本稿の筆者であるタンビ・ラトナ(Tanvi Ratna)氏は、ポリシー4.0(Policy 4.0)の創業者兼CEOで、ブロックチェーン構想においてインドの政治家と活発に協働している。ラトナ氏はかつて、EYインド(EY India)でブロックチェーン担当責任者、ニュー・アメリカ・ファウンデーション(New America Foundation)で仮想通貨規制のフェローを務めた経験を持つ。
インドの中央銀行にあたるインド準備銀行(Reserve Bank of India)が金融機関に課した、仮想通貨関連企業に対する銀行サービスの提供禁止について、2020年3月6日(現地時間)にインドの最高裁判所が違憲と判断した際、業界関係者たちからは歓声が上がった。しかし、この決定は最終的なものではなく、判決の文言には複数の危険信号が埋め込まれていた。
さらに、2019年2月28日(現地時間)に発表された仮想通貨禁止の法案も、議会を通過する可能性がある。筆者が以前に分析したところでは、部分的な裁判での勝利と、法案が前進する可能性とを合わせると、インドにおける仮想通貨の法的な立場は脆弱なままである。
ただし書き
180ページに及ぶ判決を検討すると、判決の根拠は、業界が憶測したものとは一致していない。
突き詰めると、判決全体はインド憲法における基本的権利の1つの違反にかかっている。いかなる職業をも営む自由を保障する第19条1項の(g)だ。最高裁は、準備銀行による方策は、仮想通貨取引所にとって第19条1項の(g)を犯すものであり、禁止という手段は脅威に見合わないと結論づけた。判決はさらに、準備銀行が脅威を経験的なデータで実証したり、代替的な方策をしっかりと検証しなかったと結論づけた。
しかし、最高裁が仮想通貨業界を支持した根拠の1つは、「仮想通貨を禁止する法律がまだない」ことであり、そのような法律が成立すれば、この判決は通用しなくなるだろう。
最高裁はさらに、仮想通貨をブロックチェーン技術の「副産物」と呼び、政府は2つを区別するべきと主張した。このブロックチェーンと仮想通貨の分離という繰り返される主張は、これまでの大半の連邦政策を支える根拠となっている。
業界は厳しい戦いに勝利し、似たような後手後手の禁止策を再び見ることはないと考えて良い。しかし、立法府における反応の時は迫っており、立法が間もなく動く可能性もある。しかし準備銀行は、仮想通貨による金融リスクを示す信じるに足る証拠を集めた場合にのみ、上訴を成功させることができる。
ポジティブな兆候
金融規制当局や議員らの管轄の外では、インドでのブロックチェーンに対するより進歩的なアプローチを求める多くの声が政府内から上がっている。
ITを担当する連邦省は最近、ブロックチェーンのための国家戦略草案(Draft National Strategy for Blockchain)を発表した。このレポートは例えばデータの収益化など、ブロックチェーンのより進んだ有用性を検討しており、インドでブロックチェーン人材の国際的開発者ハブを構築することを勧めている。驚くべきことに、このレポートは政策的措置に対して批判的であり、「政府内でのブロックチェーンに対する認識は非常に乏しく、規制上の明確さの欠如」がこの分野における投資への1番の障害だと公に主張している。
多くの州政府、特にITセクターやスタートアップが強力な州の政府は、ブロックチェーンエコシステムの構築を活発に試みてきた。インドのシリコンバレーであるバンガローを擁するカルナータカ州は、パイロットプログラムの構築を熱心に目指している。見込みのあるアイディアを実行に移す計画で、州政府によるインド最大級のブロックチェーン・ハッカソンも行われた。すべての活動は、準備銀行による禁止の通達後に凍結され、カルナータカ州は連邦政府に働きかけを行った。
ハイデラバードのあるテランガナ州では、あるエリア全域を「ブロックチェーン地区」に指定し、ブロックチェーンスタートアップ向けのインフラを整備した。タミル・ナードゥ州は、eガバナンスにおける野心的なブロックチェーンの枠組みを発表したが、こちらは1000万人の市民を対象とした世界最大級のプロジェクトとなる可能性がある。これらの州はすべて、内部の経路を通じて連邦政府と規制について対話を行なっている。
結論としては、今回の最高裁の判決を受けても、仮想通貨の将来にはいまだに暗雲が立ち込めたままである。両方の立場の意見を伴って、インド国内の様々なレベルにおける政治家の間で複雑な駆け引きが展開中である。
翻訳:山口晶子
編集:T. Minamoto
写真:Shutterstock
原文:The Dangerous Truth About India’s Cryptocurrency Verdict