「これがまさにビットコインが作られた理由」と、仮想通貨に特化した投資企業ギャラクシー・デジタル(Galaxy Digital)のマイケル・ノヴォグラッツ(Michael Novogratz)CEOは先週、CNBCに語った。
以下はビットコイン強気派が最近よく繰り返している発言だ。
米ドルや他の通貨は、政府や中央銀行による新型コロナウイルス関連の支援策や金融刺激策での数兆ドル規模の資金供給によって最終的に価値が下がるだろう。これは理論的に、インフレに対するヘッジとしてのビットコインの論拠を強めるはずだ。
そうした予測はいつかは実現するかもしれない。だが、今のところビットコイン投資家は、膠着状態に陥っている。つまり、日本時間7日17時時点でビットコインは7300ドルを超えている。だがこの数週間、7000ドルを維持することに苦戦しており、3月初旬以来、その水準を超えて安定して取引されていない。
「安値からの素晴らしい回復は、投資家に期待を与える」と仮想通貨分析企業アーケーン・リサーチ(Arcane Research)は4月3日、レポートで述べた。
「しかし、これはまだ市場心理に反映されていない」
1000万件の失業保険申請
財政・通貨刺激策に起因するインフレは、発生までにしばらく時間がかかる可能性がある──その理由の1つは、高い失業率と経済需要の低迷が、短期的には消費者物価に対する上昇圧力を緩和する可能性があるからだ。
アメリカだけで、3月の最後の2週間に約1000万件の新たな失業保険申請が行われた。そしてJPモルガンのエコノミストは、今週の報告によって、先週、新たに700万件の申請が明らかになると予測している。
バンク・オブ・アメリカは、ウイルスの拡大を抑える効果的な政策の欠如によって、2020年の世界の成長率は、0.3%のプラス成長から、2.7%のマイナス成長になるだろうと述べた。
キャッスル・アイランド・ベンチャーズ(Castle Island Ventures)のパートナーで、ブロックチェーン分析スタートアップ、コインメトリックス(CoinMetrics)の共同創業者のニック・カーター(Nic Carter)氏は、先週CoinDeskの記事に、通貨の価値の引き下げは「すぐには起こらず、時間の経過とともに起こる」と記した。
2008年の金融危機は、FRB(連邦準備制度理事会)の資産をわずか数週間で倍増させた。そしてその後の数年間で、資産は再び倍増し、4兆ドルを超えた。しかし、通貨供給量M2(現金通貨+預金通貨+準通貨+CD[譲渡性預金])が2倍になるまでには12年以上かかった。その理由は少なくとも一部には、危機後の数年間はローン需要が低かったことにあった。
量的緩和への反応
FRBの実質的に無制限の量的緩和の発表に対する、ビットコイン市場のこれまでの熱意に欠ける反応は、迅速な上昇を期待した一部のビットコイナーを失望させたかもしれない。
「In Bitcoin We Trust」というブログを運営しているシルバイン・サウレル(Sylvain Saurel)氏は先週、銀行の準備金要件を減らす規制当局による別の動きは、「無限の」新しいマネー創出につながる可能性があると述べた。
「これほどの短期間での前例のない通貨の価値の切り下げは、FRBが完全に恣意的な方法で決定した」とサウレル氏は記した。同氏の結論は本質的に、人々はビットコインを買うべきというものだ。
仮想通貨取引所オーケーエックス(OKEx)のジェイ・ハオ(Jay Hao)CEOは先週、ブログに「無制限の量的緩和」以外の「より積極的な措置」が必要と記した。これには、国際金融における米ドルの支配的な役割によって生み出された貿易と経済の不均衡に対処するための、新たな「超主権通貨」も含まれるかもしれない。
「現在のところ、ビットコインは超主権通貨の特徴を持っている」とハオ氏は記した。
また、ビットコインは米ドルよりも「より強固な」通貨であるという投資ストーリーは、5月に予定される「半減期」によってさらに勢いを増している。
トレーダーは今週、ビットコインから分岐して生まれた2つのコイン、ビットコインSV(BSV)とビットコイン・キャッシュ(BCH)の価格が、それぞれ4年に1度の半減期を経て、どのように推移するかを観察できるチャンスを得る。
