コントロールが存在しないシステムにおいては、銀行での電信送金が、資金を海外に送る最も簡単な方法であり続ける。有名な投機家カイル・バス(Kyle Bass)氏を含む一部の人たちは、香港ドルの米ドルとの連動が崩壊すると予想したが、交換比率は安定を保った。
現金は香港の抗議者にとって、今も匿名性を保つための最も有用なツールとなっている。ほとんどの取引は現実世界で起こり、現金は幅広く使われ続けている。
だが抗議者が直面した問題のほとんどは、いずれにせよ金融的なものではない。より差し迫った問題は、法的サポートが受けられるか、オンライン・メッセージングプラットフォームでの匿名性、集会での逮捕や自宅での嫌がらせをどのように回避するかだ。
2019年、通常はきわめて信頼性の高い行政サービス、信頼できる司法制度、評判の高い金融システムを抱えた香港は、現代の豊かな社会において前例のない規模でその制度への信頼を失った。
今後数年にわたって企業や個人はその波及効果を感じることになり、香港が築いてきた信頼の多くは再建が難しいだろう。
仮想通貨はこれまで、わずかな役割しか果たしていない。だが仮想通貨を味方につけることができた人たちは、うまくやっている。
翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:Studio Incendo, Flickr
原文:With Freedom at Stake, More Hongkongers See Bitcoin’s Unique Value