ビットコインマイニングの歴史:PCからASICの台頭まで

ここ10年の間に、ビットコインマイニングマシンは、急速な技術的進歩を遂げた。

マイニングマシンは、ビットコインネットワークの成功を基本的に特長づけるものだ。なぜならこうしたマシンは、マイナーが行うことに採算性があるかどうかを左右するからだ。

見過ごされがちなことだが、ビットコインマイニング機器の歴史はまた、マイニングが数年をかけて、十億ドル規模の業界に進化してきた理由を説明する重要な要素でもある。進歩が減速していることを示す兆候はあるが、マイニング業界は今も進化を続けている。

ビットコインマイニング技術の歴史と、この先を見ていこう。

CPUマイニング

ビットコイン・マイニング難易度の推移と新技術の登場時期
ビットコイン・マイニング難易度の推移と新技術の登場時期
出典: “The Evolution of Bitcoin Hardware” by Michael Bedford Taylor (University of Washington), CoinDesk Research

ビットコインの匿名の生みの親、サトシ・ナカモトは2009年1月3日、最初のビットコインブロックをマイニングした。当時、ビットコインネットワークの唯一のマイナーとして、ナカモトはビットコインブロックチェーンをローンチすることに、特別な機器を必要としなかった。普通のパソコンを使ってビットコインブロックを生成することができた。

インターネットの閲覧、ワードやエクセルなど無数のアプリケーションの実行に使われるコンピューターは、すべて中央処理装置(CPU:central processing unit)と呼ばれるものを搭載している。CPUは、コンピューター上のコマンドがどのように処理され、実行されるかを管理している。

ビットコインの初期にはマイナー間の競争がなかったため、新しいブロックを生成し、マイニング報酬を獲得することに必要だった演算パワーはパソコンのCPUで容易に処理できた。

新しいマイナーがビットコインネットワークに加わり、ブロック報酬をめぐって競い合うようになるにしたがって、新しいコインをマイニングするために必要なハードウエアは徐々に進化していった。

GPUおよびFPGAマイニング

GPUマイニングマシンの内部
GPUマイニングマシンの内部
出典:DMG Blockchain

ビットコインマイニングのハードウエアにおける最初の大きなイノベーションは、ビットコインの市場価値が確立された直後に起きた。

2010年5月22日、プログラマーのラズロ・ハニエツ(Laszlo Hanyecz)氏は、パパ・ジョンズ(Papa John’s)のピザ2枚に1万ビットコインを支払った。当時、1ビットコインは約0.0041ドル、つまり1万ビットコインは約41ドルだった(現在、1ビットコインは約83万円、1万ビットコインは83億円を超える)。

暗号資産データを提供するコイン・メトリックス(Coin Metrics)によると、ビットコインの市場価値はハニエツ氏がピザ2枚を買った後上昇して、7月には約8セントとなった。ビットコイン価格が2010年10月に10セントに達する頃には、画像処理装置(GPU:graphics processing unit)を使った最初のマイニング機器が開発された。

CPUとは異なり、GPUは限定的な演算タスクを実行するために最適化されている。もともとゲームアプリケーション向けに開発されたGPUは、数千の画像画素を生成するために単純な演算を並行して行うことに優れている。GPUはまた、新しいビットコインをマイニングするために必要なことなど、他の演算のためにプログラミングし直すこともできる。

マイニングコンサルティング企業ナビエ(Navier)のジョシュ・メトニック(Josh Metnick)CEOの分析によると、GPUでのビットコインマイニングは、ビットコインブロックの生成とブロック報酬の獲得の効率は約6倍アップした。この効率性の向上に対して、平均的なGPUの価格は平均的なCPUのわずか2倍程度だった。

だがGPUによる効率性の向上は2011年、FPGA(filed programmable gate array)もビットコインマイニングのためにプログラムし直されたことによって、すぐにその影が薄れた。

メトニックCEOの計算によると、FPGAはビットコインマイニングに必要な演算を、最も高性能なGPUよりも2倍のスピードで処理できる。しかし、FPGAの設定はより労働集約的だ。

FPGAは、ソフトウエアとハードウエアの両方の設定が必要、つまり、FPGAはカスタマイズされたコードを実行するようにプログラムする必要があり、また、そのコードを効率的に実行するよう構成する必要がある。

