【新型コロナ】ブロックチェーン支出は減速も影響は一時的、「政治プロセスにも変革」──欧州【IDC調査・予測】

新型コロナウイルスの感染が拡大した影響で、欧州ではブロックチェーン関連支出が減少する──。アメリカの調査会社IDCが実施した欧州ITバイヤー・センチメント調査の結果で、企業がIT関連コストを削減する意向であることが分かった。

IDCは欧州のブロックチェーン市場について、2020年に14億ドル、2023年までのCAGR(年平均成長率)が58%と成長を予測していたが、2020年の支出は前回予測より約8%減少すると指摘。ただし、こうした減速は一時的なもので、回復過程においてポジティブな影響が出るとも述べている。

「回復の過程でブロックチェーンエコシステムはより強固なものになる」

IDC欧州ブロックチェーン・プラクティスの共同責任者、カーラ・ラ・クローチェ氏は発表で、「パンデミックとロックダウンは多くの産業にネガティブな影響をもたらした。テクノロジー関連の消費については著しい減速が予測される。なぜなら企業の投資、緊急の支出かどうかの優先順位付けが止まるからだ」と理由とともに指摘した。

さらに、「顧客の需要が減少し、サプライチェーンが崩壊、リモートワークが広がったことから、多くの企業がイノベーティブなプロジェクトを保留している。それにはブロックチェーンも含まれており、将来がハッキリするまでそれは続く」と予測を披露した。

こうした状況からブロックチェーンのアダプション(受け入れ)は減速するものの、「サプライチェーンの信頼性、透明性、商品の追跡可能性にブロックチェーンが与える利益を考えれば、ブロックチェーン投資は、2020年は一時的に下がるだろうが、パンデミックが落ち着けば早々に回復するだろう」とポジティブな見方も示した。IDCはまた、その回復が欧州のブロックチェーンエコシステムを強化するとも予測している。

発表でIDCは、消費者向けサービス、製造、装置産業、ユーティリティ、通信、金融セクター全体などの落ち込みが深刻なことから、すべてのマーケットで消費が落ち込むとして、予測を下方修正。コロナウイルス以前の予測と比べても、2019-23年のCAGRは3%以上下がるとしている。

ただし、コロナウイルスとの戦いと、回復の過程で前向きな影響もあると指摘。イノベーティブなユースケースが、ブロックチェーンがもたらす利益をより幅広く示すとの見解を提示している。

クローチェ氏と同じ共同責任者であるラドスラブ・ドラゴフ氏は「コロナウイルスがブロックチェーン産業に試練を与えているが、それは同時に、複数の産業で現状の課題にフォーカスを当てることになり、新たな機会を創出することにもなる」とコメントしている。

ブロックチェーンがコロナ禍の医療・政治プロセスに変革をもたらす

IDCは発表で、ブロックチェーン技術が与える影響に言及した。

まず医療分野では、ブロックチェーンは、患者データの効率的な収集と照合、ソーシャルディスタンスが取れているかどうか図るための動向のモニタリングに(患者のプライバシーを守りながら)利用できるとした。

次に政治プロセスへについては、特に選挙と投票に影響があるとした。IDC EMEA(欧州・中東・アフリカ担当)のモハメド・ヘフニー氏は「伝統的なプロセスでは、政治家、投票する有権者、関連するサービス事業者すべてをリスクにさらす。ブロックチェーンを活用したモバイル投票アプリを使うことで、そのリスクは避けられる」と評価している。

その上で、これまでの電子投票の試みでは、セキュリティに関する心配が広がっていたが、ブロックチェーン技術はその多くを緩和するとした。とはいえ、最も大きなハードルとして、デジタル技術を投票に使うことへの懐疑的な見方は残るし、まだ信頼はされないだろうとの指摘することも忘れなかった。だが、現在の状況が、欧州全体において電子投票を広げる新しい勢いをつけるとも指摘している。

文・編集:濱田 優
画像:sdecoret / shutterstock.com