【國光宏尚】「ブロックチェーンの登場は歴史の必然」GAFAを倒す方法はあるか!?

2018年、スマートフォンゲームを開発・運営するgumi(グミ)はブロックチェーンと仮想通貨事業への参入を宣言し、同領域に特化した投資ファンドを設立、活発な活動を続けている。「仮想通貨とブロックチェーンの未来」をgumiの國光宏尚会長に聞いた。

國光宏尚(くにみつ・ひろなお)/gumi 代表取締役会長
2004年、カリフォルニアのサンタモニカカレッジを卒業後、株式会社アットムービーへ入社し、同年取締役に就任。映画やドラマのプロデュースを手掛ける一方で、様々なインターネット関係の新規事業を立ち上げる。2007年、株式会社gumiを創業し、代表取締役に就任。2015年、VR/AR関連のスタートアップを支援する100%子会社Tokyo XR Startups 株式会社を設立し、代表取締役に就任。2016年、主に北米のVR/AR企業への投資を目的としたVR FUND,L.P.のジェネラルパートナーとして運営に参画、また韓国にてSeoul XR Startups Co., Ltd.を設立し取締役に就任。2017年、北欧地域のVR/AR関連スタートアップを支援するNordic XR Startups Oy.を設立し、代表取締役に就任。2018年、gumi Cryptos匿名組合を組成し、仮想通貨・ブロックチェーン事業に参入。

仮想通貨バブルの崩壊で「とりあえず金儲けがしたいだけの人」は消えた

──すでに「仮想通貨バブルは崩壊した」と言われます。2000年のITバブルを経てインターネットが定着する現在までの最前線を見てきた國光さんは、仮想通貨バブルやブロックチェーンをどのように見ているのでしょうか?

たいていの人は、新しいテクノロジーが出てきたら短期的な可能性を過大評価し、中長期でできることを過小評価するものです。仮想通貨やブロックチェーンも「あんなこともできるし、こんなこともできる」という期待だけが過度に流布されていました。まともな研究開発をせず、マーケティングがうまいだけの人のところにお金が集まってしまった。

バブルかどうかの見分け方は簡単です。1980年代の日本の土地バブルは、いい土地もあれば悪い土地もあるなかで、全部の評価額が上がりました。ITバブルも仮想通貨バブルも同じで、全部が上がった。なんでもかんでも上がるのがバブルです。

2018年1月にコインチェックの不正流出(ハッキング)事件が起こり、仮想通貨バブルが一気に弾けました。直接的な原因はコインチェック事件だと思いますが、それだけとは言い切れません。仮想通貨やブロックチェーンが「あれもこれもできる」と期待されたにもかかわらず、実現できていることは少ない。仮想通貨バブルが弾けたのには「ビットコインもイーサリアムも、結局どこにも使われてないじゃないか」という幻滅もあったのだと思います。

「NASDAQ総合指数」の推移(Lalala666/Wikipedia)

完全に2000年のITバブルと同じです。かといって「あれもこれもできる」と期待されることが悪いかといえば、そうではありません。「世界中で作り手と買い手が直接つながれるようになって、中抜きがなくなる」というインターネットの理想は、その後にだいたい実現してきています。

──ITバブルが弾けたにもかかわらず、なぜインターネットの理想は実現したのでしょうか?

ITの起業家や投資家がインターネットの理想を愚直に追いかけて、バブル崩壊後も研究や開発を続けたからです。世界に名だたるネット企業は、むしろITバブル以後に登場しました。Googleが株式公開をしたのは2004年、Facebookの創業も同じ年です。Appleに創業者のスティーブ・ジョブズが戻り、スマートフォンの流れを決定づけたiPhoneを大成功させたのも、ITバブル以後の話です。

──仮想通貨やブロックチェーンは、まだ「これからだ」と。

その通りです。大事なのは、ブロックチェーンにとって「理想とは何か」「目指すべきビジョンは何か」です。一言で言えば、それは「トラストレスで自律的に動くディセントライズド(非中央集権)なネットワーク」です。トラストレスは「信頼のおける第三者を必要としない」という意味ですね。

ブロックチェーンは「価値のインターネット(Internet of Value)」とも評されます。その理想や本質は、この世界にとって必ずプラスになることだと確信しています。仮想通貨バブルの崩壊で「とりあえずお金儲けがしたいだけの人」は消えました。技術や市場を健全に発展させるためには、ある意味で必要なプロセスです。

仮想通貨バブル以後も、ブロックチェーンの理想を追いかける起業家や投資家は多くいます。「ブロックチェーンが世の中の役に立つカタチ」は近々見えてくると思います。そして、そのカタチが少しでも見えてくると「やっぱりブロックチェーンはすごかった」と理解が広がり、再び流れが復活していくのではないかと思っています。

中央集権化するAI(人工知能)、対抗手段はあるか?