FPFAのハードウエアを調整する能力こそが、FPGAをGPUよりもビットコインマイニングに適したものにできる。

ASICマイニング

誕生から5年までのビットコイン価格の推移
誕生から5年までのビットコイン価格の推移
出典:Coin Metrics

ビットコインマイニングにおける3つ目の大きなイノベーションが成し遂げられるにはおそらく、最も多くのリソース、時間、開発が必要だった。既存の機器のソフトウエアやハードウエアを別の目的に使うのではなく、ビットコインマイニング専用に、完全に新しいマシンを作る努力がついに実った。

2013年、中国に拠点を置くコンピューターハードウェアメーカー、カナン・クリエイティブ(Canaan Creative)は、ビットコインマイニングのための初の特定用途向け集積回路(application-specific integrated circuits、いわゆるASICをリリースした。

ASICは、CPU、GPU、FPGAとは異なり、最初からビットコインマイニングのために設計されている。つまり、ASICのハードウエアとソフトウエアの構成要素はすべて、新しいビットコインブロックを生成するために必要な演算を実行するためだけにあらかじめ設計され、最適化されている。ASICによる効率性の向上は、以前のより一般的な目的向けのデバイスによるものとは比較にならない。

カナン・クリエイティブは初のビットコインASICメーカーだったが、ビットメイン(Bitmain)やマイクロBT(MicroBT)といった競合他社もより先進的なハードウエアを備えた新しいビットコインマイニングASICを発表した。

2013年以降のASICマイニング技術における最も注目すべき進歩の1つは、チップサイズの着実な縮小化だ。2013年に130ナノメートルでスタートしたASICチップのサイズは、最新モデルでは7ナノメートルにまで大幅に縮小した。

チップサイズが重要なのは、マイニング効率に影響するからだ。ASICチップの表面積が大きければ大きいほど、通信経路が大きくなり、そのためにデータ送信に必要な電力量もより大きくなる。メトニックCEOの計算によると、現在のビットコインマイニングASICのスピードは、2009年の平均的なCPUの1000億倍にのぼる。

イリノイ大学の電気・コンピューターエンジニアリングのラケシュ・クマール(Rakesh Kumar)准教授は、ビットコイン誕生以来の数年来のマイニングハードウエアの進化を促した強力な要素は、ビットコイン価格の上昇だと考えている。価格上昇によって、マイニングはより儲かる活動になっていった。

ブロック報酬の市場価値が高ければ高いほど、運用コストを減らしながら、マイナーの利益を高めるマイニング技術におけるイノベーションの報酬も大きくなる。

ビットコインマイニングの未来

ビットメインのアントマイナーS17 Pro
出典:Navier

2015年以降、ビットコインマイニングASICのチップサイズの縮小は、2013年や2014年よりもペースが落ち、劇的なものではなくなっている。さらに、最初のビットコインマイニングASIC以降、CPUからGPU、GPUからFPGAと進化したような、マイニング効率を飛躍的に向上させる新技術は登場していない。

「我々は、根本的な限界に達しつつある」とクマール氏は述べた。

「(ビットコイン)マイニング業界だけでなく、半導体業界全体の問題だ。(中略)新しい種類のデバイスが必要だ」

根本的に画期的な新技術がなければ、ビットコインマイナーはまもなく、過去10年とは違って、ハードウエアや装置をベースに競い合う機会がなくなってしまう。ビットコインマイニングハードウエアがコモディティ化し、新モデルによる効率性の向上がわずかなものになってしまえば、マイナーは競争優位を得るために他の分野を検討することを余儀なくされる。つまり、エネルギー調達、財政計画、商品の多様化におけるイノベーションなどだ。

ビットコインマイニングハードウエアの進化は、歴史的に大幅なマイナー効率の向上の源だったが、特にハードウエアをベースにした技術的イノベーションが非常にまれなものになれば、将来は違ったものになるかもしれない。

ビットコインマイニング報酬をめぐる競争は、技術的進化を促進し続ける。しかし、次の大きな飛躍がどのようなものかは、わからない。

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:DMG Blockchain
原文:The Rise of ASICs: A Step-by-Step History of Bitcoin Mining