スタートアップがつまづく知財戦略14の課題──資⾦調達に有効な知財活⽤法は:特許庁

革新的な技術やアイデアを持ったスタートアップにとって悩みは尽きない。資金調達、優秀な人材確保……。こうした悩みをいかに解消し、ビジネスを立ち上げるかに専心するあまり、スタートアップ経営者が忘れられがちなのが「知財戦略」だ。

特許庁はスタートアップの知財戦略を支援するため、2018年度から知財に特化したアクセラレーションプログラム「IPAS」を実施。2年にわたる成果を「知財戦略⽀援から⾒えたスタートアップがつまずく14の課題とその対応策」としてまとめ、4月8日公表した。

25社にメンターを派遣、スタートアップが知財戦略を構築したIPAS

知的財産はIP(Intellectual Property)ともいわれ、知的活動によって生み出された、財産的な価値を持つアイデアや創作物のこと。デザインやキャラクターのようなものから、事業に関するノウハウなども含まれる。知財戦略は知的財産をいかに企業の事業活動の中で活用していくか、の指針であり考え方のことだ。

特許庁は「知財の保護・活⽤の戦略をもたないままに、商品の開発、リリースや他社との連携を進めてしまうと、技術やアイディアの流出、模倣品の出現、事業から期待ほどの利益が得られないなど、せっかくの知的財産をスタートアップの成⻑に結びつけることができない」と指摘している。

大企業であれば知財の部署、担当者を置くなどできるが、スタートアップではなかなか難しい。そこで特許庁が始めたのがIPAS(Intellectual Property Acceleration program for Startups、スタートアップのための知的財産アクセラレーションプログラム)だ。

IPASでは、2018、19年度の2年でスタートアップ25社に、ビジネスや知財専門家をメンターとして派遣。スタートアップ経営者と一緒になってそれぞれのビジネスにあった知財戦略の構築をしてきた。18、19年度の参加スタートアップは、MDR(大規模量子コンピューティグを簡単に実行できるクラウド及びアプリ環境の開発・提供)やエイシング(独自AIアルゴリズムの研究開発)、LeapMind(極小量子化ディープラーニング)などだった。

そこで得られた知見をまとめたのが、今回発表された「知財戦略⽀援から⾒えたスタートアップがつまずく14の課題とその対応策」だ。

「共同研究成果の権利の帰属は?」「アルゴリズムなどソフト知財の活用は?」など14の課題

「知財戦略⽀援から⾒えたスタートアップがつまずく14の課題とその対応策」で挙げられた課題はこの通りだ。

課題1 事業の絞り込み・優先順位付けが難しい
課題2 自社の製品/サービスの顧客への提供価値が不明瞭
課題3 有効なライセンスビジネスを描けない
課題4 資⾦調達に有効な知財の活⽤法がわからない
課題5 秘匿⼜は権利化の⾒極めがうまくできない
課題6 大学や共同研究の成果に関する権利の帰属が問題になる
課題7 アルゴリズム等のソフト面での知財活用が難しい
課題8 特許権による独占期間を⻑期化する戦略が不⼗分
課題9 既存の特許では自社のコア技術を⼗分に守り切れていない
課題10 自社技術に関連する特許調査の検討と対応方法
課題11 契約や利⽤規約の⽂⾔の検討が不⼗分
課題12 専⾨家に何を相談して良いのかわからない
課題13 社内で知財の情報が共有できていない
課題14 社内において、知財戦略の必要性を理解してもらえない

それぞれの課題について事例とポイントを説明。スタートアップ側が何を課題に感じ、メンターらがどういう対応をしたかを端的にまとめている。

たとえば課題4の「資⾦調達に有効な知財の活⽤法がわからない」の項目を見てみよう。これはすなわち、投資家に対して、自社の知財をどのようにアピールすれば資⾦調達に有効となるのかがわからないということ。スタートアップ側の悩みは、シリーズAの資⾦調達を検討していたが、知財に関してどのように投資家に説明するべきか、投資家はどのような点に着目しているのかなどがわからず、的を射たプレゼンテーション資料を作成できなかったという。そこで投資額が希望額に達しないことも考えたと報告されている。

メンターチームは、そのスタートアップは大学から特許の独占的ライセンスを受けていたが、「その特許だけではコア技術を守り切れていない」と考え、「大学から独占的なライセンスを受けていること」だけでなく、「知財に関する課題を認識しており、その課題に対する具体的な対応策も準備していること」を説明するよう助言したという。

2020年度も実施予定、スタートアップの募集は4月下旬以降

報告書は、IPASの⽀援実例に基づき、読者が理解しやすいようモデル化している。特許庁は「すべての課題と対応⽅法を網羅しているものではありませんが、スタートアップ、ビジネス専門家、知財専門家のみなさまの今後の知財戦略構築の一助となれば幸い」としている。最後に「ビジネスに連動した知財戦略の構築」「知財戦略を構築するタイミングを意識する」「専門家の積極的な活用」などを呼び掛けた。

IPASは2020年度も行われる予定で、スタートアップの募集は4月下旬以降となる見込みだ。

文・編集:濱田 優
画像:特許庁 IPAS