「ロックダウンのような事態を招けば、わが国の経済にさらに甚大な影響を及ぼす」──安部晋三首相は3月27日、参議院予算委員会でこう発言した。
新型コロナウイルスの感染拡大で、経済活動が世界規模でストールするなか、すでにその成長が事実上止まった日本経済に重くのしかかる。
日本は中国やヨーロッパ諸国とは異なり、政府が「緊急事態」を宣言した場合、外出の自粛要請や、公共施設などの利用停止を指示できるが、罰則をともなう拘束力とまでには至らないといわれる。
日本のGDPの3割以上を稼ぐ東京・首都圏が、仮にロックダウン(都市封鎖)されたら、国内経済へのインパクトは、いったいどれほどのものになるのか?JPモルガン証券チーフエコノミスト・鵜飼博史氏率いる経済調査チームは、想定するそのシナリオを分析、レポートにまとめた。
GDPの3割を稼ぐ東京・首都圏
東京がロックダウンすれば、首都圏全体がロックダウンされるのとほぼ等しいインパクトをもたらす。それが仮に4月の1カ月続いた場合、日本の実質GDPは2020年4月~6月期、前期比・年率ベースで追加的に10%減少し、17%縮小すると予測される。しかし、このシナリオは、ロックダウンが4月の1カ月のみで、6月には正常化することを前提に置く(レポート)。
首都圏は日本のGDPの33.1%を占める。同エコノミストらは、ロックダウンされた首都圏において、在宅勤務を迫られる企業のシェアは付加価値ベースで74%と想定。その中で、在宅勤務で対応できない企業が存在する分だけ、創出される付加価値が減少するという。輸送や金融、小売りは業務の性格上、在宅勤務は難しいため、対象から除外される扱いとみなしている。
さらなるシナリオとして、日本ではロックダウンが強い拘束力を伴わないだけに経済への影響に不確実性があるとしつつ、ロックダウンが首都圏にとどまらなければ、経済への影響はより深刻なものになると見ている。
例えば、日本で2番目に大きい経済圏の「大阪経済圏」が、仮にロックダウンされるとなれば、東京・首都圏のGDP シェア33.1%に加えて、13.5%分のシェアの経済圏にもマイナスの影響が及ぶことを考えなければならない。
2019年終わりに縮小を始めた国内経済
日本経済は2019年終わりに、既に厳しい現実を突きつけられた。2019年10月~12月期の実質GDPは前期比で6%以上(年率ベースで7.1%の縮小)も減り、5四半期ぶりにマイナス成長に陥った。
東京がロックダウンされ、大阪経済圏が追随するような状況に陥れば、企業や家計の所得は下押しされる。企業は厳しい資金繰りを強いられる。安倍政権は新たな経済対策を議論しており、当面の所得補填や資金繰り逼迫(ひっぱく)の緩和には有効だろうが、日本経済の大きなピクチャーを変えるほどのインパクトは持たないだろうと、鵜飼氏は言う。
「2020年下半期の回復が緩やかなものにとどまり、新型コロナウイルス(感染拡大)が下期には封じ込められると想定しても、元々想定していた水準に戻ることはないと考えている」
緊急事態宣言が出た場合、東京の対応は? ── 小池都知事が会見
小池百合子・東京都知事は4月3日午後、国の緊急事態宣言が出された場合の都の緊急対応について説明した。都民に外出の自粛を要請するとともに、イベント事業者などに施設の使用制限・停止を求める可能性を述べた。
都知事は「感染拡大における重大局面は変わっていない」とした上で、「密閉・密集・密接を避ける行動をお願いしたい」と話す。夜の飲食店での集団感染が拡大している事例をあげ、歓楽街への外出自粛の重要性を訴えた。
また、小池氏は、知事自身が状況を伝えるライブ動画を発信していくと加えた。新型コロナウイルスの感染者数と死者数が増え続けるニューヨーク州では、アンドリュー・クオモ州知事がすでに連日、メディアを活用して州民に状況を説明しながら、勇気づけるメッセージを送り続けている。
懸念が高まる強まる大阪経済圏
日曜日の5日、東京都は感染者が新たに143人確認されたと発表。2日連続で、1日あたりの感染者確認数が100人を超え、累計で1000人を上回った。大阪府でも同日、1日としては最も多い41人が感染していることが確認された。
福岡市の高島宗一郎市長は3日に、同市が「感染拡大警戒地域」に移行しつつあると述べていたが、5日には新たに13人の感染者を確認したと発表。福岡市内での感染者は計94人となった。
NHKによると、5日に確認された全国の感染者は308人。日本で同日までに確認された感染者は、計3806人(クルーズ船の乗客乗員を含めると4515人)となった。
文:佐藤茂
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