中国がブロックチェーンに真剣な3つの理由──4大銀行が作るリープフロッグ経済の金融基盤【マネックス報告書】

中国は保険、サプライチェーン・ファイナンスなど金融分野でブロックチェーンの活用が進んでいる国だ。世界の中央銀行の中でも、中国人民銀行は中銀デジタル通貨についての研究・開発に積極的といえる。

マネックスクリプトバンクが発表したレポート「中国におけるブロックチェーン動向と将来予測(2020)」は中国の状況について、ブロックチェーンが浸透している3つの理由を挙げ、「日本が学ぶべきものを有している」とも評価した。全98ページのレポートの内容とは。

中国でブロックチェーンが浸透している3つの理由

レポートは、ブロックチェーンが中国で広く社会課題の解決に役立っていると指摘。金融、保険、知的財産、物流、貿易、医療などの分野で、既にビジネスにブロックチェーンが使われている現状を指摘した。

そこまで進んでいる理由を3つ挙げている。一つ目は、政府が企業とともに社会インフラを構築しようとしていること。二つ目が、既存のシステムが不完全であること。たとえば米国や日本では、すでに既存の金融システムが運用されており、新技術を採用するメリットは少ないが、中国は金融システムが未熟で、その改善のため新しい技術の導入に積極的だとレポートは指摘している。

三つ目の理由は、国内の経済格差だ。上海や北京などの都市部の発展は目覚ましい一方で、農村部は発展途上。その農村部のデータの収集や地域間格差の是正のため、新技術の運用が試みられるというわけだ。

このような新たな技術の導入は、リープフロッグとも呼ばれる急激な成長の基盤になってきた。すでに社会・経済システムが出来上がっている先進国は、徐々に改善していく選択肢を選びやすいが、まだシステムが出来上がっていない国では、カエルが跳ぶように一段階先のシステムを構築しやすい。

金融ですすむブロックチェーンの採用

リープフロッグ型の成長の一つとして、中国では銀行や保険など、金融面でブロックチェーンの活用が進んでいる。レポートでも、中国の4大商業銀行を中心にいくつかの事例を挙げた。

まず中国建設銀行は、ブロックチェーンを活用した国際ファクタリングをしている。同行の国内外の支店や他企業40社の間で、貿易取引の請求書情報を共有管理しているという。また中国農業銀行は、ブロックチェーンを用いた融資システムを用いて、地方農家向けに住宅ローンを提供。中国工商銀行も、ブロックチェーンを活用したサプライチェーンファイナンスを管理し、中小小売企業の資金繰りを支援している。

ブロックチェーンを金融に活用しているのは銀行だけではない。アリババ・グループは、ブロックチェーンを活用したオンライン保険の「相互宝」を提供。その仕組みは、加入が無料で、加入者が病気になったとき、加入者全体で保険金を分担するというもの。ブロックチェーンは、契約者情報や請求データを共有管理し、不正を防止するために用いられているほか、保険金支払いも自動化できるというメリットもある。

中国のCBDCは「ブロックチェーンではない」

中国は中央銀行デジタル通貨(CBDC)に積極的な国の一つだ。中国の中央銀行である中国人民銀行は2014年から研究チームを発足、早くから検討を開始してきた。2019年には、DC/EP(デジタル通貨電子決済、Digital Currency/Electronic Payment)と名付け、設計や機能開発を終えたと発表している。

レポートによれば、DC/EPの目的は人民元の代替ではなく、紙幣としての人民元の流通を置換することだという。商業銀行を経由した2層構造で流通させ、ネットにつながっていない環境下でも使える仕組みという。

さらにレポートは、「DC/EPは、P2P分散型ネットワークを採用しないという点で、ブロックチェーンではない」と指摘した。一般にブロックチェーンは、P2Pネットワークでデータを共有するが、その仕組みは使わないという。

ただしブロックチェーンと無関係というわけではなく、「ブロックチェーンに関する開発能力が必要であることは明白」とも述べた。暗号化技術やUTXO(未使用トランザクションアウトプット、ビットコインにも用いられる残高管理の仕組み)の点で、関連する技術を用いているからだ。

レポートは4章で、販売中

レポートは4章で構成され、中国ブロックチェーン市場の分析、企業や政府の取り組みなどについて網羅的にまとめている。マネックスクリプトバンクが提供するデータサービス「LOOKBLOCK」に加入しているユーザーは無料で読めるほか、5万円(税別)で販売している。

文:小西雄志
編集:濱田 優
写真:Shutterstock