──ブロックチェーンの理想を追っている起業家・投資家に共通項はありますか?

そもそもビットコインやブロックチェーンは「中央集権的なもの」に対する疑問から始まりました。ブロックチェーンの理想は「トラストレスで自律的に動く、ディセントラライズド(非中央集権)なネットワーク」ですから、 当然「中央集権」に対して問題意識を持っている人たちがたくさんいます。

現在、インターネットの世界は、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)のような一部のテックジャイアントがビッグデータを独占している状況です。スマートフォンはグーグルのAndroidとアップルのiOSで寡占化しており、アプリ収益の30%が彼らに取られます。それに抗う手段はなく、プラットフォーマーが収益を独占するかたちになっている。そうした過度な「中央集権」に対して、反発も生まれるわけです。

アメリカ西海岸のシリコンバレー周辺は、もともとは、それほどブロックチェーン領域で盛り上がっていたわけではありません。ところが、シリコンバレー周辺の若い人たちは、最近になりブロックチェーン領域に挑戦するようになりました。なぜか?

シリコンバレー(stellamc/Shutterstock)

かつてシリコンバレー周辺では、小さなスタートアップが投資を得て大きくなり、IPO(新規公開株)へ至るストーリーが共有されていました。ところが、GAFAの中央集権化があまりに進みすぎた結果、GAFAに買われるぐらいしか出口がなくなってきています。

しかも、ちょっと成功したスタートアップのビジネスモデルやサービスを、すぐにGAFAが真似をしてくるようになってきました。シリコンバレー周辺でさえ、かなり閉塞感が広がってきたのです。彼らが過度な「中央集権」に反発する気持ちはよくわかります。

──GAFAへの反発から、ブロックチェーンが盛り上がっている。

はい。私たちgumiは「グミ・クリプトス(gumi Cryptos)」という30億円規模のファンドを設立して、ブロックチェーン技術や暗号技術にフォーカスするスタートアップへの投資を始めました。現在9社に投資していますが、ほとんどはアメリカ西海岸の会社です。少し前までは、AI(Artificial Intelligence:人工知能)が注目されていましたが、今はブロックチェーンです。

AIは、ビッグデータを持つ一部のテックジャイアントが強い領域です。つまり、AIは中央集権をどんどん強めるテクノロジーとも言える。でも、ブロックチェーンならば「中央集権化」に対抗できます。だから多くの若い人たちがブロックチェーンに可能性を感じて始めているわけです。

私もブロックチェーン技術を使ったサービスにチャレンジします。2019年3月7日にリリースした「Finaice(フィナンシェ)」は、個人を「ヒーローカード」と呼ぶカードとしてトークン化し、それをファンが購入することで、新しいファン・エコノミーを創造するサービスです。今後も、ブロックチェーン技術の活用は広がるはずです。

ブロックチェーンが登場したのは歴史の必然

──なぜ今「中央集権化」の弊害が取りざたされるようになったのでしょうか?

そもそも歴史を紐解くと、中央集権と非中央集権は行き来してると思うのです。これはどっちがいい悪いというわけではなく、どちらも「過度な方向に行き過ぎると良くない」ということです。もともとインターネットは分散型のネットワークです。つまり、非中央集権的なものから始まっています。単に大きくなりすぎただけです。

インターネット以前の世界でも、同じように過度な中央集権から、それに対抗する非中央集権が登場するシーンが繰り返されてきました。その代表は、実はアップルです。

1984年、アップルがマッキントッシュを発売するときにつくった有名なCMがあります。ジョージ・オーウェルのSF小説『一九八四年』にインスピレーションを得たもので、全体主義的な世界で「ビッグブラザー」的な独裁者がスクリーン越しにみんなの前で演説している。そこに女性が走ってきてハンマーを投げ、スクリーンを破壊するという爽快なシーンが続きます。

そして画面が光に包まれて「アップルコンピューターはマッキントッシュを発売します。なぜ1984年が『一九八四年』のようにならないかがわかるでしょう(Apple Computer will introduce Macintosh. And you’ll see why 1984 won’t be like “1984”)」というコピーが出てくる。

当時、このCMの「ビッグブラザー」に相当するのは、コンピューター技術を独占していたIBMです。それに対して、アップル創業者のスティーブ・ジョブズが「コンピュータを民衆の手に」とパーソナルコンピューターを発売しました。インターネットの思想やアメリカ西海岸の文化にもつながるパワー・トゥ・ザ・ピープル(Power To The People:民衆に力を)」です。

その時代から30年以上が経ち、皮肉なことにアップルが「ビッグブラザー」の位置に君臨しています。このように、中央集権と非中央集権は行ったり来たりをしながら、バランスを取るものだと思います。過度に中央集権化したインターネットに対して、非中央集権のブロックチェーンが登場したのは歴史の必然なのです。

構成:中野慧
編集:久保田大海
写真:多田圭佑