ゴールドとの相関関係
一部のアナリストは先月、ビットコインは米株式と同期して取引されていると述べた。これは、一部の投資家が安全資産、つまり米ドルへの無差別な逃避の一環として、ビットコインを売っているサインと捉えられた。
デジタル資産取引所スマート・バラー(Smart Valor)のCEOで、自称「完全なビットコイン至上主義者」のオルガ・フェルドマイアー(Olga Feldmeier)氏は、今回のビットコイン価格の急落は、ビットコインは市場の混乱時に安全資産として機能するという希望を損なったと語った。
同氏はその代わりに、長年、インフレに対する信頼できるヘッジと考えられてきたゴールドへの仮想通貨フレンドリーな投資方法を提供する「トークン化されたゴールド」、例えばパックス・ゴールド(PAXG)のようなデジタルトークンを勧めた。
仮想通貨取引所クラーケン(Kraken)は4月4日のブログで、同社プラットフォームで取引されたパックス・ゴールドの取引高が3月、2月のレベルから6倍となる1300万ドルに急増したと記した。
「クラーケンの顧客は、パックス・ゴールドを最新の安全資産と見ているようだ。その理由はゴールドに裏付けられているためで、ゴールドは通常、経済的に不確実な時に安全資産として機能する」
しかし、ビットコインはここ数週間、よりゴールドのように取引されているかもしれないことを示す指標も存在する。
ビットコイン信託を適格機関投資家に提供する資産運用企業ヴァンエック(VanEck)は、ビットコイン価格のゴールドの相関関係は、過去8年間の平均0.03から、3月の最後の数週間には0.47まで大幅に上昇したと述べた(相関関係は、1が完全な一致を意味する)。
パンデミックからの回復
アメリカがパンデミックによる医療危機という最悪の事態に苦しみ、経済回復の段階へと移行するなか、今後数カ月はビットコインにとって極めて重要になるかもしれない。
ナンシー・ペロシ米下院議長は先週、可決された2兆ドルの支援策では十分ではないとCNBCに語った。スティーブン・ムニューシン米財務長官は、中小企業向けに準備している3500億ドルの資金が底をついた場合、議会にさらなる資金を要求すると述べた。
「より多くのバズーカが必要」とウォール街の金融機関ジェフェリーズ(Jedderies)の幹部は4月3日、顧客や同僚に宛てた公開書簡に記した。
ビットコインは真のデジタルゴールドか? より多くの金融「バズーカ」が展開されるにしたがって、仮想通貨市場は実験場となるだろう。
「多くのビットコイン支持者は、ビットコインは、ゴールドよりも優れた長期的な価値の保存手段であることが証明されると考えている」とクラーケンのブログ記事は述べた。
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ビットコインの値動き
ビットコインは、週末に6600ドルへの引き戻しによる需要の低下を試した後、再び7000ドル超の強力な足場を確立しようとしている(日本時間7日17時時点で、7300ドル超で取引されている)。
強気の動きは、ここ3週間にわたって繰り返し、7000ドルを超える上昇を維持できず、投資家は3月19日の安値3867ドルからの回復の持続可能性を疑問視せざるを得なくなっている。
そうだとしても、4月2日に確認されたペナント型のブレークアウトはまだ健在なため、バイアスは強気のままだ。結果としてビットコインは、現在は7522ドルの下降傾向の50日平均が試されるのを待っている状態が続いている。
仮に7000ドルの抵抗線を超えることが再び短期で終わったとすれば、直近の強気の見通しは中立化される。価格が週末の安値6610ドルの支持線を割ることがあれば、バイアスは弱気に転換する。
そうなれば、3月30日に記録された高めの安値5856ドルへの扉が開くことになる。
翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:Shutterstock/Bjoern Wylezich
原文:First Mover: Trillions in Coronavirus Stimulus Bring Out the Bitcoin Bulls