国際決済銀行(Bank for International Settlements:BIS)の研究者らは、コロナ危機が電子決済の普及を加速させ、中央銀行デジタル通貨(CBDC)に関する議論を促進し得ると考えている。
BISによる4月3日(現地時間)付広報の中で研究者らは、紙幣を通じたコロナウイルス感染の可能性は比較的低いという科学者たちの見解をよそに、COVID-19によって現金と一般の人々との関係が変容していると主張した。
「懸念が正当かどうかに関係なく、現金が病原菌を拡散させ得るという認識は、人々や企業の支払い行動を変える可能性がある」と研究者らは述べる。
コロナが去った後、まず各国はよりオンラインで、モバイルな、非接触の手段により、電子決済インフラを拡張する可能性がある。しかしデジタル化の動きは、数多の高齢者と銀行を利用していない層に「特に深刻な影響」を与えかねない。
「現金が決済手段として一般的に受け入れられなくなれば、電子決済へのアクセスを持つ者と持たない者の間に『支払いの格差』が生じかねない」と研究者らは述べる。そのため現金は返り咲く可能性もあるが、今回のパンデミックは「中央銀行デジタル通貨(CBDC)をも要求している。」
現金の段階的廃止
CBDCであれば、電子決済に対する社会のニーズと、それに簡単にアクセスできない者たちに対する責任を、両立させることができる。しかし、その際、いくつかの注意点がある。中央銀行は、支払いを非接触型で普遍的にアクセス可能なものとすることにより「目の前の危機に即した形で」CBDCを設計しなければならないと、研究者らは指摘する。
「そのためパンデミックにより、CBDCを求める声はさらに具体化され、多様な支払い手段が可能となることの価値、そして支払いの手段はあらゆる脅威に耐え得る必要があることを浮き彫りにした」と研究者らは述べた。
事実、一部の政治家はすでに、研究者らの予測が正しいことを証明している。アルゼンチンのチャコ州知事を務めるホルヘ・キャピタニッチ(Jorge Capitanich)氏は4月1日、アルベルト・フェルナンデス(Alberto Fernández)大統領とのコロナウイルスに関する電話会議の中で、現金を段階的に廃止する「デジタル通貨による取引システム」の必要性を訴えた。
この件に関してキャピタニッチ州知事にコメントを求めたが、回答は得られなかった。
中央銀行の運用によるデジタル通貨システムについて説明する文言が、シェロッド・ブラウン(Shrrod Brown)米上院議員の提出によるものをはじめ、3件の法案に見られた後、デジタル・ドルという考えは、アメリカでも幾度となく登場した。
国によって異なる現金への対応
研究者らは今回、ウイルスの大流行が現金の利用に影響を与えているかについても検証している。
「COVID-19のパンデミックは、現金を通じたウイルスの伝染に関する、一般市民による前代未聞の懸念につながった」と研究者らは記した。
国が違えば、怖がり方もしばしば異なることを研究者らは突き止めている。現金の流通はアメリカで急増した一方、イギリスではATMからの引き出し額が急落した。紙幣を消毒する中央銀行もあれば、小売店に現金拒否を止めるよう要請したり、国民に恐怖心よりも科学を優先するよう求めた中央銀行もある。
しかし、アメリカ、イギリス、オーストラリアなど、少額紙幣のある国が、最も恐怖を感じているようだと、研究者らは指摘する。紙幣による伝染に関してネット検索が行われる頻度を30日間で比較したところ、高額紙幣のみの国よりも高い平均値となっていることが分かった。
翻訳:山口晶子
編集:T. Minamoto
写真:Myra Thompson / Shutterstock
原文:BIS Researchers Say Coronavirus Could Spur Central Banks to Adopt Digital Payments