直近のビットコインの下落に多くの投資家は不意を突かれた。だが、ビットコインマイナーの懸念を示していた主要な指標は、数週間前に警告を発していた。
マイナーは在庫を蓄積していた
ビットコインマイナーが保有する在庫水準の変化を測るために仮想通貨市場データ企業バイトツリー(ByteTree)が生み出した、マイナーのローリングインベントリー(Miner’s Rolling Inventory:MRI)は1月、100%を下回ったままで、同月の30%の価格上昇における自信の欠如を示唆していた。
100超のMRIは、マイナーがマイニングするよりも多くのビットコインを売り、在庫を消費していることを意味する。
一方、100未満のMRIは在庫の蓄積──つまりマイニングよりも売りが少なく、在庫を増やしていることを意味する。
一般的な見解では、売り手は常に高値で販売する。すなわち、一部の投資家は100未満のMRIを、マイナーが価格上昇を期待し、あとで高い価格で現金化するために在庫を蓄積しているサインと考えるだろう。
マイナーの懸念
だがマイナーは現金で事業を運用し、市場においては一貫して、運用コストをカバーするためにマイニング報酬を現金化している売り手であるとアトランティック・ハウス(Atlantic House)のファンドマネージャーでバイトツリーの創業者、チャーリー・モリス(Charlie Morris)氏は指摘した。
100未満のMRIは必ずしも価格上昇を示すものではなく、市場はビットコインを売りに出すには軟調すぎるというマイナーの懸念を示している。一方、100超のMRIは、マイナーの売り圧力を吸収できる強力な市場を反映している。
79%という1月のMRIは、過去2年で最低水準であり、本質的に「強気の罠」が待ち受けているという警告だった。ビットコインは2月中旬に1万500ドルで頭打ちとなり、以来、3月はじめに上昇を見せたものの、全般的には下落傾向となっている。
ブロックチェーン監視企業チェイナリシス(Chainalysis)によると、マイナーは1月、5万3955ビットコインを生み出し、4万2451ビットコインを取引所に送った。MRIは前述したとおり、79%となった。
モリス氏によると歴史的に、マイナーがマイニングよりも少なく売った時は利益は少なく、マイナーがマイニングした時よりも多く売った時は利益は好調だ。
別の言い方をすると、マイナーは弱気相場の間に在庫を蓄え、強気相場の間に在庫を消費する傾向がある。
中央銀行との比較
在庫の蓄積を弱気シグナルと見ることは直感に反するように思えるかもしれないが、伝統的な金融システムからの類推が役に立つ。
借金を抱える国の中央銀行は、外貨準備金(通常は米ドル)を用意するために短期資金の流入に依存する。例えばインド準備銀行(Reserve Bank of India)は、インドルピー高の傾向が見られる時にスポット市場で米ドルを買う。
ルピーが下落している時にドルを買うことは、ルピーへの下落圧力を強めることになるだけであり、リスクが高い。
同様に、マイナーも市場がマイナーの売りを吸収する力に欠けると感じている時は在庫を蓄積して売りを避ける。弱気市場での売りはさらなる下落につながり、かえって採算性を損なうことになる。
市場に影響を及ぼすマイナー
市場の他のどのグループと比べても、マイナーは価格に対して最も大きな影響を持っている。例えばマイニングプールは、取引所へのビットコインの総流入量のうち、最も高い割合を占めている。
1月時点で、取引所が受け取ったビットコインの4分の1以上がマイニングプールからだった。一方、ホストされたウォレットや商業サービス──支払いゲートウェイあるいは処理業者──はわずか10%強だった。
そのためマイナーは、保有するビットコインを売る際には特に気をつけなくてはならない。マイナーの行動は大規模な急落につながる可能性があるからだ。
そうした事態はが起きたのは、2019年第3四半期に1万4000ドルから8000ドルへのビットコイン価格の下落によって損失に直面したマイナーが、続く第4四半期に保有するビットコインを売り始めた時だったとアダプティブ・キャピタル(Adaptive Capital)のアナリスト、ウィリー・ウー(Willy Woo)氏は指摘した。これにより、12月中旬までに価格は6500ドルまで大きく下落した。
マイニングプール、プーリン(Pooling)のデータによると、現状では、アントマイナーS9(AntMiner S9)やアバロン851(Avalon 851)といった幅広く使われているマイニングコンピューターはすでに、日々の利益を生み出すことに苦戦している。
下落が続けば、小規模で非効率なマイナーは損失を抑えるために、運営をやめ、保有するビットコインを売ることになるかもしれない。
最前線からの見解
だが、一部のマイナーはまだ将来のビットコイン価格について楽観的で、5月に予定される半減期を前に平然としている。
「中長期的に、価格について非常にポジティブな見方をしている」と中国の仮想通貨マイニング企業パンダマイナー(PandaMiner)のチーフ・エグゼクティブ、シャオ・ヤン(Xiao Yang)氏はインタビューで語った。
「短期的なボラティリティにもかかわらず、市場の需要は比較的高い水準になると我々は期待している。一方、供給サイドから見ればビットコイン・マイニングはより困難になっていく」
ビットコイン価格が急激に下落した場合、一部のマイナーは現金の代わりにビットコインを担保にするためにレンディング・プラットフォームに頼ることを検討することになる。
ヤン氏によると、それは最近の低い市場価格によって痛手を受けていたキャッシュフローの維持に役立つ。またこの動きはマイナーが現金不足に陥った際に、低価格でビットコインを売ることを強いられる必要がなくなる可能性を意味する。
低価格のほかにも、急速に上昇するハッシュレートはマイナーがビットコインを保有することをさらに困難にしている。つまり、レンディングプラットフォームからさらに借りる必要があるとヤン氏は付け加えた。
btc.comによると、ビットコインのマイニング難易度の成長率は現在6.88%で、2月25日のマイナス0.38%から上昇している。
ヤン氏は、マイニング業界が全般的に将来のビットコイン価格について自信を持っていることを示すもうひとつの現象は、ビットメイン(Bitmain)やカナン・クリエイティブ(Canaan Creative)などが宣伝する新しいマイニング・コンピュータだと述べた。
ビットメインは3月10日、最新マシンのS19を発表、一方、ワッツマイナー(Whatsminer)も4月に新製品をローンチする予定だ。
ヤン氏によると、マイナーはアメリカの株式市場の急落と相関関係を持ったビットコイン価格の下落を市場における一時的な変化と考えている。
「我々はまだ、長期的価格上昇に焦点を当てており、短期的な市場動向はあまり心配していない」とヤン氏は述べた。
翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:Shutterstock
原文:Bitcoin’s Plunge Was Foreshadowed by Miner Inventory Data