企業が政府のデジタル通貨構想に参画する未来:イングランド銀行・アナリストの予測

イングランド銀行は、民間企業による暗号資産(仮想通貨)はお金の未来において、一定の役割を果たし得るとの見解を示した。

民間のデジタル通貨の可能性

4月7日に行われたオンラインセミナーで、イギリスの中央銀行デジタル通貨(CBDC)に取り組んでいるイングランド銀行のアナリストは、デジタル通貨の発行と流通において民間企業がかなり大きな役割を担う可能性があると述べた。

イングランド銀行はすでに、ビットコインなどの暗号資産(仮想通貨)はお金と見なされるために必要な基準を満たしていないと述べている。だが、CBDCアナリストのベン・ダイソン(Ben Dyson)氏は「そのことは、誰かがそのテクノロジーを改善し、お金の性質をはるかに満たす何かを作ることは不可能という意味ではない」と述べた。

「例えば、この1年で大手テック企業から、決済システムや、より安定したお金として機能する可能性のある暗号資産の構築について、数々の提案があった」とダイソン氏は語った。

通貨システムに新たなリスクをもたらす可能性はあるが、民間によるデジタル通貨が真の有用性を提供するなら、将来のCBDCと並行して機能することはできるとダイソン氏は述べた。

ダイソン氏は、2019年6月に発表されたリブラ(Libra)プロジェクトには言及しなかったが、フェイスブック(Facebook)が主導する計画は、法定通貨バスケットに基づいたステーブルコインの開発だ。発表以来、リブラは世界中の規制当局と政治家から、大きな反発を受けている。

「これらの提案が、真のニーズ──既存の決済システムの弱点、既存の決済システムのサービスを受けることができていないユーザーカテゴリーなど──に対応するものなら、民間セクターに任せるだけでなく、そのニーズの一部への対応は公共セクターが担うかもしれない」

ステーブルコイン懐疑論

民間の暗号資産に関するイングランド銀行の見解は、具体的にフェイスブックのリブラや、より広範なテーマについて議論してきた他の中央銀行とは明確に異なっている。

2月、FRB(連邦準備制度理事会)のラエル・ブレイナード(Lael Brainard)理事は、CBDC研究の動機は、アメリカの規制の範囲外に存在する可能性がある、リブラのような民間の暗号資産に対抗するためと述べた。

中国は、リブラの発表によって「デジタル人民元」計画を加速させたと広く考えられている。

フランスとドイツの当局も、リブラへの反対を表明し、そうした取り組みは、自国では合法ですらない可能性があると述べた。

わずか1カ月ほど前には、カナダ中央銀行の総裁は、リブラのような潜在的脅威が成功しない限り、CBDCを発行する必要性はないと述べた。

イングランド銀行がリブラに対して、より融和的なアプローチを取ったのは今回が初めてではない。2019年8月、当時のマーク・カーニー(Mark Carney)総裁は、リブラは厳格に精査される必要はあるが、民間企業が独自のデジタル通貨を発行するというコンセプトは「魅力的」と述べた。

しかし、イングランド銀行のアナリストが7日のオンラインセミナーで強調した通り、CBDCを含むいかなる将来のデジタル通貨もデータプライバシー基準を遵守する必要がある。

「イングランド銀行にとって重要なことは、仮定の話だが、もしCBDCを発行するとしたら、プライバシーの権利を絶対に尊重すること」と、イングランド銀行のフィンテックディレクター、トム・マットン(Tom Mutton)氏は語った。

プライバシーに重点

ヨーロッパの多くの国々と同様にイギリスは、ユーザーに個人情報に対する所有権を与える一般データ保護規則(GDPR:General Data Protection Regulation:GDPR)を採用しており、これはEU離脱後も継続される。

プライバシーについて芳しくない歴史を持つフェイスブックのような企業は、ユーザーの個人データを利用する前にユーザーに許可を求めなければならない。

ケンブリッジ・アナリティカスキャンダルで評判が落ちたフェイスブックのような中央集権的な企業によって発行されるデジタル通貨に対して、イングランド銀行は将来のCBDCと同じプライバシー基準を適用する可能性は高い。

イギリスの議会委員会は以前、フェイスブックのプライバシーにまつわる過去を強調し、同社が数十億人ものユーザーの金融データを適切に保護できるかどうかについてリブラを調査する可能性があると述べた。

「CBDCは、これらの(データプライバシー)規則を遵守するように設計されなければならず、同時に我々は、CBDCのユーザーが、自らの決済におけるプライバシー、どのデータが、どういった条件で、誰と共有されるのかについて、確信できるようにしたい」とダイソン氏は4月7日に述べた。

「(CBDCが)完全に匿名になる可能性は低いが、我々はユーザーのプライバシーを尊重し、人々に自らのデータに対するコントロールを与えるようなものを設計したいと考えている」

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:Shutterstock
原文:Private Companies Could Play Role in Digital Currency Issuance, Bank of England Says